第37話 家族との再会
ギルドでは、思わぬことが史郎を待っています。
俺たちは、アリストのギルドへとやって来た。
俺がギルドの入り口を潜ると、部屋いっぱいの冒険者が拍手で出迎えてくれた。
俺は気恥ずかしく、小さな声で「ただいま」と言った。
人ごみの間から、小っちゃなギルマスが、ちょこちょこ近づいてきた。緑色の服を着た彼女は、相変わらず妖精みたいだ。
「シロー、おかえりー」
「キャロ、帰ったよ」
「ふふふ、獣人世界はどうだった?」
「後で詳しく話すよ」
「向こうのギルマスから、何か預かってない?」
「あ、これね」
背中の袋から小さな紙袋を取りだし、モミジのような手の平に載せた。彼女は紙袋の中に手を突っこむと、黒いギルド章を両手でぱっと頭の上にかざした。
「黒鉄ランク昇格、おめでとう!」
みんなが総立ちで拍手している。
アンデのやつ、やってくれたな!
「すげーな、黒鉄だってよ!」
「あれって、二国以上の王が承認しなくちゃいけないんだろ?」
「いつ以来だ?」
「雷神リーヴァス以来、誰も取ってないはずだぜ」
周りは大騒ぎだ。
「ガハハハ、とうとう兄貴に追いつきやがった!
大した野郎だぜ、まったく!」
マックが、また大きな手で、背中をどしどし叩いてくる。
「くそー、やっと追いつけたと思ったのに」
ブレットは悔しそうだ。
ミミとポルは、初めて見る黒鉄のギルト章を取りあっている。
まあ、みんながニコニコしているなら、それでいいかな。
こうして、俺は『黒鉄の冒険者』となった。
◇
ギルドから家へ続く、懐かしい道を一人で歩く。
コルナ、ミミ、ポルは、「今日は、家族水入らずで」と言って、ギルドの歓迎会に出た。部屋もギルドが用意してくれるそうだ。
遠くに小さく家の灯りが見えてきただけで、俺は胸がいっぱいになった。
家のドアを開ける。
「ただいま」
中から、ものすごいスピードで二人の少女が飛びだしてきて、ドーンドーンと俺にぶつかる。
「パーパッ!」
「パーパ、おかえりー!」
俺の腰にぐりぐり押しつけられるナルとメルの頭を、優しく撫る。
「ただいま。
二人とも元気そうだね」
娘たちは頭を擦りつけるのに忙しく、黙っている。
ふと気づくと、薄紫のドレスを着たルルが目の前に立っていた。
髪には、セイレンの花が飾られている。
ルルは記憶の中の彼女より、さらに美しく可憐だった。
「お帰りなさい……」
彼女はそう言うと、そっと俺の胸に顔を埋めて来た。
「ただいま、ルル。
ナルとメルの事、ありがとう」
俺は、ルルを強く抱きしめるのだった。
◇
俺がリビングに入ると、リーヴァスさんが待っていた。
彼はルルの祖父であり、この国の建国の英雄だ。さっき分かったけれど、『黒鉄の冒険者』の先輩でもある。
俺たちは、がっしり握手する。
「お帰りなさい。
また一回り大きくなられたようですな」
リーヴァスさんは、俺と目を合わせると、そう言った。
五人でソファーに座り、ルルが入れてくれた香草茶を飲む。娘たち二人は、ミルクだ。
ナルとメルは、俺のところにミルクの白い輪っかがついた口を突きだしてくる。俺が拭いてやると、すごく嬉しそうな顔でルルに抱きついていく。
「みんな、庭に出てもらっていいかな」
お茶を飲むと、五人で家の庭に出る。
みんなが庭の端に寄るのを確認してから、点ちゃん1号を出した。
今日は、白銀色にしてある。
「「うわーっ!」」
飛行艇を見た子供たちが、歓声を上げる。
俺は、四人を点ちゃん1号の中へ案内した。
そこは、ふかふかの敷物やソファーが置いてある「くつろぎ」仕様だ。
「旦那様、これは、一体?」
ルルが驚きのあまり、元の呼び方になっている。
「これね、点ちゃんと作った、飛行機なんだ。
せっかくだから、ちょっと飛んでみようよ」
点ちゃん1号は、俺たちを乗せ音もなく上空へ。
ある程度上がったところで、俺は壁を透明にした。
「「うわーっ!!」
ナルとメルは、上空から見るアリストの夜景に夢中だ。
月明かりに照らされた、お城やその城下町、湖が箱庭のように眼下に広がっている。
「これは、壮観ですな」
リーヴァスさんも、感動している。
俺はルルの手を取ると、この世界の美しさを一緒に味わうのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
とうとう史郎が「黒鉄の冒険者」に!
感慨深いものがあります。
使えない魔術師として城を放りだされてから、本当に頑張った。
え? なになに点ちゃん。
ご主人様は、のんびりしていただけだよって?
まあ、その通りだけど……。
今だけは少し褒めておこうよ。
では、次回につづく。




