10話 上級者のお手本ってなかなかお手本にならないことあるよね。
今回のタイトル、あるある~!ってなる人も少なくないはずです。
「ふぅーっ。【五月雨撃ち】」
シュドドドドド!
ゆっくり息を吐いて繰り出されたスキル。青の閃光が、一度に的に突き刺さる。木に留めておいた的を衝撃で震わせ、土煙を舞わせる。
「えぁはっ......す、すげぇ。」
「はぁっと。ま、こんなもんか。」
確かにすごかった。けど、放たれた矢は?今的を射抜いた矢は?先ほど放たれた矢が舞わせた土煙が、もう晴れていた。しかし、肝心の矢。それが、忽然と的の上から姿を消していた。
「......矢は?矢が無いんだけど。」
「......お前、見えてなかったのか?」
「見えるわけねーだろ!ふざけんな!......青い光の筋しか見えなかったよ。」
「全体でとらえようとするからだ。目を凝らして、集中すれば見える。......初めてでそれだけ見えれば上等だろう。」
そんなムチャな。集中すれば見えるって......頑張ればできるぐらい根拠ねーぞ?あ、これはアカン。世の教師さんたちにケンカを売ってしまったかもしれない。ち、違うんです。頑張るって言っても、頑張る方向とか、頑張らせる方向にとか......。
「......近くへ行ってよく見ろ。」
「ん~?......!!」
的の中心に......小さな穴?と、地面に縦に裂けた木の枝?いや、棒?が二本......。これは......どういうことだ?いや、解ってる。解ってるけど、本当なのか?これ、本当なのか?
「おい、お前これ......寸分たがわず二本の矢を同じ場所に命中させたのか!?しかも、これ、木貫通してんじゃねーか?」
「おいおい。忘れたのか?【五月雨撃ち】の矢の本数は......」
「......五本。嘘だろ?」
「......うむ。二本だけ気を通らずに落ちたか。貫通する際に引っかかったんだな。私も、まだまだか。」
まだまだって?はは。お前がまだまだなら俺はなんだっつーの。お前がまだまだなら俺はひぇふひぇふぉくらいだぜ?......すまん。俺が何を言ってるかわからない。忘れてくれ。
「あの~......俺にこれを習得しろと?」
「いや、参考にならないって言っただろ?スキルの威力は、スキルポイントの量に依存するんだ。私のスキルの威力が高いのは、私の弓スキルのポイントが高いからだ。」
「じゃあ、俺がもし仮に五月雨撃ちを習得しても、アレにはならないと?」
「なるどころか、かなりガッカリするぞ?」
「そんなこと言うなよ......。」
ガッカリってなんだよガッカリって。マジで?......この国の、最強の一人のコイツが言うんだから、間違いないと思うけどさ。
「じゃ、お手本も見せたし、本番だ。」
「うっす!」
でもアレだな。五月雨撃ちって、背中の矢筒から矢を取り出すから、遅くなりそうだけど、これは弓を改造すれば何とかなりそうだな。......そこまで言ったらドワーフにでもなって、生産スキルと鍛冶スキルで鉄砲でも作った方が良いか。こう考えると、俺って数々の異世界チートかませる要素揃ってね?何でもできるやん。そのためには特訓を頑張らなきゃな。......もうやだ。
「弓を取り出して、撃つ。弓を取り出して......はぁっ!」
パシュ・・・パシュ・・・パシュ・・・パシュ・・・パシュ。
「っ......はぁっ......はぁっ。それなりに早撃ちは出来るけど、こりゃ長い道のりになりそうだ。」
「......いや、私は驚いてるぞ。初めてでここまで出来る者は中々いない。」
的を目掛けて発射された矢は、見事に全てが的を撃ち抜いており、五本中三本の矢が縦に真っ二つに裂けていた。......後の二本は片方の矢は裂け目が途中で止まり、もう片方は裂け目が途中で止まった矢に......矢の裂け目に挟まっていた。しかし、それを可能としたのがダークエルフの身体能力。速く、それでいて強く弦を引き絞り、撃つ。これは、人間では出来ないわ。
「ふぅっ。取り敢えず、【五月雨撃ち】ゲットか。」
「はぁっ!?今の一発で五月雨撃ちを習得できたのか!?」
