41話 ある冒険家の、ある塔についてのある記録
今回の題名、良いセンスじゃない?
え、酷い?慣れちゃって気付かないんじゃないかって?
はっはっは。少し落ち着きたまえ。本編へ行こうじゃないか。
「ミルア、さっきから何も喋らないみたいけど、どうかしたの?」
「どうかしたって、何を言ってるの、ナツキ!この状況で緊張しないわけないでしょ!?あの、有名冒険者のガーツィさんと一緒にいるのよ!?」
「お」
「え」
ガーツィさんって、そんなに有名な冒険者だったんだ!全っ然知らなかった。ギルシェさん......副教官は普段から訓練を教えてもらっているから、興味で色々調べてはみたけど......ガーツィさんは初めて会う人だからな。興味の持ちようがないよ。
「そっちの嬢ちゃん......は俺のことを知っていたのか」
「意外だね、ミルア。そういう事には疎そうな身分と見た目なのに」
「ミルアです。古いお話とか、おとぎ話、冒険譚には意外と興味があるの。そういう話って、とても素敵だと思わない?」
「ああ。俺も、そういう話は大好きだ。なんかこう、胸の奥が熱くなってくるようなきがしてな。ワクワクしてくる」
「それです!そうなんです!私は、まるで現実味のない美しく脚色された物語も好きなんですけど、事実に近いとされている冒険譚が特に好きなんです!」
「意外だな。嬢ちゃんのような娘は、妖精やエルフが出てくるような物語が好きなんだと思っていたんだが......」
え?まさか、妖精ってこの世界に居ないの?エルフは、リーナがいるし間違いなく存在するだろうけど、フォレストエルフのような、純粋なエルフは存在しないかもしれない。エルフなどが居た......魔法や都市を発展させていた時代なんて、何千年前なのか想像もつかない。この世界には、失われた技術ではあるけど、保存魔法と言うものがある。時間を停止して、物体を長い間保存しておくというものだ。つまり、建造物の時代を特定しにくい。でも、今はない植物や木などを使っている場合、大まかな時代を特定することはできる。100~200年は前後するけど。
「わくわくしませんか?大昔の賢者が作った、目に見えない塔。中には、この世の全てが記されている本が存在する。本を手にしたものは、全種族の中で最高の叡智を手にし、新たなる上位の種へと生まれ変わる」
「アルデス・リーベン著『叡智の塔』か」
「はい!多くの人はこの作品のことを馬鹿馬鹿しい作り物と考えているみたいなのですが、一部の知恵ある人達はこれを本物だと考えています。証拠に、いくつもの痕跡が発見されているんです」
叡智の塔。アルデス曰く、その塔は最上へと至った者しか見ることがかなわぬ。曰く、その塔はあるようでない。曰く、その塔は見えぬだけでなく、動く。曰く、党の内部は盤石な警備で固められている。曰く、その姿はまるで神が創造したかのように美しく、真っ白だ。曰く、それは生きている。アルデス・リーベンが書いた『叡智の書』には、まだまだ信じられないようなことが書き連ねられていた。それが、あまりにも現実離れしていたため、信じない者たちが多かったという。
「証拠......?」
「存じませんか?例えば、アルデスが語った塔の場所に、何か大きなものが移動したような跡があるそうです。下は硬い石ですが、深く抉られていると。その時代の人たちは、跡を残そうとしたのでしょう、保存魔法がかけられていたそうです」
なるほど。これは、実在したんだという証拠になるように。う~ん。それって、かしこいのかバカなのか。察するに、時間を停止する魔法って絶対にリスクが大きいと思うんだよね。だって、時間を止めるわけだから。自然の法則を捻じ曲げるには、それ相応の代償が必要......ってなぐあいになるとおもうんだよ。それを、岩に刻まれた溝を保存するだけの為に......。
「なんか、もったいなくね」
「それ、私も思った」
「ナツキ.....」
「だって、ねえ」
「なあ」
やっぱり、もったいないよねぇ。だって、どれだけ重要な手がかりだとしても、溝だよ?重量の大きな物が擦れて、岩にできた溝だよ?ただ、岩に彫られたものだよ?っていったら、ピカソの絵だってただの絵だ。ただの絵って言っても、見る人に、素晴らしい感動を与えるもの。見る人が見れば、とても価値のあるもの。そう考えると、伝説だとされていた幻の、【叡智の塔】。それの、数少ない手がかりの一つ。それが、価値があるように思えてきた......?だめだ。解りかけたような気もするけど、良く分からない。
「もっと、使いようがあると思うんだけど」
「でも、それが伝説の叡智の塔を証明することになってるんだから、いいじゃない」
「結果的にはそうだよ。でも、私たちはその魔法の代償をしらないでしょ?どうせ、その魔法もロストルーン絡みだろうし」
そう。結局、私たちはその魔法について何も知らない。だから、それが正しい行動なのか、賢いと言える行動なのかと言うのが全く分からない。もっと、なにかそれが正しいと言えるような情報があれば......
