6話 今日は秘薬摂取日和だな!
皆さんも、インフルエンザのクソ苦い薬に苦しめられたことはあるんじゃないんですか?私は、小学生の時にそれで吐きました。嘔吐です。もう、堪える間もなく反射的に、自動的に吐きました。オートです。
本編始まります。
「だから.....大人しくしろといっただろう?」
「や、俺じゃねーだろ。」
「お前のスケベオーラに充てられたんじゃないのか?」
「それでなんでこんなに悲鳴上げて逃げるんだよ!っていうかスケベオーラってなんだよ!」
「むぅ。早速偽りを混ぜ込んでみたのだが。」
「偽り!?お前、騙すつもりねーだろ!」
そう、装備を買おうとして市場に来たところ、何やら周りで何かがあったらしく、民衆が逃げ惑う......っていうか......とにかく、なにかトラブルがあったらしい。
「......見に行くか。」
「そうだな。この騒ぎのせいで、俺らに何か飛び火が来ても困る。」
これのせいで、偶然肩がぶつかってフードがずれて、いやーにんげんよー何てなったら、俺はもう悔やむに悔やみきれないほど自分を殴る。
「ここら辺......だよな。って、何だこの人たち。」
「騎士団だな。この国の、平和を守る兵だ。」
「お前も?」
「ああ、と言っても士官がちがう。私は将官だからな。」
「......将官!?お前、それってスゲーんじゃねーのか!?」
将官っつったら大将だのなんだのって聞いたことがあるぞ。良くは知らないけど。
「そうでもないさ。......みろ。どうやら、この騒ぎを起こしている奴は人間のようだ。」
「......人間が?」
「ああ。もう少し近づくぞ。」
「オラァァァァァァっァァあぁぁぁ!動くなァァァァァァ!家族を......魔族に皆殺された恨み、晴らさせてもらう!貴様ら魔族は、害悪でしかないィィィィィィ!」
「なんだあのヒャッハーは。立派に世紀末してんじゃねーか」
「......人間は、大抵魔族に対してああいう感じだ。というか、今は世紀始めだぞ」
「もしかして、人間って相当頭わるい?」
「いや、魔族と人間との間に深い憎しみがあるだけだ。魔族の人間に対しての感情もあんな感じだ。」
......これが、人間?おかしいんじゃないのか?家族を皆殺しにされた?俺は、そこまで家族といい関係を築けていたわけじゃないからあれだけど、家族を皆殺しにされたからって、他の人を殺していいはずがない!
「......っちくしょう。俺、『俺にとって【人間】は悪口になりえない』って言ったよな。」
「ああ。」
「だめだ。俺は人間であることを、今恥じている。」
「......お前は、記憶がないんだろう?仕方ないさ。お前も、記憶を取り戻したら......」
「二度と、そんなこと言うな。記憶を取り戻しても、俺は俺だ。」
「......ああ。」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!魔族うゥゥゥァァァァァァァあああああああ」
「まずいっ伏せろ!」
「待てっ!」
止めようと近づいた俺たちを見て起爆スイッチを押したらしい人間は、一瞬で爆ぜた。近くにいた俺たちを巻き込んで。
ぼんやり。ぼんやりと聞こえる。何か、何かが聞こえてくる。......人の、声だろうか?人の、俺を呼ぶ声?
「おい、しっかりしろ!起きろ!」
「おう。なんだ。......がッ!?」
呼ばれて勢いよく起き上がった俺は、背中に焼けるような痛みを感じてのけ反る。そうだった。文字通り、焼けたんだった。あの爆発、あの犯人が言うように一キロも範囲は無かったものの、火薬はそれなりに使われていた。その火薬量の爆発を、直に浴びてしまった。
「なぜ......何故お前は私を庇った!?」
「バカか?......言ったろ。好意を抱いているって。......気が付いたら、体が勝手に動いてたんだ。......この世界にきて、初めてできた友達だ。死なせるワケにはいかね-じゃね-か。......たとえ、自分の身を犠牲にしてでも護りたい。......そう思っちまったんだ。」
「あれほど気を付けるようにと言ったのですが、まったく。」
調達を終えたらしい執事が、横になっている俺の傍で愚痴っぽくつぶやく。しかし、その言葉にはどこか心配するような面が隠れているような気がしないでもないかもしれない。
「ど、どうすればいい?このケガだと長く持っても二日だぞ?」
「ええ。ですから、今すぐに秘薬を飲んでいただきます。通常身体に振りかけることで速攻で能力を手に入れられますが、その効果は一週間に限定されます。しかし、飲むことにより、効果が永続するようになるのです。」
「その薬とケガに何か関係があるのか?放っておくと、本当にコイツ死んじゃうぞ!?」
「大丈夫です。どうやら、傷を受けた後変身すると細胞再生とやらで傷が治るのです。しばらくはその姿のままでいる必要があるのですが。」
細胞再生?こりゃまた大層な名前が出てきたもんだ。これって、中世の時代設定だよな?
