55話 なーにか大切なことを......忘れてる......ような?
サブタイトルが長いので、ツイッターの更新報告とは異なる場合があります。
「ふぅ。得も言われぬ充実感」
「だね」
「焼きそば食べたくなってきた」
「あ、向こうの屋台で売ってたよ、ナツキ」
「あ、ゼルド買ってきてー」
「なんで俺やねーん。教官、買ってきてくださーい」
「なんで私やねーん。人数分のお金出すから、ナツキ買ってきてー」
「解ったー」
買うお金をくれるって言うなら、話は別だ。喜んで、足を動かそうじゃないか。お腹減ったし。
「ほぇー。おいしそうなソースの匂い」
「嬢ちゃん、焼きそばかい?」
「はい!ソース焼きそば四人前ください!」
「おお、ちょっと待っときな!」
私の注文を受け、麺をソースと絡めて焼き始める店主さん。それを見ながら、考える。やっぱり、こういう前世にもあった食べ物って、転生者が考案してるのかな?だとしたら、私以外にも転生者がいるかもしれないってことか。期待半分恐怖半分ってとこかな。転生者が同じ地球出身かもわからないし......もしかしたら、地球ともここともちがう世界、もしくはちがう星から転生した人かもしれないし。
「ほい、お待ち!」
「わぁ、美味しそう!じゃ、お代ね」
「よーし、じゃ、コイツはおまけだ」
「え、いいの!?」
「まぁ、試作品だしな。試作品が売れるようになったら、店を大きくして王都に出店すっからな。お客さん第一号になってくれよ」
「任せといて!その時には私もAかB級の冒険者になってるから、たらふく食べていっぱい宣伝してあげる!」
「はっはっは!期待しないで待ってるよ!じゃ、またな、嬢ちゃん!」
「バイバーイ!またどこかでー!」
いやぁ、やっぱり、こういうの良いよね!屋台のおっちゃんとの交流、違う町の人との交流。旅行先で知り合いを作って、仲が良くなって。素敵じゃん?旅の魅力の一つだと思うんだよね。旅先の人と、仲良くなるってね。うん。あんま旅行と化したことないけど。前世は勉強ばっかりで、旅行なんて小~~~さい時に一度、京都に行ったっきりしてないからね。その時も、母の仕事の関係だったし。なんだっけ?デザイナー関係の仕事だったはず。
「いや~人のよさそうなおっちゃんだったなぁ。そう言えば、試作品って何の事だろうな」
「おー。ナツキ、帰って来たか」
「お帰り、ナツキー」
「お釣りは返せよー」
「ただいま。はい、お釣りと焼きそば」
リーナにお釣りを返し、みんなに焼きそばを配る。一斉にパックを開けると、辺りにソースのいい香りが漂いだす。う~ん、暴力的なにおい。この香り、ダイレクトにお腹に響く。とても、お腹がすいてきた。唾液も口の中いっぱいに溜まって......もう、我慢できない!
「いただきまっす!はふ......美味しい!」
「もふっ......ズルっはふっ......」
「ゼルド、いただきますぐらい言ったら?」
「ふぃははひまふ。ずぞっ......」
「よろしい。私の奢りだ、教官のお金で食う焼きそばはうまいだろう?」
何だその言い方。なんだか感じ悪いよ、リーナ。だけど......味は変わらず
「最高ですっ、リーナ様!」
「おいしいです、教官」
「有難うございます、リーナベルド教官!」
「うむ。では、私もいただくとするか......いただきます。うん、美味しいな」
変わらず最高においしい。このチープな感じが良いんだよね。この、ソースの中毒性というか、なんというか。この麺の弾力とソフトな感じとか。どうしても、恋しくなる時があるんだよね。
「でも、こうなってくるとあれが欲しいね......」
「アレって?」
「アレだよ、あれあれ。エールだよ、エール」
「ああ、エールね。私、アレ苦手なのよ。お酒なら、フルーティーなワインかな」
「エールか。地味に今まで飲んだことなかったな。俺も、ワインとかカクテルとかしか飲んだことないな。エールって、苦いんだもん」
「私も、エールはあまり好きではないな。私はやはり、甘みがあって度数が高いテキリラが一番好きかな。少量で酔えるというのが気に入っている」
「テキリラ?」
何のことかサッパリ分からなかったけど、しばらく考えるとようやく理解することができた。たぶん、テキーラの事だ。たしか、テキーラって甘いんだっけ?聞いた感じだと、苦くて辛くてノドが痛くてとても飲めたものじゃないとか言ってたけど、本場のテキーラは違うのかな?前気になって調べてみたら、なんか製造過程で糖分の含有量が決まるらしい......?よくは知らないけどね。でも、本場のはおいしいとか、甘いとか、思ったよりも飲みやすいとか言われると飲みたくなってくるよね。おいしそう。
「私も、気になってきたな、それ」
「確かに、味にうるさい教官が言うならちょっと気になってくるかも」
「俺はちょっと厳しいかもな。むかし、度数の高い酒をジュースと間違って飲んでえらい目にあったんだ。ちょっとトラウマでな」
「へー。今度、飲ませてよ、リーナ」
「ん?いいぞ。」
「私も、おすすめのエール持ってくから」
「いや、それは......」
「エールも、苦いのばっかりじゃないんだよ?とっても甘くておいしいエールもあるんだから!」
「ほ、本当か?ナツキがそこまで言うなら飲んでみようかな......」
因みに、この世界での飲酒は18歳から可能だ。もちろん、私も18歳。といっても、六月になったばっかりだけど。もう、この世界に来てから4か月とちょっと経つからね。高校二年生の最後らへん......三月にこの世界に来て、もう七月十何日。梅雨が、もう少しで終わる。もうちょっとで、本格的な夏の始まりだ!だからこそ、もう少し後で海に来たかったな......
