43話 俺たちなら何でもできると思っていた
「クエストか......?酒酔竜の討伐!?これ、S級クエストじゃねーか!!!」
「なんかーお金いっぱいもらえるじゃん?いい感じのクエスト持ってきたよー?」
ギルドカードを差し出して、クエスト内容を見せてくるミルルシア。その顔は、なんていうか......こう、自慢げで。ドヤ顔っていうんだろうな、こういう顔を。『見てみて!いいクエスト持ってきたよ!褒めて!頭なでなでして!』って、言いたげな顔だ。
「あのな、コレ、S級クエストなんだよ。でな、俺ら、A級冒険者なわけなんだよ。一つ上のランクの依頼は受けれるけど、A級とS級じゃ全然違うのよ」
「なにー?もしかして、ミルル失敗しちゃった......?」
「いっ。いや~全然失敗じゃないぞ~?よし、このクエストをちゃちゃっとやっつけて、お金いっぱいもらっちゃうかぁ!」
そんなうるうるの目と震えた声で言われたら、このクエスト難しいからやめない?なんて言えないっすよ!言えるわけないだろう!?
「おい、ギルシェ本気か?S級だぞ、S級」
「僕、まだ死にたくないんですけど」
「だ、だいじょうぶだろ!俺たちも、A級になってから大分たつ。S級に昇格してないだけなんだ」
「でも、僕たちまだレベルも82ですよ?」
「俺も、83だギルシェも確か、83だろう」
「ミルルは82だよー!」
そう、俺らはまだ82レベルだ。たしか、S級クエストの適正レベルが90以上だっけ?SS級は、130レベル以上、SSS級は200、G級は最低でも500以上と言われている。この世界では、レベル上限が恐らくある。詳しくは解っていないが恐らくレベル上限は500だろう。S級からはA級までとは全く違った種類のクエストになるらしい。それは、国家級や、世界級の依頼。下手をしたら、この世界全体の存続にかかわるような、大規模なクエスト。SS級は、S級が成し得なかったクエストを。SSS級は、SS級が成し得なかったクエストを。SSS級は、SS級が成し得なかったクエストを。G級は、SSS級が成し得なかったクエストを。
「S級、かぁ。このドランクドラゴンもたしか、軍隊をめちゃめちゃにして壊滅的な被害をもたらしたんだろ?」
「ああ。近隣住民から魔物が山から下りて人を襲うって通報があって、調査の結果、大型の魔物によるものだと。それで軍隊が派遣されたんだが......」
「軍隊は全滅ですね」
「そういうことらしい。ドランクドラゴン......かなり、厄介な相手だぞ?」
「だいじょーうぶ!ミルルたちが力を合わせれば、怖いものなんてなーい!」
力を合わせれば、何も怖いものなんてない......か。確かに、そうかもしれないな。今までなんだかんだ言って一回もクエストを失敗したことがない。俺たちは、間違いなく最高の仲間だ。自信を持って言える。これ以上に連携の取れるパーティーなんて居ない。これが、最高の仲間だ。
「そうですよ。ミルルさんの斥候とナイフ、ガーツィさんの戦士と大剣、ギルシェさんの魔法剣士の魔法と細剣、そして、僕の回復と魔法。とても、連携の取れたパーティーだと思います。」
「そうだな。シーフと魔法剣士のギルシェが前に出て、回復は戦士の俺が敵を引き受けている間にする。それを、繰り返す。確かに、連携の取れたパーティーだ。だけど、それが今後のクエストで通用するか......」
そうだ。これからは、ガーツィだけで敵の攻撃を受け止めておくことができるかどうか。それが、今後のクエストの編成に影響する。
「これから、S級クエストをやるにあたって、色々と見直すべきことがあるかもしれないな」
「だけど、僕たちならやれる気がします。どんなにズタボロになったって、どんなに苦しくって、どんなに満身創痍になったって、笑って、成功報告をしてる姿が目に浮かびます」
「だな。どんなにボロボロになったって俺らは俺らだ。負けるわけがない」
「ぐぁぁぁぁああああ!?」
