44話 結末は、意外にもあっさりと決まる
「......ミルルシア、具合はどうだ?」
「......」
「......なぁ、みんな心配してる。顔、出してみないか?」
「......」
「なぁ、ミルルシア......」
「ガーツィ、は?」
「......ガーツィは、家から出てこない。だから、アイツのためにも顔を出さないか?」
「どんな顔して会いに行けばいいの?」
「......」
「マイーロは?」
「......あいつは、ピンピンしてる。怪我なんてなかったように、何ともなかったようにしてるよ。お前のことを、一番心配してる」
「ミルルのせいで、みんな死にそうになった」
「違う!それは違う......俺の、俺のせいだ。俺が、もっとよく把握できていれば!」
「ギルシェ......」
ミルルシアは、何も悪くない。ただ、何も知らなかっただけなんだ。無知は、罪じゃない。時には罪になることもあるが、ミルルシアは罪を犯していなかった。俺が、パーティーの実力をしっかりと把握していれば、ドランクドラゴンの強さを認識できていれば......今回のようなことは起こらなかったんだ。
「行かないか?」
「ゴメン......なさい」
「そう、か」
それも、仕方ない。ミルルシアのせいではないが、ミルルシアがクエストを持ってきた。責任を感じるのも無理はないだろう。自分の考えに籠ってしまっている人は、他の人から何を言われてもどうにも動かない。じぶんで、考えて解決するしかないのだ。考えた結果、悲しい決断をしてしまう事もあるが......。
「たまには少し気晴らしに、外でも歩けよ?」
「......うん。ありがと」
力なく笑うミルルシアが、見てて痛々しい。今にも壊れてしまいそうな、ガラスのような心。吹き曝しになった遺跡の、壁のような、心。少しつついたら一息に崩れてしまいそうだ。
「じゃ、な」
「うん」
バタン
今、ミルルシアは不安定な状況だ。あんなミルルシア、見たことも無い。俺が見てたミルルシアは、いつも自信があって、はつらつとしてて、周りに希望を与えてくれた。だけど、初めての挫折を味わったミルルシアは、今、参ってしまってる。どうしようもなく、参ってしまってる。こういう時は、放っておいた方が良い。自分で、考えなきゃこういう事は解決しない。というよりも、俺が解決させてあげるだけの技術を持ち合わせていない。
さて、次の場所へ向かおう。
「入るぞ」
もちろん、返事はない。いや、普通はもちろんではないのだろう。何かしら、返事が返ってくるはずだ。だけど、ガーツィからの返事は帰ってこない。返事が返ってこないなら、勝手に入るしかない。しばらく扉の前で返事を待った後、家に入る。
家の中に入り、ずかずかと寝室へと向かう俺。やつは、昨日みた時からうごいていなければまだ寝室で丸まっているはずだ。
「ガーツィ」
「......お、俺の存在意義ってなんなんだよ?盾役の俺が、一撃で吹っ飛ばされた。そのまま、戦闘不能になるなんて」
「ガーツィ......」
「なぁ、俺の足って治ってるんだよな?今でも、時々鋭い痛みが走るんだ」
「......」
ストレスや精神的ショックからくる、偽物の痛み。それは、本人には本物のように、もしくは、それ以上の感覚に感じるという。
「パーティーが壊滅したのは、俺のせいだ。盾役の俺が、耐えられなかった。それのせいで、戦線が崩壊した」
「ちがう。パーティーが壊滅したのは俺のせいだ。俺が、このクエストの危険性について把握して、みんなを説得して諦められなかった、俺の責任だ」
「......でも、俺が盾役をちゃんとこなしていれば、こんなことにはならなかった」
「違う。俺たちは、慢心していたんだ。今まで、クエストを失敗したことなんてなかった。だから、今回も失敗するなんて思っていなかったんだ。誰のせいかなんて決められない。俺の、俺だけのせいじゃないのなら、パーティーメンバー一人一人が、等しく悪いんだ」
「でも、でも!俺がやられてすぐ、マイーロのやつが叩き潰されたんだ!俺の目の前で!」
「マイーロは死んでいない。今でも、生きている」
「そういう問題じゃないんだ!俺がやられたすぐ後にやられたんだ!俺を!役に立たなかった俺を、回復させようとして、目を付けられたから!」
言いたいことは、解る。ボスの攻撃を一番堪えなくちゃならない盾役が、一番最初に吹き飛ばされて、戦闘不能になった。それを助けようとしたメンバーも、やられた。たしかに、この状況で誰が悪いかと言ったら、ガーツィだろう。だけど、それ以前の問題だ。まず、その前にクエストの難易度を正しく測れなかった俺のせい。S級やA級といった、クエストのランクについてよく知らなかったミルルシアも、悪い。今回も、成功すると信じて、油断していた全員の過失。全員、悪い。
「俺たちは、負けを経験しなさ過ぎた。普通は、負けを経験して慣れているはずなんだ。それがないから、今こうやって混乱してる。俺もお前も、ゆっくり休んでゆっくり考えよう」
「......そうだな。それがいいよな」
「じゃ、俺はもう行くよ」
「......ああ」
バタン
あの、爪を噛む癖は昔からあったっけな。悩んでるときとか、考えてるときによくやっていたはずだ。でも、以前は血が出るまでは噛んでいなかったはずだ。ベッドのシーツが、血で斑点の柄になってしまうほどに、噛んでいたことはなかったはずだ。.....ガーツィ。何でそこまで追い詰められてるんだ?
