42話 お人よし馬鹿の過去話
「おいおい、何で断っちまうんだよ、ギルシェ」
「バカタレ!あれ以上金をむしり取ったら、あの人たち破産しちまうぞ」
ガーツィのやつが、あの状態でさらに依頼金をむしり取るべきだという。確かに、依頼料が上乗せされるくらいの働きはした。護衛の依頼を果たしたうえで、さらに魔物に襲われかけた息子さんを救ったのは事実だ。だけど、あの商人たちのひきつった顔を見なかったのか?まさか、商売に使う金以外全部むしり取るつもりだったって言うのか。
「あっちもあっちで大変なんだろうが、こっちも仕事でやってるんだ。こんな大口な取引、今度はいつ現れるかわからんのだから、取れるだけ取らんとマズいだろう」
「たしかに、そうなるんだろうけどな」
息子さんも、泣きそうな顔してたぞ。今にも、『パパをイジメないで!』って言いだしそうだった。冗談抜きで、あと数分経ってたら言ってただろう。
「お前、いい加減にしとけよ!お前のその思慮深い性格のお陰で、こっちは稼ぎが全然ねーんだ!食事代と武器防具のメンテ代ですかんぴんになっちまうんだよ!」
「す、すまん......」
俺たちは、今、カフェのバルコニー席で座ってる。周りからの視線を見ると分かるように、俺たちはそれなりに名の通ったパーティーだ。だから、それなりに装備も上等なものだ。装備が上等だとメンテナンスにも金が多くかかる。だから、金がいつもない、有名だけど金欠なパーティーなのだ。それよりも、【有名】の方が気になる?......有名といっても、その有名になった理由って言うのが、俺的にまったくもって気に入らない。周りからは、むしろ褒められてるんだから喜べと言われているのだが、気に喰わない。
『剣技披露親善大会で優勝したくせに、賞金と賞品を受け取らなかったお人よしがいるんだってよ』
『え、なにそれ。そいつと一緒に仕事してみたいから、パーティー名教えてくれよ』
『フラグメントオブティアだってさ。涙のかけらだそうだ。その由来も、初めて受けたクエストで、村を襲うゴブの討伐でさ。いう事聞かないで、襲われかけた女の子を助けた時、すっげぇ感謝されたんだって。その時、ぬぐった涙が一粒宙に舞って、輝いたらしいんだ。それが、とても美しくて、心に響いたと。それで、その気持ちを忘れないように、パーティー名にしたらしい』
『マジかよ。普通、言うこと聞かないで襲われた子供の事、めちゃめちゃ怒るよな。それを、感謝の時流した涙に感動するって......』
『一体、どんなお人よしだよ。普通、そこに付け込んで依頼料をさらに要求するところだ』
『それが、さらに驚くことに依頼料は断ったらしい。そんなことされたら、逆に困っちまうよなぁ』
確かに、自分が他の人に比べてへんなことをしてきているという自覚はあった。でも、そこまでか?その剣技披露親善大会が終わった三週間後にはもう、俺たちは有名パーティーになっていた。理由が、『え、何そのお人よし!俺も気になる!教えて教えて!』だぜ?良い気分にはなれないだろ?いいひとならともかく、お人よしだぜ?気の許せる友達に言われたのなら、誉め言葉だろう。だけど、顔も知らない赤の他人から言われたら、もうただの悪口でしかない。まぁ、お陰様で共同依頼に誘われることが多くなって、この町で知らないやつはいないが。
剣技大会から、もう十四年。あれから、随分な数のクエストをこなしてきた。中には、一つの国を左右しかねないクエストなんかもあったりした。それを、俺、ガーツィ、ミルルシア、マイーロの四人で頑張ってきた。
「っふぁ~あ。暇だなー」
「そうだなー」
「ギルシェさん、ホットドッグ買ってきましたよ」
「お、さんきゅーな、マイーロ。お前は、本当にできるやつだよ」
この、猫耳と猫しっぽの生えた、青髪、短髪、青目、メガネのキャラ盛りすぎ人間みたいなやつが、マイーロ。描人族だ。職業は、ドルイド。魔法系の上位職だったっけ?たしか、魔法使いや、僧侶とか魔法系の職業をいくつかレベル10くらいにすると、なれたはずだ。見た目は、猫耳と猫しっぽ以外にはねこっぽい特徴がない、血が薄いパターンだな。最近は、異種魔族間での結婚も珍しくないからな。サキュバスとエルフとか。一見、サキュバスとエルフって、相性悪そうだけど、最近よくあるって言うから驚きだ。
