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50話 事件は執務室で起こってたかぁ

事件は現場で起こる。そう、この場合の現場は、執務室なのです。皆さんも一度は経験したことがあるであろうこの事件。思いっきり共感してください。


本編、始まります!





「執務室」

「「え」」


私たちの驚愕の表情には目もくれず、人の少なくなった冒険者ギルドのなかをずかずかと進んでいくガーツィさん。


「ちょっと、まずくないですか?」

「何小声でしゃべってんだ、ナツキ」

「いくらナツキでも、小声になりますよ!これから、執務室に勝手に入ろうとしてるんですよ!?」

「ミルアもナツキもバカか?約束を破った方が悪いんだ」

「それについてはそうだけど、こういうのってアポイント的な奴が必要なんじゃないの?」

「アポはとってあるだろ?五時に約束したってね」

「それ、ただの口約束なんじゃ」

「権力がある立場にいるものは、自然と言葉や行動に責任がかかるんだ。」


確かに。自分の言動が相手にどう影響を与えるか、考えないと。影響力のある人が下手なことを言ったら、とんでもないことに発展することだってある。たしか、前世でも影響力のある配信者が、台本付きのネタで他配信者と喧嘩するって言うシーンがあって、視聴者にネタだったってことを説明しなかった事で、それぞれの視聴者同士が大げんかになってたね。ネタかネタじゃないかって言うのを判断できない人は、ネットで軽く発言しない方が良いとは思うけどね。


「ということでだな」

「ミッション開始、ですね」

「......そういうことだ。流石ギルシェの教え子。切り替え速いな」

「ねぇ、本当にやるんですか?」

「ナツキも乗り気だろ?一人だけ、乗り遅れてるぞ、ミルア」

「行くぞ......3、2、1」

「しっつれいしまーっす!!!!」


ガチャ!


「Oh......」

「これはすごいな」

「なんで外で話をしたか、解った気がする......」


三人の目に映ったのは、床一面に広がった、白いカーペット。机に広がった、黒いデザイン。う~ん、いいねぇ。中々前衛的な部屋の装飾。いや、ちがくて。床に広がってるのは机から雪崩落ちた、書類の山。机に広がった黒いデザインはインクの染み。


「酷いね」

「ひっどいな」

「あー......あはは。はは......」

「いや待て。机に広がったインクの染み......まだ乾いてない。もしかして、さっきまではこの部屋こんなんじゃなかったんじゃないか?」


そう言えば、そうだ。こぼれたインクとコーヒーはまだ乾いてないし、椅子も、人が座っていた跡がついている。転がってる羽ペンもまだ書けるみたいだ。


「じゃあ、何でこんなことに?」

「大方、副ギルマスに引きずられて戻ってきた後、仕事量に絶望してしくしくしてたら、腕でも当たってインクがこぼれて、それに慌てたらコーヒーと書類の山も崩れた。そんなとこだろ」

「容易に想像できてしまう......」


『なんで私がこんなことしないといけないのー?うぅ、多すぎる。過労死しちゃうよー......あっ!ああ、ど、どうしよ!書類にインクがっ!あああっ!?書類がっ!きゃあっ!......コーヒー............もうやだー!なんで私ばっかりこんな目に合わなくちゃならないのー!』


