7話 変~~~身~~~!!
「......起きたか?」
「......ああ。」
なんか、この世界に来てからというもの、気絶するのが多くないか?まだ、ここに来てから数日と経っていないのに......。でもアレだな。目覚めた時、美少女が目の前にいるのは悪くない。うむ。
「ちょっとあのジジイ何処だ。ぶっ飛ばさなきゃ気が済まん。」
「......な!?死にたいのか!白髪の鬼神にケンカを売るなんて、自殺行為だぞ!」
え?あのジイさんそんなにすごい人だったの?意外だな。まぁ、身からあふれる気高さと余裕な感じはすさまじかったけどな。
「だが、さすがに言い過ぎじゃないか?強いとは言っても、爺さんだぞ?」
「バカ!あの人が一人で動いて、この国を救ったという実績があるんだぞ!」
「はぁ!?何かの間違いだろ!?だって、この国って、この大陸全土を支配してる大国家なんだろ!?どうやったらそんなに大きい国を一人で救えるんだよ。」
「......とにかく、凄い人なんだよ。」
凄い人ってえらく抽象的なもんだな。......まぁ、やったことがデカすぎて、抽象的に表した方が分かりやすい......っていうか、抽象的にしないと訳がわかんないんだろう。
「あ、アレだな。ぶっ飛ばすのは強くなってからにしよう」
「そうした方が良いな。今のままでは、ただめりょめりょにされて死ぬだけだ。」
「......めりょめりょ?」
「......ああ。このあいだ、ある酔っ払いが陛下の悪口を大声で言いながら、歩いていたんだ。」
「......?ああ。」
その話と、白髪の鬼神がどう関係してくるのだろうか。まぁ、せっかく話し始めてくれたんだ。黙って聞いておこう。
「それで、その酔っぱらいは次の朝に路地裏でめりょめりょになっているところを発見された。」
「............。」
怖ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!何その話!まさか、まさかだと思うけど、もしかしてそのめりょめりょにしたっていうのが......って、めりょめりょってなに!?あまりにも当然のように話を進めるから突っ込めなかったんだけど、めりょめりょって何なんだァ!?
「私も場に居合わせたんだが、酔っぱらと私たちが鉢合わせた瞬間、勝手に酔っ払いがぶっ倒れたんだ。で、そのあと一気にめりょめりょになった。」
「......で、その私たちってのは」
「私と、白髪の鬼神よ。」
「こ、こえぇぇぇぇぇ。」
駄目だ。逆らっちゃいけない存在は、居たんだ。この世には絶対に逆らってはいけない人物が、居たんだ。
「ところで、体はどうだ?」
「あァ、大分いいよ。......それにしても、妙な気分だな。」
俺は、自分の浅黒くなった体を見下ろす。張りのある肌。胸に着いた二つの山。腰にできたくびれ。どう見ても、女になっていた。
「はぁ。どうしても、目の前の参考が女なんだ。やっぱりこうなっちまうよなぁ。」
「そうだな。男のダークエルフを見れば変身できるかもしれないが、今のままでは.........」
「ってーか、これダークエルフの特性なのか?めっちゃ目が良く見えるんだが。」
自慢ではないが、俺は結構目が悪い方だ。こっちに来てからは外してるけど、コンタクトだってつけている。それなのに、裸眼でこの見えやすさ。絶対にダークエルフの特性だ。
「ああ。他に、弓が得意だったり、調合が得意だったり、研究が得意だったり。魔法は苦手な代わりに、剣が得意だったり。あ、あとスキルは結構習得しやすい。」
「へーえ。スキルか。スキルって、どうやって習得するもんなんだ?」
「ああ、スキルは、頑張ってれば習得できるもんなんだ。っていうのも、習得方法があればそれをなぞればいいんだが、なかったら自分で探りながらやるしかない。自分で考えて、正解にぶち当たったらスキルが習得できる。」
そんな大雑把な。
「なるほど。じゃあスキルが習得した瞬間、それを自覚することはできるのか?」
「相変わらず目の付け所が記憶喪失とは思えないな。ああ、バッチリ自覚できる。さらに、熟練度もどれくらいか大雑把にわかるぞ。まぁ、正確さを求めるなら【鑑定】スキルを習得した方が良いかもな。」
「なるほど......で、スキルの中には、身体能力を上げるような、常時発動する者もある......か?」
「はぁ~。私はもう驚かないぞ。もうツッコミもしないぞ!そうだ。ある。筋力を上げるものや、魔力を上げるもの。防御や、魔法威力を上げるものも。調合確率なんてのもあったっけ?」