「ん?嬢ちゃんたち、失われた魔法文字を知っているのか」
「はい。昨日知る機会がありまして......」
「例の、A、Bランク複合パーティーか」
「はい。どうやら、私たちが殺されかけたゴーレムは、ロストルーンの秘術によって産み出されたゴーレムだったようです」
「なに!?そのゴーレムは今どこに!」
信じられないぐらいの食いつきようだ。あまりにも反応が良いと言える食いつきように、ちょっとびっくりしてしまった。軽くチビりそうになっちゃったじゃん。
「残念ながら、イザグドさん達が討伐した瞬間に文字となって消えてしまったそうです」
「くっ......!ルーン封印解呪の足掛かりになると思ったのだが......!」
「ガーツィさんは研究者なんですか?」
「研究者......とはいえないな。趣味で古物漁りをしている、ただのおっさんさ」
「ただのおっさんには、ギルドマスターと言う肩書は重いと思うのですが」
「......っかっかっか!面白いことを言うな、ナツキは!」
がはははは、というように大きな口を開け、大きな声で笑うガーツィさん。なんだか、そんなに気持ちよさそうに笑われると、こっちまで嬉しくなってくる。つい、ふふっと笑ってしまう。これが、例の笑いの連鎖ってやつか。一時期、ネットでも動画が上がってたなぁ。
「ナツキ、あんた......」
「まぁまぁ。ガーツィさんも喜んでるみたいだし」
「っはっはっは!お前は、本当にギルシェに似ているな、ナツキ」
「ギルシェ......副教官ですか」
「ああ。......アイツの昔の話、聞きたいか?」
少し押し黙った私を見て、ガーツィさんは話を切り出す。アイツ......とは、ギルシェさん。つまりは、副教官の昔についての事なんだろう。どうしよう。ものすごく気になる。でも、上司の昔の話を勝手に聞いても良いのかな?あとで、凄く怒られそう。【古き良き訓練 廃止された訓練】を課されるかもしれないなぁ。いや、しかし。でも、だけど。くっ、どうすればいいんだ!ぬ~。は~。ひゅむぬんひゅにゅ~......ええい、自分の欲望に素直になれ、私!
「聞きます」
「聞きたいです!とかじゃなくて、聞きますなのな。聞くことは決定かよ」
「はぁ。まったく、ナツキは......でも、私も気になります」
ふぅ、と軽く息を吐くガーツィさん。確かに、食い気味な返答だったかもしれない。でも、それだけの価値がある。その証拠に、ミルアも珍しく食いついている様子だし。
「全く、遠慮のない部下たちだな」
「ええ、まぁ。あの副教官の部下ですから」
「まぁ、そういうことです」
「っはっはっは!やはり、アイツの部下は変わってるな」
「そうですか?じゃあ、その変わってる副教官の、昔の話と言うのを聞いても?」
「ああ、そうだったな。あれは、今から三十年ほど昔のことだ」
ああ、またか。この感じ、回想に入ってく感じだぁ。