「でも、何処に行ったんでしょうか?この部屋の中には......」

「どうしたの、ミルア」

「部屋の隅に」

「......?あ」


へやの端っこでも、この部屋のどことも変わらず、書類まみれだった。でも、ここまで書類が行くかな?と。あきらかに、そこだけ盛り上がってる。......人型に。


「......なにやってんだ、クリス」

「ぶえぇ。ガーツィ......」


片手を盛り上がった書類の山に突っ込み、クリスさんを引っ張り出す、ガーツィさん。見ると、泣いていたようで、まだ目が潤んでる。


「うお。どうしたんだ?......まぁ、聞かなくても大体は解るけどな」

「もう、やだよぉ。......つかれた」

「まぁまぁまぁ。俺も手伝うから。なぁ、ナツキ、ミルア」

「え。あ、ああ。まぁね。片付けは得意だから、任せてください!」

「私も、あまり片づけは自分でしたことないけど......頑張ります!任せてください!」

「うぅ。うぅぅぅっ。みんなぁ!ありがとう~私は嬉しいよぅ」


私たちの言葉に感動してか、涙を流すクリスさん。あ~あ。泣いたら、書類が破れちゃいますよ。


「何言ってるんですか。知り合いが大変な目にあってるんです。助けないわけないでしょ」

「ですよ」

「だぞ」

「うぅ。皆が優しいぃ」

「いいから。ほら、立ち上がってください」

「うぅ。ありがとう」

「まだ言ってる。早いとこ片付けちゃいましょ。日が暮れちゃいます」

「そうよね!ええ、そうよね」





「っぁああああ......腰がっ」

「うぅっ。疲れが頭痛に......」

「ふにゃぁ......眠いぃ......」

「みんな、お疲れさまです。今日は、私のために掃除に付き合ってもらって、本当にありがとう。」


執務室の奥に備え付けられてる給湯室から人数分のカップをお盆にのせて持ってくるクリスさん。中には紅茶が注いであって、とても心地よい香りが漂ってくる。


「いい香りですね......あれ?」

「どうしたの、ナツキ?」

「ん?この香り、どこかで嗅いだことがあるような気が......」


この香り、どこかで嗅いだことあると思ったら、私のお気に入りのカフェの香りだ!クリスさんも、あのカフェから茶葉を仕入れてたんだ!やっぱりね。クリスんみたいにできる人なら、もうあの雰囲気がいいカフェのことは知ってると思ってた。


「ああ、この紅茶?これ、あるお店から譲っていただいたの。このお店、ケーキも美味しくて。仕事の合間にいただくと、とても落ち着くの」

「......この香り、あのカフェの香りじゃねーか!」

「なんだ、知ってたの」

「実は、私たちが紹介してあげたんです。そしたら、すごく気に入っちゃったみたいで」

「くっそ......クリスはいいな。こんなうまい紅茶と菓子を毎日食べることができるんだからな」


と、すごく悔しそうに呟くガーツィさん。大人げない。でも、大人(?)なガーツィさんにそこまで言わしめるほど、このお店のケーキとお茶はおいしい。私も、このお店がもしつぶれたら、このお店のシェフを直接雇うどうか、非常に迷うだろう。


「で、水晶だっけ?仕事は片付いてないけど、水晶の準備ならバッチリよ!」

「ありがとうございます!」

「胸はって言えることじゃないけどな」

「でも、水晶を譲ってもらえるなら、私からは文句なしです」

「そうです」

「副ギルマスは文句ありまくりだろうな」


でしょうね。私もそれを言おうとしたけど、疲れてるときに言うことじゃないかなと思って自重したんだけど......ガーツィさん容赦ないなぁ。さすが、大人げない大人代表。


「うっ。でも、この片付いた部屋を見たら許してくれるはず。」

「まさか、副ギルマスも散らかった部屋を見たんですか?」

「バッチリ見られたわ。驚愕したあと、呆れてどこかへ行っちゃったみたいだけど」


たぶん、今ごろどこかでストレス発散してるんじゃないかな?ミルアとかリーナもよくやってるし。リーナ達は訓練とか、魔物退治だけど、副ギルマスさんはどうやってストレス発散してるのかな?ちょっとだけ、きになる。


「......さて、と。うまい菓子も食ったし、紅茶もいただいた。目的である水晶も手に入ったし......俺たちはそろそろ失礼するよ」

「そうですね。もう夜になりますし、ここに居続けると迷惑がかかりそうですし」

「私たちは、これで失礼します」

「......もう少し居てくれても良いのに」


名残惜しそうにつぶやく、クリスさん。クリスさんとは、この三時間ちょっとに及ぶ片付けの時間の中で、とても仲が良くなっていた。個人的に話も合うし、優しいし、気配りも出来る素晴らしい人だと思ってる。だから、私もまだ話して居たいけど、これ以上ここに居続けると絶対に迷惑がかかる。


「またこんど、空いてる日にでもお茶しましょう。私たちは王都住みなので、いつでも会えますから!」

「今日のお茶、楽しかったです。今度は、ナツキと一緒に誘わせていただきます」

「今度一緒に飲みに行こうぜ。クリスの事だ。どうせ、うまくストレス発散出来てなくて溜まってんだろ?」

「みんな......ありがとう」


何かを、堪えようと例だけを言うクリスさん。解る。解ります。申し訳ないと思って、私のせいでとか、迷惑かけてとか思ってるんでしょ?でも、口にしたらまた嫌な気分になっちゃうと思って、口に出せない。ある。ありますよね、そういう事。でも......


「大丈夫。私たちは、迷惑だなんて思ってませんから!友達を手伝うのに、迷惑なんて思いませんよ!」

「そ、そうですよ!私たちは、もう友達です!」

「今更、水くせぇって話だ。何年の付き合いだと思ってるんだ?」

「またっ......また、会おうね!」


彼女は、私たちと友達になれたことが心底うれしいという風に、とてもいい笑顔を浮かべ、そう言った。私も、三人でお茶しに行く日が待ち遠しい。だけど、いつ誘ったらいいのかな?う~ん、これは困ったぞ。





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