なるほど。やはりあったか。......まるで、ゲームみたいだな。だとすると、もしかすると。あの......ああいうスキルもあるかもしれない。
「だとすると、痛覚無効なんてスキルも......」
「......!あるかもしれない。だが、こればっかりは習得方法が思い浮かばないな。図書館にでも籠って、調べるしかないよ。」
「ああ、助かる。本当に、迷惑をかけるな」
「何を言っている。目の前であんなに苦しんでいたら、夢に出てくるからね。」
「ああ。俺も、あんな痛い目見るのはもうごめんだ。」
痛いなんて言ってるけどもうアレだぞ。痛いなんてもんじゃねーぞ。骨は粉々に砕けて粉になって、肉はぐじゅぐじゅに溶けて沸騰しているって位いてえんだ。
「そうだね。変身する際は骨や筋肉、細胞を一から作り変えるらしいからな。相当な痛みを伴うのだろう。もともとの細胞なんて、無くなるんだからな。」
「......それ、元の俺の要素が全部なくなってるってことじゃねーか。俺、変身するたびに死んでるのか。」
「そうだね。変身するたび新品の細胞になるんだ。実質、変身するたびに生まれ変わっているようなものだ。細胞分裂の限界も、関係ないんだろう。」
「実質、不老ってことか。自らの意志で老いることもできるが、老いようとしない限り若く生き続ける。」
全くよ。俺、不老不死になっちまったのかな?でも、アレだな。地球では、不老不死の人間は、周りの人間が老いるのに老いず、死んでいくのに死ねず、不幸って言うことだ。だが、俺は自分の意志で老いることもできるし、自分の意志で死ぬこともできる。......これ、アレだな。制御しないと、俺寝てる間に死ぬかもな。でも、不老不死つっても、『攻撃を食らった際に即死せずに、うまく逃げてすぐに追っては来れない場所で、痛みに耐えて変身した』場合には傷が治るから不死だが、一撃で体全体を消し飛ばされたり、首を刎ねられたら間違いなく死ぬだろう。なんつー高難易度。
「でもよく知ってんなそんなこと。もしかしなくても、調べたんだろ?」
「ああ、お前が寝ている間にちょっとな。でも、友達のためだからな。......私が最初にできた友達なんだろ?」
「あ......?アハハ、なんか恥ずかしいな。俺、そんなこと言ったっけかぁ。」
いつそんな恥ずかしいこと言ったっけ。あ、あの時か。あのケガしてる時の......うん。その時だな確か。確か、あの時に言ったはず......?あの時......?ああああああ!?!?言っちゃってんじゃん!この世界に来てからって言っちゃってんじゃん!
「で、あの時のことで、聞きたいことがあるのだが......この世界でって」
「後で話す。ちゃーんと誰も見ていないところで。......重要な話だからさ」
「ああ。解った。」
「で、なんだけどさ。俺、いま魔族じゃん?姿かたちだけじゃなくて、顔から髪から皮膚から筋肉から骨から細胞まで、全部。中身まで。」
「ああ。言い方は気持ち悪いが、完璧に魔族だな。」
「それに、女だ。」
「ああ。」
ここまで言ったら、モン〇ンでネカマかました強者なら理解しているだろ?そう、女用装備だ!俺には女用装備がない!いや、見てくれじゃない。この、大きな胸を収納するための鎧の窪みがあったりなかったりで大分違うんだよ。鎧は鋼鉄だからね。胸が圧迫されると苦しいし、戦いづらい。
「なるほど。そう言えば、お前は女用装備を持っていないな。だが、なぜ......これからは女に変身しなければ良いじゃないか。」
「バカを言うな。つい昨日も言ったろ?今は戦時中だ。女は役に立つってな。」
「お前、敵地に潜り込むつもりか。」
「ああ。秘薬の効果なら、人間の女になることも可能だ。バッチリ変身できる。」
「......はぁ。その時は、私も付いていくぞ。捕虜のふりをしてでもな。」
「......短い付き合いだが、もう言っても聞かないやつだってのは理解してる。わかった。そうしろ。」
ふ。だが、頼りになる。だって、こいつの階級は将官なんだろ?だったら、実力もかなりのものに違いない。そもそも、女以外になりたくともコピーする男が居ない。そして、白髪ジイにはもう断られてる。
「......それにしてもアレだな。伸び縮みに余裕がある服を着ないと、胸が苦しいな。」
「......私は余裕のある服を着ているが、確かに辛そうだ。後で服も探すとしよう。」
今、俺はジーンズにチェックのシャツを着ている。その上からフード付きのマントを着せられている状態だ。起きて気付いたのだが、完璧にシャツの胸の部分のボタンがはじけ飛んでいた。......いやぁ。アレですな。巨乳って大変。ごめん、昨日巨乳をバカにして。