「とにかく、その薬をくれ。早くしないと死にそうだ。」
「......では」
横になった俺の頭を、ゆっくりと傾けて薬を飲ませてもらう。......うん。この状況、マジであれだな。恥ずか死しそうだ。いや、ふつうにオッサンに薬飲まされてるだけなんだけどね?だけどね?でもね。こうやって、すっごい紳士的な渋カッコいいおじ様にやられると、恥ずかしいんだよ。ただのオッサンだと加齢臭でうってなるけど、このオッサン、良い香りがするんだよ。香水付けてんのか?......言っとくが、俺はノーマルだ。普通に女の子が好きだ。
「それで、ダークエルフのコイツに触れてください。すれば、ダークエルフに変身できるようになるはず。」
「よし、タッチ。」
「お、おい!触れるときには一言断ってからにしろ!」
「そんな時間ねぇよ!」
で、変身後の姿を意識すれば、変身できると。......よし。
「変......身!」
「あ、良い忘れておりましたが、口から摂取した副作用で変身時には激しい痛みが伴いますので、気を付けてください。」
あ......?今、衝撃的な言葉が聞こえてきた気がするのだが、気のせいだろうか?
「グガァァァアアァァァァァァっ!?あ......ガぁっ!!!死ぬ......死ぬ......」
「お、おい!死ぬって言っているぞ!?大丈夫なのか!?」
「安心してください。死にそうなときは死ぬなんて言えませんから。」
「全く安心できないんだけど!?」
い、痛い......!気を失いそうなくらいにイタイ。ぐ......がぁっ......
「あがががっがががががっががっがががっが..................」
「なぁ、泡吹いて痙攣してるぞ!?本当に大丈夫なのか!?」
「だ、大丈夫です。大丈夫だと思います...........多分。」
自信なくしてんじゃねーか!?おい、本当に意識がもうなくなりかけてんだけど!?涙の奥に、自分の背中が見える気がするんですけど、もしかして俺、幽体離脱しかけてね!?
バキッ......メキメキメキ......ミリっ......。
「なぁ、すんごい音が体内から聞こえてるけど、大丈夫か!?」
「............ダメかもしれないですね。」
諦めんなよ!?なんでそこで諦めた!?まだ自信をもって大丈夫ですって言ってれよ。じゃねーと俺の心がぽっきりしちゃうだろうが!あ、体中の骨はバッキバキですがね。ってやかましいわ!
メキ、メキメキ......みしっ......
「あ、ああ......がぁっ」
「音が治まった?」
「心音は止まってしまいましたかな?」
「ふっ、不吉なことを言うな!......止まってないよな?」
......お前ら、本人の目の前で変なこと言ってんじゃ、ねーぞ。あ......やば。意識が......飛びそうになる......。
『お、おい!コイツ、白目向いてるぞ?』
『ええ、そのようですな。......ダメかもしれないですな。実は、口から摂取した例は今回が初なのです。』
おい。初めてだったのかよ。想像は付いてたけどさ。だって、国宝級の秘薬なんだろ?だったら、本来の用途である、かける以外の口から摂取は例は当然なくて、その口から摂取した際の効果の違いは、タダの仮説なんじゃないかって。
『ああ!?なんかコイツ口パクパクさせてるぞ!?息できてないんじゃないのか!?』
『アレですな。恐らく食べ物が欲しいんでしょうな。......ここに、先ほど購入した、ブラックヒッポのフンがあります。』
『え!?これを食べさせるのか!?良くなるのか?』
『ええ、きっと良くなりますとも。』
なるワケねえだろ!?何口にくわえさせてんだ!腹減ってるけど、飯食いたいわけじゃねーし今それどころじゃねーし!......あ。本気で......やばい。
『あああ!?吐いたぞ!?コイツ、黄色い液体吐いたぞ!?』
『これはもうダメですね。諦めましょう。』
バカヤロ-。人の体で遊ぶんじゃねーよ。コノヤローどもめ。