「ガーツィ!?くそっ、ガーツィがやられたぞ!回復頼む!」
「......」
「ギルシェっち!マイーロが意識もどらない!」
「くそっ!くそぉっ!ドランクドラゴン......全然S級じゃねえじゃねぇか!」
盾でドラゴンの攻撃を受け止めようとした瞬間、ガーツィが吹き飛び戦線は崩壊。フォーメーションも何もあった物ではなく、ただ、混乱した。この魔物は、回復職に多くヘイトが行くらしい。マイーロも、攻撃をかわし切れずに意識を失った。
「くそっ!くそっ!くそっ!ミルルシア!三十秒だけ引き付けてくれ!」
「わかった!」
「頼む頼む頼む!【ハイヒール】」
「っく......ぁっはぁっ......」
「ガーツィ、大丈夫か!?」
「ダメだ......足の感覚がない」
当然だろう。壁にたたきつけられた衝撃で頭上から落ちてきた岩が足を粉々にしたんだから。もっと上位の回復【聖なる息吹】や、【聖域の息吹】とかじゃないと、効果はない。
「くっそ!くそっ!くそっ!」
「ミルル、もう限界かもっ......!」
「【絡めとる茨】!!!」
残ってる前魔力を......この魔法にッ!
「一分程度なら止められる!今のうちに......逃げるぞ!」
「逃げるって!」
「仕方ねえだろ!全員ここで死ぬ気か!?」
「ミルルシア!マイーロを頼む。俺は、ガーツィを運ぶ!」
A級冒険者パーティーが、圧倒的な力に屈した敗走をした。その情報は、瞬く間に冒険者たちに広まった。実力もある、ギルシェのパーティーが、何もできず敗走。しかも、何もできずただ一方的に。
「S級じゃすまないほどの強さだった......か」
「SS級......もしかしたら、SSS級かも、か」
「申し訳ないです。俺たちがうまくやっていれば......」
「いや、君たちはよくやった。むしろ、SSS級に匹敵する魔物を相手に、良く善戦してくれた。よって、君たちをS級冒険者に認めよう」
「......有難うございます、ギルドマスター」
ギルドマスターが、俺にS級冒険者の資格をくれるという。しかし、俺たちはS級のクエストに敗走したわけで。
「ですが、断らせていただきます。俺たちは、S級のクエストに敗走しました。俺が了承しても、周りの冒険者が許さないでしょう」
「だが」
「いや、ここは素直に受け取っておきなさい。冒険者たちには私から直々に通達しておく。あれは、化物だ。SSS級冒険者......いや、ペルセウスの子孫と言われるアルイーオスに討伐に向かわせる。」
「アルイーオス......」
アルイーオス。ペルセウスの子孫。本人はそう主張し続けているが、真実のほどは解らない。だが、その圧倒的な力と実力は、間違いなくそれを彷彿とさせるようで。100人といないSSS級冒険者の一人になっている。
「で、君の仲間であるガーツィの容態はどうなのだ?」
「......冒険者活動は困難だということです。傷は完璧に癒えたようですが、精神の方をやられたようで」
「まぁ、そうだろうな。真正面から圧倒的な力でねじ伏せられる。それは、とてつもない恐怖だろうからな」
「そうだろう。ゆっくり精神を休めるように言っておきなさい」
「有難うございます。では、俺はこれで」
「うむ。ゆっくり休みなさい。君も、疲れていないわけではないだろう」
「ありがとう......ございます」
バタン
何でもできると思っていた。俺たちなら、どんな困難もはねのけて、いつか、誰も到達しえなかった高みに到達できるものだと思っていた。
「甘かった。すべてが甘かった。見通しも、何もなかった。」
ゴーンゴーンゴーンゴーンゴーン。
夕方の五の刻を報せる鐘が、町中に響き渡る。
「もう、こんな時間か」
既に西の空は紅に染まっていて、太陽が顔を隠し、月は顔を出そうとしている。
「そろそろ行くか」
俺は、あの日以来欠かさず通ってる場所へ向かう。俺が、俺のせいだから。俺のせいで、こんなことになってしまったから。