「美味しかったぁ」
「うん、美味しかったね」
「本当に、有難うございます、リーナベルド教官......」
「うむ。みんな、満足したようだな。奢った買いがあったというものだ。だが、何か忘れていることがあるんじゃないか?」
「なにか、忘れていること......」
「言われてみれば、何か忘れているような?」
「いや、確かに何か忘れているような......?なんだったっけかなぁ」
何か忘れてることあったっけ?いやでも、確かに何かを忘れているような気がしなくもない......かも?だめだ。全然思い出せない!
「忘れてることって、なんだったっけ?」
「みんな、おっちょこちょいだな。仕方ない。私が教えてしんぜよう......」
「なんだっけ、忘れてたことって。もう、この辺まで出かかってるんだけどなぁ」
「何だろうね、私も、思い出せないよ」
「何か、大切なことを忘れているような......」
「ナツキ、焼きそば屋の店主から、何か預かってるんじゃないか!?」
「あ!」
「「「試作品!」」」
「その通り!」
「そう言えば、そうだよ!なんでこんな大切なこと忘れてたんだろう!」
「あれ......?もっと大切なことがあった気もするんだけど......」
「これ以上に大切な事って、何があるのさ!バカなことを言ってないで、ゼルドも試作品食べるよー」
「わーい!」
ゼルドも試作品のことが気になっていたらしく、私のお誘いに待ってましたとばかりに乗っかってくる。それにしても、わーいって。私も言うことあるけど、わーい!って。
「はい、はいっと」
「あ、ありがとうナツキ」
「お、私も良いのか」
「よっし、サンキューな」
「では......」
ごくり。あの見事なソースのハーモニーを作り出す店主が作った、試作品。いったい、どのような味になるのか。いや、一体どのような芸術作品なのか。おもわず、喉を鳴らしてしまう私達。口の中は、ノアの箱舟状態だね。
「「いただきます」」
「「いっただっきまーす!」」
パクリ。
「おお、これは中々!」
「んん!むぐぐ......」
「あ、これも」
「あ、これって!」
「美味しいな!」
「美味しい!」
「むまい!」
「塩ヤキソバだ!」
うん?なんか、私とみんなの反応が違うんだけど。ゼルドとリーナは何となく察しがついてるようだけど、ミルアがヤバみ。ミルアは、こっちの事情を何も知らないから、すんごく変な顔してる。もう、なんかこっちを、『は?いや、あの......は?』みたいな顔で見てるやめてよ、そんな目で私を見るの。照れちゃう///
「塩......ヤキソバ?ナツキ、店主さんにこの試作品の名前聞いたの?」
「いや、聞いてないけど......なんとなく?」
「まぁまぁまぁ。ミルア、ナツキの事だ。どうせ、『塩気があるヤキソバ』ということで、安直に塩ヤキソバと命名したに違いない」
「そうそう、コイツ、めちゃくちゃガサツなところあるからな。保存庫が壊れてるって言っても、腐るまで気づかないのはちょっとな」
「リーナもゼルドもちょっとひどいよ!」
まぁ、必死にフォローしようとした結果こうなってるんだろうけど。......しっかし、分かりやすい。分かりやすいなぁ。もっと、自然な顔で話さないと、怪しまれちゃうよ?ほら、ミルアが『え、なにそのいかにもな反応。え、え......え?』みたいな顔でこっち見てる!絶対何か疑ってるって!
「――――――――あ」
「どうしたの、ゼルド?」
「なんだ?心臓でも止まったか?」
「......」
ナイス、ゼルド!明らかにワザとっぽいけど、結構そっちに気がそれたっぽいぞ!それてなお、ミルアの目は懐疑的な目だけど、でかしたぞ、ゼルド!......ゼルド?
「何か忘れてたーって、俺の恋愛相談じゃ」
「......」
「......」
「......」
「「「――――――――あ」」」