「そんな過大評価していただけるなら、こんな雑務を任せないでください。だいたい、ご自分で行けばいいじゃないですか。それに、僕以外にも暇そうな方がいるみたいだし」
「なんだお前。俺にホットドッグ買ってこさせる気か」
「だって、凄い暇そうじゃないですか」
ギロリとマイーロを睨むガーツィ。何故にらむ。マイーロの言うとおり、すっごく暇そうにしてたじゃないか。っていうか、さっき『暇だなー』っていってたぞ、お前。ぽけーっと『あ~平和だな~』って言いそうな顔で、暇だなーって。
「うるせぇ!大体、暇そうって言ったらミルルシアのヤツは何処だ!あの描人めちょっとかわいいからって調子に乗りやがって......」
そう、ミルルシアもキャットピープルだ。それも、マイーロよりも血が濃く、見た目も猫に近い。頭には猫耳、ほっぺにはおひげが左右三本ずつ、お尻にはしっぽ、目は瞳孔が縦長。牙もあって、鼻も、口の形状も猫っぽい。ωこんな形の口だ。髪はピンク、耳もピンク、尻尾もピンク。ピンクと言っても、白が混じるピンクだが。因みに、目もピンクだ。いわずもがな、性別は......女だ。いや、メスか?いや、女だ。
「可愛いって、ミルルさんのことを好いてるんですか?」
「それは、断じてない。ただ、なんていうかこう......ペット感覚というか、ネコ!まさしく、ネコに抱く愛しさ。それに近いな。というか、まさにそれだ」
「お前、ペットって何気にひどいぞ」
いつも通り、全く筋の通ってない、何を目的として話しているかなんて考えていない会話。会話を始めた時はクエストの話をしていたのに、いつの間にか牛肉の部位は何処が好きかなんて言う話になっていたこともある。まったく、どういうつながりでそうなったのか、さっぱりだろう。しかも、牛の部位の話はめちゃくちゃ盛り上がった。謎だ。謎過ぎる。
「にゃーん!」
「どわっ!?」
ぼけーっと会話の流れについて考えていると、きゅうな猫語?のあとに聞こえる叫び声。どうせ、いつも通りミルルシアがガーツィに飛びついた音だろう。不思議なことに、ミルルシアがガーツィに飛びつくと、にゃーんという音がするのだ。......もちろん、うそだ。
「だから、急に飛びつくなといつも言ってるだろう!!!」
「え~じゃあ、とびつきま~す!って言ったらいいの?」
「おう。飛びつく宣言をした後なら良いだろう」
「わーい!飛びつきまーっす!」
「よ~し!高い高~い!そらっ、たかいたかーい」
「あはははは!たっかーい!」
いつも通りの会話の流れだ。どうせ、明日には忘れて同じことを繰り返すんだろう。今、『ミルルシアは何かの病気なのかな?』と心配した奴はムダだからやめとけ。ただ、おバカなだけだ。一日頑張って遊んで、遊び疲れて、ぐっすり寝る。すると、不思議なことに昨日の事なんて覚えちゃいない。もう、今日する遊びを考えるのでせいいっぱいだ。
「くっ......!なんでガーツィさんばかり!ずるいです!」
「お前には猫耳と猫しっぽがついてるじゃねーか。お前は自分で自分の耳でもモフってろ」
「自分の耳を触ってて何が楽しいんですか!大体、ガーツィさんもウェアウルフなんだから、耳ついてるじゃないですか!尻尾も!」
「お前って、ミルルシアのことに関しては冷静じゃなくなるよな」
「僕のあこがれですから!あんなに濃く、始祖の血を受け継いでるんだから!その秘密に、僕は触れたいんです」
「解剖とかするなよ?」
「し、しませんよ?解剖なんて」
なぜそこで挙動不審になる。怖いんだが。ウチの盗賊が居なくなるのは困る。毛皮だけ残ってシーツに加工ってか?シーフだけに。......なんか、肌寒くないか、このあたり。
「そう言えば、ミルルシアお前何処に行ってたんだ?」
「ギルド行ってたー!」
「ギルド?換金でもしてきたのか?」
「ううん!めっけてきたよー!ほい!」
「これは......!?」




