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ポータルズ ー 最弱魔法を育てよう -  作者: 空知音(旧 孤雲)
第18シーズン ダンジョン群発編
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第11話 異変の始まり――獣人世界(下)

前話:神聖神樹が倒れたことでポータルズ世界群に異変が起こった。獣人世界での異変調査を冒険者ギルドから依頼された、コルナ、ミミ、ポルは獣人大陸西方にある森を訪れた。


 ミミ、ポル、そしてキューを抱えたコルナが連れてこられたのは、森の中にそびえ立つ、ひときわ大きな木の下だった。

 相変わらず巨体のオーガ五体が三人をとり囲んでいる。

 

「これは……神樹様」


 巨木を見上げたコルナが思わず口にする。

『神樹の巫女』である彼女には、それが神樹であるとすぐに気づいた。

 巨木の根元と地面との間には大きな穴があり、周囲に散った土くれは、その穴ができてからそれほど時間がたっていないと告げていた。

 穴の入口は黒い液面のようになっていて、それがゆらゆら揺れている。


『さあ、この中へ入れ』  


 オーガに促され、三人は穴の中へと入っていく。

 入るとすぐ視界が暗くなったが、それもわずかの間で、彼らの目の前には、うっそうとした森の風景が広がっていた。


「え? どういうこと?

 なんで地面の中に森があるの?」


 ミミが戸惑いを口にするが、それはポルも同じだった。


「上を見てごらん、空があるよ。

 どういうことだろう?

 この場所からなら、木の根元が見えるはずなんだけど……」


 ところで、一人だけ落ちついているコルナは、その解答らしきものを知っていた。


お兄ちゃん(シロー)から聞いたとおりじゃな。

 どうやら、ここは異世界らしい」


「「異世界!?」」


「そうじゃ、アリストがあるパンゲア世界でもゴブリンやオーク、オーガが確認されておってな。

 お兄ちゃん(シロー)が調べたら、どうやらまだ知られておらぬ異世界から来た者たちじゃったそうじゃ。

 おそらくこやつらも、同じ世界から来たのじゃろうて」


「へえ、だからいつもの指輪では会話ができなかったんですね」


 さすがにポルは察しがいい。


 森の中をさらに進むと、周囲に比べ背の低い灌木がもこもこと繁る場所までやってきた。

 そこはオーガの集落らしく、ドーム状の繁みには、あちらこちらに木製の扉らしきものが見られた。

 その一つが勢いよく開き、やけに小柄なオーガが出てくる。

 首周りに色とりどりの宝石を巡らせ、光沢ある薄布を幾重にも身にまとった見目麗しい少女だった。


『何者だ、その者たちは?』


 美しい声色には、まぎれもない威厳が聞きとれた。 

 コルナたちをとり囲んでいたオーガたちが、さっと地に片膝を着く。ただ、三人に対する警戒心からか、全員が槍を手にしたままだった。


『例の穴の外で捕らえてまいりました。

 姫様、こやつら、ここが我らの世界と違うなどと戯言たわごとを申しております』


『なんだそれは?

 そのようなことがあるはずがなかろう。

 確かに向こうにある妖しげな黒い穴からしか外に出られぬようだが、ここは我らのさと、「オウランの地」そのものだぞ』


 オーガの姫が周囲をぐるりと指さす。

 灌木にはめ込まれた扉からは、老若男女のオーガたちがぞろぞろと出てくる。彼らは姫に気づくとさっと平伏した。 

 そこでコルナが一歩だけ前に出ると、両手のひらを胸の前で合わせる獣人の礼をあらわしてから姫に向かって話しかけた。


「オーガの姫君とお見うけする。

 我らは冒険者ギルドの依頼でこの地を調査している。

 こちらは、話しあいを臨んでいるだけ。

 どうか応じてほしい」


『ボーゲンシャ? 

 なんじゃそれは。

 そのようなもの知らぬな。

 だが、話だけなら聞いてやらんこともない。

 ただし、それはお前らが武威を示してからだ』


「武威?

 つまり、お主らと戦えということか?」


『その通り。

 弱い者との話しあいなど、時間の無駄だからな』


「えー、この人たち、じゃなかった、このオーガたちって完全に脳筋じゃない」


「ミミ!

 向こうに聞こえちゃうよ!

 ボクらも指輪してるんだから!」


「あっ、しまった!

 指輪のこと忘れてた!」


『ほう、そこに威勢のよいのがおるではないか。

 これは決闘がたのしみだな』


「怖っ!

 あの姫様、こめかみに青筋浮いてるし――」


「だから、それも全部聞かれちゃってるから!」


『者ども、決闘の用意をせい!』


「あー、言わんこっちゃない……」


「なによ、ポン太!

 私が悪いわけ?

