46話 おすすめはブルーベリータルトと紅茶
タルトと紅茶って美味しいですよね。
本編行ってみやしょう!
「う~ん......いいねぇ」
「でしょ?ここ、私も重宝してるんです。ゆっくりと、心を落ち着けたいときによく来るんです」
「なんだ、こんな場所知ってるなら、私にも教えてくれたらよかったのに」
......そういえば、ミルアとはここにきたことがなかったな。リーナとゼルドとは来たことがあるけど。
「店の中にひろがる、紅茶の香りと甘い菓子の匂い。落ち着く」
「ガーツィさんは、普段からお菓子や紅茶などを召し上がったりすることはあるんですか?」
「おう。仕事の合間とか、仕事をしながら飲んだり食べたりするな。お気に入りは、クッキーとタルトだ」
クッキーとタルトか。おいしいよね、クッキーもタルトも。だけど、クッキーはちょっと。味はすっごいおいしくて好きなんだけど、軽いトラウマがある。私は、前世でそれなりに菓子作りが趣味だった。休日は、よくプリンやカップケーキを作ったものだ。それで、ある日くっきーも作ろうと思ったのだが、いかんせんバターが足りなかった。クッキーは、バターを大量に消費するからだ。クッキーに使うバターをスーパーで買ってきたのだが、なんと加塩バター。料理に使うのは無塩バター。それからは、ちょっとクッキーは純粋に味わえない。どうしても、その時の記憶が刺激されて、微妙な気分になっちゃうのだ。
「それなら、私がこの店で一番気に入っているタルトを注文しましょう」
そう言うと、手元にある装飾された魔石に魔力を流す。すると、店の奥から店員さんがこちらに来る。
「これは......」
「魔力を流すと、他の魔石に魔力反応が行く装置です」
「そんなものが」
そう。細かい魔力の波......仮に、魔力波としておこうか。細かい魔力派を、放出して、指定した魔石に信号を送る。すると、魔力派を受け取った魔石が反応する。ピコピコとか、ピカピカとか、ピコーンとかピカーンとか。チカチカ光ったりね。
「ここは王都ですから」
「そういうものか」
「そういうものです。王都は広い。頭のネジの外れたヤツもいますから、発展も事故も多いです」
「確かに。でも、最近は少ないわね」
確かに、そうだ。王都には、とんでもない天才ととんでもない天災が居る。だから、発展も事故も他の町や村よりも多いと思う。だけど、最近は確かに少ないね。爆発事故とか、毒とかないなぁ。私が王都に来たばかりの時は、とんでもない話を聞いたりもした。なんでも、昔はゾンビ事件とか腐敗事件とかあったらしいし。語感がすごいね。
「ゾンビ事件とか、有名ですよ」
「あれ、ただの噂じゃないのか」
「当時は、震えあがりましたよ。スラム街にあった、秘密の研究所が発生源だったため、私たちに被害はありませんでしたけど」
「本当の事だったのか。魔族が魔物へと転化するなんて、到底信じられるものじゃないぞ」
「正確には、ゾンビのようになるという物だったらしいです。殺しても魔石は取れませんし。噛まれたら感染するかもは一緒ですけど」
前世での認識は間違いなくゾンビそのものなんだろうね。バイ〇ハザ〇ドと違って、蔓延しきる前に滅菌されてよかったよ、ほんと。でも、この世界でのゾンビは、魔物だ。殺すと魔石が採取できる、ゾンビ。魔物じゃないゾンビは、ゾンビじゃない。だから、ゾンビに似たもの。
「とんでもない脅威だな。しかも、発生がスラムか......」
「感染者数は、とんでもない数にまでのぼったそうです」
「だろうな」
「バイオハザードが発生したとして、経済的な負担が一番少ないスラムに、ワザと研究所を建設したんでしょう」
「そうだろうな。俺でもそうする」
「......」
「勘違いするなよ?俺がもし、そういう立場にあったとしたらの話だ。まぁ、そういう立場はゴメンだけどな」
「私でもそうしますね。そっちの方が損害は少ない」
「驚いたな。てっきり、お前は非難しそうだと思ったのだが」
何を言うかと思えば。私はもともと合理主義者だ。もとより、効率重視。
