16話 宝石求めて何百里?
「......必要な書類は提出してきた。教官殿は俺のことを少し疑惑の目で見ていたが。」
がっくりと肩を落としうなだれる副教官。これは仕事をサボることで落ち込んでいるようでそうではない。この人は仕事に対してマジメだが、過ぎたことは気にしないで先を見る人なんだ。......この様子は恐らく、上司に疑われちゃったことで落ち込んでいるのだろう。
「これも全て娘さんのためです!」
「そうか?......そうだな、うん。よし!」
「そ、そうですね。頑張りましょう!(おい、ナツキ!お前コレどう収拾付けるんだよ?)」
「(大丈夫だ!あとは俺が宝石の鉱脈見つけてネックレスを作って解決だ!)」
と、言ってはみるけど、実は宝石のある場所はもう発見している。何故先日初めて魔物を倒したお前が鉱脈をすでに発見しているのかって?それはね、魔物を倒すのは確かに先日が初めてだが、外での訓練は以前からしてきていたんだ。......養成所での訓練後に、剣、ナイフの特訓。それを、王都外でやってきていたってワケだ。以前から俺は勉強熱心でね、予習復習は欠かさないんだ。勉強熱心な俺は、もちろん自主練で王都外での訓練は経験済みだ。......つまり、その時に鉱脈を発見した。ようするにイージーってワケよ。
「でもなぁ......宝石がある場所なんて、想像もできないしなぁ......」
「それは私にお任せください!そういう物が埋まってる場所には結構目が利くんです」
「む?そうか。頼んだ!」
「なんか、副教官殿キャラ変わってないですか......?」
そこに突っ込むのは辞めてくださいよ。......あれ?なんで俺は今突っ込むのをやめて欲しかったんだ?まぁ良いや。ここに触れるのは危険な気がする。
「まぁ、それはそれとして......」
現在、俺たち三人は王都城門を出てすぐの所に集まっている。集合場所的な意味でよく使われる場所だ。集合場所って言っても、大概は冒険者や傭兵、そして商人が利用している。......今の時代、旅行などをするものはほぼ居ない。
「......出発するんだな?」
「ああ......そうだ。」
「かなり長い旅になると思うが、これも娘のため......」
ああ......もう腹くくったんだな。副教官殿、俺は付いていくぜ。娘さんにネックレスを作ってあげられるまで、責任もってな。
「出発だァ!」
「「おおおおおおおおお!」」
なーんて言ってみたけど、長い間宿を開けるわけには行かないし、一週間くらいで帰ってくるんだけどね。鉱脈を見っけてるから。うん。
それから時は過ぎ、はや一週間......
「いや~予想以上に早かったね?」
「立派な首飾りができましたね。娘さん、喜びますよ」
「......そうだな。本当に、ありがとう。」
原石を複数発見し、俺が研磨して融合した宝石は、それなりに大きなものに仕上がった。十カラット程だろうか?プラチナの鎖に六本爪がダイアに似た宝石を支えている......所謂ティファニータイプ?というやつを使っている。......うん。まあまあ良いんじゃなかろうか?デカすぎ感は否めないが、もしかしたら、こんないい出来に仕上がったのは初めてかもしれない。
「っていっても、少し大きすぎじゃね?それに、なんだか原石に比べて大きいような気もするし......」
「研磨してみると大体そんなもんだ。気にするな。」
「む、そういう物なのか。」
そういう物なわけないでしょ、副教官殿?俺は、荒く研磨した宝石を融合してから形を整えたのだ。え?融合何て、どうやったかって?ドワーフが持つスキル、【装飾スキル】の力を借りたのだ。【装飾スキル】のスキルポイントが五百を超えることで習得できる技、宝石成形の力だ。一体どんなスキルなのかというと、魔力を使うと少しだけ思い通りに形を変化することが可能という、スキルだ。
一体それでどうやって融合させたのか?......答えはこのスキルの特徴、『魔力を使うと、少しだけ思い通りに形を変化することが可能』という点を利用し、宝石をこねくり回して一つにしてしまったのだ。スキルも魔法もなのだが、イメージすることによって力を発揮することができる。つまり、粘土をイメージしたらこうなった。発想の勝利というやつだ。