 向こうは最初からやる気だったのよ?」


 ミミとポルが軽口を叩きあってる間にも、オーガたちが手慣れた様子でリングを作りあげた。

 それは直径十五メートルほどある円形のもので、太いツタのロープで囲まれている。

 一度リングの中に入ると、逃げ道はなさそうだった。


 ◇


 リングをとり囲んだオーガたちは、まるでお祭り騒ぎだった。

 目の前でこれから決闘が行われるというのに、殺伐とした雰囲気は全く感じられない。

 小さな子どもオーガまでが、目を輝かせて観客席に座っている。

 観客席といっても、ただ土の上にゴザのようなものを敷いただけなのだが。


『おう、ゴラゴラよう、おめえ負けんじゃねえぞー!』

『なんせ姫様が見てんだからなー!』

『そんなちんちくりんな相手に負けたら一族の恥だぞー!』


 オーガ側の「選手」は、三メートルほどあろうかという巨体だが、ひき締まった体は鋼のようだった。

 もともと赤みを帯びたその皮膚が汗で赤銅色に輝き、つり上がった目じりとへの字に食いしばった口は、まさに赤鬼そのものだった。

 手には武器を持っていない。オーガの決闘は素手で行われるようだった。


「ちょ、ちょっとポン太、アレが相手でホントに大丈夫なの?!」


 リングサイドに置かれた、丸太の特別席に座ったミミが、震え声でポルに声をかける。

 冒険者の服を上半身だけ脱いだポル少年の体は、無駄な肉はついていないものの、それがますます頼りなく見えた。

 彼はどこまでも落ちついており、相手の巨体をただじっと観察していた。


『始めよ!』 


 オーガの姫が高らかに開始の合図をすると、観戦するオーガたちがわっと湧いた。

 オーガ側の選手ゴラゴラは、巨体とは思えぬほどのスピードで、ポルに突進する。


『がーっ!』


 少年の小さな体は、赤鬼の巨体に押しつぶされたかに見えた。


『ぐがっ!?』


 ところが、ゴラゴラは、リングを形づくる太いツタのロープに巨体を弾かれ、尻もちをついてしまった。

 それを見た観客から笑い声が上がる。

 ポル少年はというと、試合開始前に相手がいた位置で静かに立っていた。

 体の力を完全に抜いた自然体は、なぜか力強さを感じさせ、小さな体がずっと大きく見えた。


『……こ、こいつ!』 

 

 先ほどまで完全に相手をなめていたオーガの大男は、立ちあがると警戒する色を見せた。

 しかし、すでに勝負は決まっていた。

 ポルの体がゆらりと揺れたかと見えた次の瞬間、彼の姿は消えた。


 コココココ


 木と木を打ちあわせるような音がリングに響く。

 音が消えるとポル少年がリング中央に再び立っており、オーガの巨体は、糸が切れた人形のようにむき出しの地べたへ崩れおちた。

 先ほどまで騒いでいた観客が、水を打ったように静まりかえる。


『少年の勝ちだ』

 

 立ちあがったオーガの姫が、驚いたままの顔でそう宣する。

 ツタのロープを身軽に跳びこえたポルにミミが駆けよる。


「ポン太、すっごい!

 あんな大っきなオーガを一瞬でやっつけちゃった!」


 日頃ないことだが、手放しで少年をほめたたえる。

 

「うむ、よくやったぞ、ポル。

 さすが、『雷神』リーヴァス殿の弟子じゃの」


 キューを抱えていない方の手を伸ばし、コルナがポルの頭を撫でた。


『ちょっと待て!

 お前、あやかしの術をつかったな?』


 オーガにしては小柄な若者が、ポルに言葉をぶつける。

 その後ろには、四、五人、オーガの若者が並んでいる。


「君が言ってるのは、魔術のことかな。

 それならつかってないよ」


 興奮している相手に対し、ポルが冷静に答える。

 

『嘘を言え!

 お前みたいなちっこいやつが、ゴラゴラ兄さんに勝てるはずがない!』

 

 どうやら、オーガの若者は、先ほど負けた選手の弟らしい。

 

『こんなやつら、俺がやっつけてやる!』 


 若者だけでなく、彼がひき連れていたオーガたちまでがポルに跳びかかろうとした。


「きゅ~!」


 コルナが抱いていた白ふわ魔獣のキューが一声鳴くと、いきなり白い毛が辺りを覆い、オーガの若者たちがそれに埋もれた。


『もがもがもがー!』


 不思議なことに、コルナたち三人は、もこもこした白い毛の小山からすっと外に出てきた。


「あれ?

 私たちだけ大丈夫なの?」


 ミミが驚くのも無理はない。

 どうやら、これが『幻獣』となったキューの能力らしい。


『若いのが無礼を働いてすまぬ。

 この不届き者どもは、わらわがしっかり仕置きしておくから許せ』


 いつの間にか横に立っていたオーガの姫が頭を下げる。


「ふむ、やっとこちらの話に耳を貸してくれそうじゃな」


 コルナはキューの小さな頭を撫でながらそう言うと微笑んだ。

 その笑顔は、オーガたち、特に若い男性たちの心を打ちぬいた。

 

 読んでくださってありがとう。

 ポルが大活躍しました。

 

(*'▽') キューちゃんもね!


 もちろん。

 次話へつづく。


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