今さっき弓スキルを手に入れたミツアキの言動に、驚きを隠せない教官。......何をそんなに驚いているのだろうか?訓練次第では、ポイントの上がる値も変わるのは当然だろ?たとえば、より有意義な訓練になったら上昇数が高い。とか、全然身にならなかったら上昇数が低いとか。......強い敵と戦って、勝ったら経験値がいっぱい入るみたいな感じだろ?ドラクエだってそうじゃん。
「ああ。バッチリ手に入れたぜ。しかも、多分敏捷スキルも手に入ったな。」
「敏捷スキル!?お前、どうやったらこんな早く......」
どうやら、このスキルも五月雨撃ちの習得過程で入手できるであろうスキルだったらしい。なるほどね。確かに計画乱されちゃ、ぐでーんとなるのもわかる。けどさ、俺は一発の技で二つのスキルを手に入れたんだ。先ずはそこんとこを褒めてくれよな。じゃなきゃ、アレだぞ。『頑張って結果を出したのに親が褒めてくれないからグレちゃった一人っ子』並みに扱いづらくしてやるぞ。どうだ?嫌だろ。
「しかし、お前の成長速度はあきれるものがあるな......。」
「まぁな。少し疑問はあったんだ。」
技を習得可能なスキルポイント値が定まっているということに。これではあまりもRPGっぽすぎる。もし、それが目安だったら?それが、『覚えた技を問題なく発動できる弓の扱い度』を可視化させたものだとしたら?......銃を持つことはできる。だが、銃の扱いに慣れていないと、反動でダメージを受けたり、狙ったところにいかないかもしれない......つまりは、そういう事なんだろう。
「何に?」
「あ~いや、覚える速度は人それぞれってことだ。覚えるならポイントが足りなくても行ける。いくらさっきのでスキルポイントが一気に上がったからって、50はいってないよ。せいぜい、45ってとこだな。」
「45も大分不味いのだが。それに、スキルポイントは必須と......」
「んなことねぇよ。解りやすく言うと、未成年が酒を飲むことはこの国でも禁じられてるだろ?だが、実際は飲めないことも無い。......大人よりも酔いやすかったり、体に害を及ぼすことがあったりするがってこと。」
「......本来定められていても、それに達していないからって出来ないことは無いと?」
「ああ。そんなピッタリポイントこれ!って指定されてるのおかしくねえ?つまり、まともに扱えるようになるにはこれくらいの数値が必要だよって言うものだったんじゃねーの?元々は。」
「......まともに扱えなくても、覚えることはポイントが足りなくてもできる」
ハッとした様子でつぶやく教官。あ。そう言えば、教官共感呼ぶのが癖になって、コイツの名前聞きそびれてたな。そうだよ。いつまでも訓練時間外なのに、教官って呼ぶのもアレだしな。
「......ま、訓練所とかでもそのポイントは必須って教わったんだろ?」
「......ああ。スキルを覚えることのできるポイント数が教科書に載っていた。」
なるほど。つまりは、だんだん時間が経つにつれて短く説明していって、その過程でご認識して......誤った情報が更新されてしまったと。
「たしかに、必須ポイントとってからの方が扱いやすさとかで言ったらいいんだろ。だが、まともに使えないかもしれないけど、それがあることでスキルポイントの上昇量にも違いが出るんじゃないか?」
「......!覚えたスキルを使って、敵を倒す!」
「そうだ。まともに使えないかもしれないが、威力が高いのは違いない。言ったら、五月雨撃ちなんて、弓の本数がご本なんだから、単純に五倍の攻撃力になるワケだ」
「その内の二本でも当たれば、普通に打つよりも威力は高い。」
「って、言う事だ。でだ。......そういやお前の名前聞いて無くない?」
「あ?」
おおう。急に凄むなよ。怖いじゃん。アレか?『訓練のときに何言っとんのじゃワレ』ってことか?なんで名前聞いただけでそんなに怒られちゃうんだよ。じゃあ、この間の宿の椅子壊しちゃったときの無言の笑みはこれよりも怒りのボルテージ高かったってことか?......当然だな。うん。