「次......か」
「よぉ、マイーロ」
「あ、ギルシェさん」
今回の一件で、一番精神的ダメージが少ないのは俺たちだろう。なぜなら、俺は師から嫌というほど敗北の味を教わって来たし、マイーロは俺たちと組む前から冒険者をしていて、敗走はしょっちゅうだったらしい。死ぬ目にも、数えきれないほどあってるとか。
「マイーロ。ふたりとも、精神がまいっちまってる。二人とも、自分のせいだと責任をしょい込もうとしてるみたいなんだ。それのせいで、ちょっとまいっちまってる」
「ええ。二人とも、良い人ですから。そうなることは解っていました」
「だよな。俺も、ドランクドラゴンと戦ってる最中に思っていた」
「その時点でですか。流石ですね。僕は、治療院で目が覚めてからですよ」
ふふっと軽く笑い、流石と俺を褒めるマイーロ。伊達に、ながくあいつらと組んでいないってんだ。あイツらの考えてることは、くだらないことでもわかるし、何を求めているかも理解できているつもりだ。今、アイツらは何を求めているんだろう?おそらく、安心。自分の責任ではないという事実と、それを知った時の安心感が、必要なんだ。
「この状況、どう考える?」
「そうですね。待つべきだと思います。僕たちは、仲間です。いままで一緒に組んで戦ってきた仲間なのに、ここでサヨナラと言うわけにもいかないでしょう」
「いや、このパーティーのリーダーとして命じる。このパーティーは解散だ」
「......!」
「許容できないかもしれないが、これは仕方のないことなんだ。俺たちは、今回の状況で、酷い目にあった。四人のうち、二人が立ち直れない状況だ。こういうことはな、各々で考えて解決するしかないんだ。でも、俺たちは冒険者だ。戦わないと、稼げない。だから、戦うしかない。戦闘不能になっちまった仲間のことを考えて、立ち止まってるわけにもいかないんだ」
「でも、だからって......!」
「お前は、賢い。だから、わかるだろ?このままじゃ、全員野垂れ死にだ。パーティーは解散しちゃうけど、俺たちが消えちゃうわけじゃない。いつだって、もう一度冒険者パーティー【フラグメントオブティア】に戻れるんだから」
「そう、ですよね」
「こうして、俺たちはパーティーを解散させた。細かい話は久しぶりにマイーロに会った時に聞かせてもらったんだけどな」
「それで、ミルルシアさんはどうなったんですか?」
「......行方知れずだ。俺は、その行方を追っている」
話を終えて満足そうに笑みを浮かべるガーツィさんに質問すると、一気に表情が曇る。ギルシェさん、マイーロさんの行方は分かっているけど、ミルルシアさんの居場所だけわからないらしい。便りもうわさも聞かないため、探すのが困難だという。
「まぁ、仕方ないさ。もしかしたら、嫌気がさして普通の暮らしをしているのかもしれない。もしかしたら、所帯を持ってるかもしれないな」
「え!?所帯って、ケッコンってことですか!?」
「えらい食いつきようね、ナツキ」
「そりゃそうよ!」
話の中で会ったのだが、サキュバスとエルフが結婚することも珍しくないと。もしかしたら、訓練仲間のあの子も......シースも、エルフとサキュバスのハーフ、もしくはクオーターかもしれない。だから、あまりそういう事に耐性がないとか!?なにそれ、そういう引き継がれ方するの!?興味深い!とても興味深い!
「ナツキ、あんたちょっとおかしいわよ?......あ、もう少しで着きますよ」
「おお、アレが【魔王都アルカディア】か!久しぶりに来ると、凄い迫力だな」
真ん中が少し道になった雑木林を抜けると、そこには大きな城壁が立っていた。そのずっと奥には、城らしき影が見える。
「ようこそ、魔王都アルカディアへ!歓迎しますよ、ガーツィさん!」