「しかし、アレですね。こうも価値の高いものを持ち歩いていると不安になってきますね」
「それはまぁ......」
「ゼルド!そういうこと言うと!」
「オらぁぁああ!金めの物よこせや!」
ほ~ら。フラグが立っちゃった。明らかに山賊山賊しい連中にあっと言う間に囲まれちゃったじゃないですか。まぁ、良いや。これはゼルドへの貸しな。この貸しは、俺が死にかけた時に盾になってもらうことでチャラにしよう。
「......嫌だと言ったら?」
「生意気なガキが!オッサンとボウズは殺せ!女は捕まえろ!」
「「「ウォォォォォォォ!!!」」」
「あ~あ。アレでよかったんですか、副教官?」
「......ああ。あれでよかった。良かったんだよ。」
「そうですね。」
空の色は青から橙色になり、すっかり日が暮れようとしていた。山賊は見事に全滅させ、実はこの山賊の頭が指名手配されている人間の賞金首だということも判明した。さらには、牢屋に入れられていた銀狐の母娘も発見し、解放した。
「確かに盗賊も倒したし、色々な宝が盗賊のアジトにあったのもそうだけどさ。失うものがデカすぎたと思うんだよなぁ......」
「たかが宝石だろ。人の命みたいに言うな」
「そうだぞ、ゼルド。でも、本当に良かったんですか、副教官殿?」
「良かったんだよ。喜んでたじゃないか。」
銀狐の親子。あの母娘は、身体的にも精神的にも問題がなかった。きわめて健康的だったみたいだ。安心感からだろうか。檻を開け、拘束を解いた瞬間、銀狐の少女が副教官に抱き着いたのだ。そして、そのまま泣き出した。心の中で積もっていた不安をぶちまける様子で、泣きじゃくった。お母さんも釣られて涙を浮かべていた。その様子を見た副教官殿は......
『ほら、泣き止んで。......これを君にあげよう』
『......おじさん、くれるの?』
何を思ったか、副教官は娘にプレゼントするはずのネックレスをその子にあげたのだ。......もしかしたら、ないているその子が娘さんに重なったのかもしれない。
泣き止んだ二人はお礼を言い去って行った。何か困ったことがあったらと羅針盤のような魔道具を残して。どういう物かは知らないが、ある方角から針が動かないことから何かの場所を指し示しているのだろう。
「娘へのプレゼントには何か俺が考えるさ。元々、頼るのは良くなかったんだ。」
「頼るなんて、副教官殿も頑張っていたじゃないですか!俺たちが手伝いたくて手伝ったんです!」
「そうですよ。私は娘さんの為に何かできないかと考えてる副教官を見て、手伝いたいと思ったんです。」
「だが、もう首飾りは......」
そう。いくら力になりたいと言っても、もう宝石は無い......と、この二人は思っているだろう。
「実はですね......ジャーン!」
一カラット程の宝石で作った、さっきのネックレスの小さいバージョンだ。プラチナの鎖にダイアっぽい宝石を六本爪で支えるデザイン。先ほど作った物とは大きさは全然違うが、俺的にはこっちの方が落ち着きがあって好きだ。それに、価値で言うなら断然こっちの方が上なはずだ。大体、百万アルディアくらいか。......俺が不思議なまじないを込めたからな。
「これは......」
「いいのか?本当に、いいのか?」
「良いんです。私には似合いませんから。娘さんを、喜ばせてあげてください。」
「すまん......っ!ありがとう!ありがとう.........」
後日聞いた話によると、娘さんはとても喜んでいたらしい。ネックレスの後に俺が副教官殿に渡した短剣は、成人したら渡すみたいだ。短剣には手紙も付けておいたので、いつか喜んでくれるのが楽しみである。ゼルドは本をプレゼントしていた。恋愛物語と、魔法使いの物語。そして、騎士物語。ヤツにしては珍しく気の利いた贈り物だと思う。
主人公がネックレスと短剣を送ったのは、何かが起きた時に自分の身を護れるようにと配慮した結果です。その娘さんの身に、何も起こらなければいいのですが......。