35話 行かないで!逝かないでよ!
例によって良いサブタイトルが浮かばなかった。
サブタイトルスランプですね、これ。
本文もスランプ気味だけど。
本編入りまッすっ!
「うぅぅぅっ......」
「ミルア!?」
直前までハイドさん達と談笑をしていたが、意識はミルアの方に向けていたので、小さな声も聞き取ることができた。
「ミルア?ミルア!」
「うくっ....うぁっ」
「傷口は治癒魔法で修復させたんだが......いかんせん、血が足りない。血は休んで回復させるしかない。意識が戻るのは、数時間、数日......いつになるか血意外に原因がある場合は、いつ目を覚ますか......」
「ミルア、このまま目を覚まさないの......?」
何で......何でこんなことに?吸血鬼の力を使ったから?それとも、大きなけがをし過ぎて何かあったの?なんで?なんでなの?
「いや、可能性の話だ。うめき声が上がってる所をみると、遅くても数日中には目が覚めるんじゃないか?」
「そう。イザグドの言う通り。数日後には元通り」
「そうですよね。心配しすぎですよね」
「そうだ。そもそも、もう俺たちにできることはない。あとは、目覚めるのを信じて待つしかないんだ」
頼む。ミルア、起きてくれ。起きてくれたら、何でも一つ、お願いを聞いてあげるから。怖い。怖いよ......私の見通しの甘さで、こんなことに......。ミルアのご両親に何て説明したらいいんだ?私のせいで?私のせいでミルアが目を覚ましませんって?......いや、そんなことはどうでもいい。ミルアが、ミルアが二度と目を覚まさないかもしれないなんて。
「......新米、名前は」
「ナツキです」
「ナツキ、お前ももう休んでおけ。ミルアが起きた時、お前が倒れていたら意味がないだろ」
「そうですね......少し休みます」
「....ツキ!.....キ!ナツキ!起きろナツキ!」
「......ハイドさん?」
「ナツキ、落ち着いて聞け。ミルアの様子が、急変した。」
「え?」
「急に泡を吹いてもがき苦しみ始めたんだ」
「え」
「どうやら、あのクモのゴーレム、毒を使っていたらしい。しかも、遅効性の致死毒だ。おそらく、腸液か何かに反応して、青酸ガスを出す類のものだろ」
遅効性の致死毒?腸液に反応?青酸ガス?何を言ってるんだか全然わからない。クモのゴーレム?私、夢でも見てるのかな?でも、なんで夢なのにあったかいの?涙が、頬をつたる感覚が、リアルすぎるよ。ねえ、ミルア。夢なら夢だって言ってよ。ミルア。お願いだよ。ミルア、ミルア、ミルア、ミルア......
「え?ええ?なんで?分からないよ......なんで?」
「落ち着け」
「ミルア、演技なんでしょ?本当は、ただの悪戯なんでしょ?ねえ、何とか言ってよ......ねえ、ミルア!」
「揺らすな!まだ、助かる可能性はある。クモの毒は、致死性を持っているが、量は少なかった。ミルアが、毒に対して抗体を作れれば......」
「抗体....血清は!?血清はないの?」
「いや、遅すぎる。今血清を打っても効果はないだろう。そもそも、この毒に対する血清なんて持っていない。遥か昔に作られた、ゴーレムの毒なんて、誰も血清化させることはできないだろう」
「え......じゃあ、待ってるしか......」
「祈るしか、無い」
最後にできることが、祈ることだけなんて。もう、ミルアは泡を吹いていなかった。真っ青だった肌も、血の気を取り戻してきて、ほんのりと赤くなってきてさえいる。このまま......このまま順調に回復したら。
「.....キ......ナツ......キ」
「......!?ミルア!?」
ハイドさんに祈るしかないと告げられてから何時間経っただろうか?すでに空は白ばみ、もうじき長く感じられた夜が明けることを示していた。うとうとしていた意識が、誰かの声によって覚醒させられる。
「ミルア.....」
声の主は、ミルアだった。ミルアが読んでいたのだが、起き上がったわけではなくまだ寝ているようで、うわごとで私の名前を呼んだらしい。私の名前を呼ぶミルアの額には、大粒の汗が浮かんでいて、肌は一度は赤みがかったのだが、容体が急変したのか、もう一度青白くなってしまっていた。
「ミルア.....」
もちろん、ただのうわごとで呼んだのであって、意識があるワケじゃない。だから、私の呼びかけには答えてくれない。
「ミルアぁ....ミルアぁ....起きて......起きてよ......」
森の、少し開けた空き地に立てた天幕。その中に、ミルアと私、寝てるハイドさん達。周囲には、天幕内にいる人物しかおらず、朝早い森の中のため、何も聞こえない。静かで、何も聞こえない。......ミルアの荒い吐息以外は。
「うぁぁ......はっ......はっ......コヒュッ」
「......ミルア?」
浅い呼吸音の後、ノドに何か詰まったように呼吸音が止まる、ミルア。
「ミルア?ミルア!」
数時間前まで荒々しく聞こえていた呼吸音が、一瞬で途切れる。この森の中で唯一の音が、消える。静寂。なにも、聞こえない。いや、聞こえる。短い間隔で、大地が震える。ちがう。これは、私の心臓の音?きこえない。なにも、きこえない。目の前が白くなってくる。
「はぁっ、はっ、はぁっ、はっ」
苦しい。息が、出来ない。苦しい、怖い。嫌だ、駄目だ。お願い、ミルア。死なないで。お願い、神様。ミルアを連れてかないで。まだ、ミルアは死んでない。
「......はぁっ!はっ、はぁっ!はぁ......はぁ......」
「ミルア?......良かった」
願いが聞き届けられたのか、ミルアが頑張って毒に打ち勝ったのか、なんとか息を吹き返すことができたみたいだ。よかった。ミルアが死んじゃったら、私の心は二度と立ち直れなかったかもしれない。だけど、死ななかったところで......。私は、昨夜ハイドさんから聞いたことを思い出す。『意識が戻ったとしても、冒険者時活動は困難かもしれない。......太もも部分が大きく抉れていたんだ。神経も、筋も、損傷していた大部分が完治できなかったらしい。......歩くこと自体は元通りできるかもしれないが、走ったり、重い運動は出来ないだろう』ということは、騎士になることも、不可能なわけで。......ということは、ミルアの生きる気力の源である、自由な結婚も不可能なわけで。生きるのをあきらめる理由になるワケで。ミルアは、意識を取り戻したところで喜ぶかな?それとも、夢で見たみたいに貶されちゃうのかな?
「ミルア、私、どうしたらいいの......?」
「あぐっ......うぐぁっ!!!」
嫌だ!嫌だよ!苦しそうにしないでよ!楽そうに、落ち着いたように息しないでよ!私、何て反応したらいいの!?「苦しまないで」って?「生きてても良いことなんてない!」って?「良かった、落ち着いて」って?「意味ないよ!生きてても、どうせ死にたいって思うんだ!!」って?分からない......分からないよ!!!!
「あくっ......くぐふっ......」
「もう......うるさい!うるさいうるさいうるさいうるさい!もうやめて!私を......ミルアを殺さないで!やめて......やめてよ......」
「あぐっ......が」
..................あれ?ミルア?なんで、何も聞こえないの?ずっと、ミルアのうめきと呼吸しか聞こえなかったのに。静かな森だから、それしか聞こえないのに。なんで、こんなに静かなの?なんで?......なんで、ミルアのこえがきこえないの?