「私はそういう考えには柔軟ですから。ということで、王都は発展と事故が多いわけです」
「それはもともと知っていたが、最近の発展は少し著しすぎないか?」
「そうですね。ここ二年ほどで急速に発展してるのは間違いないです」
「これも、ここ二年間で開発されたものですし」
美味しいお茶とお菓子のお陰か、ミルアの緊張も大分ほぐれてきたみたいだ。これが、二人きりだったら、もっといい緊張のほぐし方があるんだけどね。緊張は、もみほぐすに限る。もみもみしてあげれば、自然と緊張なんて消えちゃうでしょう。緊張どころじゃなくなってくるからねぇ......ぐへへ。
「な、ナツキ?その手の動き......」
「ん?」
どうやら、妄想の世界にひた走ってしまったことにより、手が無意識の内にうごうごしてたらしい。おお、面白い。訓練すれば、寝ながら行動することもできるかもしれない。え?それってただ単に寝相が悪いだけなんじゃないかって?......そうかも。
「それにしても、この店の菓子と紅茶......」
「......ごくり」
「......っ」
「かなり美味しいな。こんなにリラックスできたのは久々かもしれん」
「なんか、紹介した身としては緊張してしまいました」
「いや、かなり美味いぞ。仕事中も欲しい位だ。これが仕事中もあれば、効率が上がること間違いなしだな」
「夢中で仕事に手がつかなくなってしまうかもしれませんよ」
「だな。こういうのは、時々食うから美味いんだ。そう自分を納得させることにしよう」
ここから結構な距離に住んでるガーツィさんは、口惜しそうに諦める。
「まぁ、私はいつも訓練終わりに食べに来てるんですが」
「ちょ、ナツキ!」
「くっ、羨ましい限りだ」
俺も、冒険者家業を続けていれば。と、落胆した様子を見せるガーツィさん。そこまで、この店のブルーベリータルトを気に入ったのか。なんか、紹介して正解だったとうれしく思う。
「配送とか、この店はやってないんですかねー」
「配送?紅茶はともかく、ケーキとかの配送は難しいんじゃないのか?」
「確かに、茶葉は簡単そうですね。軽そうだし」
「量がかさばるんじゃないんですか?」
「確かに。ぎゅうぎゅう詰めにしてもなんかダメそうだし」
「ケーキは、もっと場所を取りますよ。縦に積み上げることなんて、不可能なんですから」
「そうだなぁ。ケーキの上にケーキを積み重ねる......グッチャグチャだな」
しかも、徒歩で一日と少しかかる道を、ケーキの品質を落とさずに運ぶことなんてほぼ不可能だろう。いや、でも。風の魔石を応用すれば、ある程度まで空間を操作することができるんじゃないかな?時間を止めるとまではいかなくても、空間をある程度まで固定できれば。......ロストルーンがあれば簡単なんだろうけど、今は封印されちゃってるし。
「味も、落ちるだろうしな。そうなったら、せっかくのケーキが台無しだ」
非常に残念そうな顔をしながら、フォークを加えるガーツィさん。形が崩れたら、ケーキが台無しだ。味も落ちてしまうだろう。
「でも、それくらいなら私たちでなんとかなりそうですよ。ね」
「......え?あ、うん?は、はい!」
訓練生の一部が一丸となり、協力し合えば、実現することは不可能ではないはずだ。使うのは、あくまで魔法文字。失われた魔法文字ではない。すでにあるルーンを使い、術式を組むだけ。それさえできれば、遠くへの配送も行うことができる。
「ほ、本当か!?なら、たのむ!それも作ってもらっていいか!?依頼料は出す!特許も、取ってもらって構わない!」
「す、すごい食いつきようですね......!そんなに、この店のケーキやタルトが気に入りましたか」
「ああ。この紅茶とケーキの組み合わせ、凶器と言っても良いほどだ。まさしく、至福の時だ。仕事に戻りたくない」
コラコラコラ。私がギルマスの仕事への意欲を奪ったとかで罰を与えられても困るんだよ。だから、働いてもらわないと。そのためにも、私たちが空間固定魔導具を作ることは確定したようだ。とほほ。




