第28話 獣人の誇り
今回は、ポルが活躍します。
湖沼地帯の南に広がる草原には、一夜城ならぬ、一夜町が作られていた。
俺は、捕えてきた猿人を、『土の町』と呼んでいるこの場所に住まわせていた。
ここは犬人族領と猫人族領の間にあるので、その二つの部族により、食べ物などの補給がなされている。
こうしている間にも、点ちゃんが、次々と『土の家』を建てていく。
決まった形の家を建てるだけなら、点一つにつき、一つの家を建てられることが分かってからは、建築スピードが急に上がった。
すでに、百以上の家が建てられ、今もどんどん数が増えていた。
山岳地帯で、すでに『土の家』を見ていたアンデでさえ、口をポカンと開け、それを見ていた。
「まあ、点ちゃんも張りきってるから、いいんじゃないかな」
俺自身は、のんびりしたものだ。
「アンデ。
じゃ、今日も行ってくるから、後は任せたよ」
「あ、ああ。
もう、好きにしてくれ」
俺は点ちゃんで作った飛行艇、『点ちゃん1号』に乗りこみ、それを上昇させる。
「お兄ちゃん、今日は空中デートだね!」
「なに言ってるの!
史郎君、もっとこっちに来て!」
なぜか、コルナと舞子が一緒だ。
聖女が同行すると言った時には、さすがに各方面から猛反対があった。しかし、鶴の一声ならぬ、聖女の一声であっさりそれを退け、彼女は任務に参加することになった。
「ふぁ~」
眠そうなのは、ミミだ。
今回の任務は、獣人会議からパーティ・ポンポコリンへの指名依頼という形になっている。俺の指示で、舞子が指名依頼を出したのだ。
聖女が依頼した任務だから、これには全部族がすすんで協力している。
「銅ランク初の任務です。
緊張します」
これは、ポルだ。コネカ村での探索や狐人族領への旅を乗りこえ、ミミとポルは共に銅ランクとなっていた。
俺は、昨日『土の町』であったことを思いだしていた。
◇
猿人の捕獲は、最初、俺一人でおこなった。
点ちゃん1号で南部に飛んでいき、空中から点をばらまくだけなので人手はいらない。
それは、連れかえった猿人を『土の町』へ降ろした時に起きた。
自分の家族や親戚、友人や恋人を猿人に奪われた獣人たちが、武器を持ち集まってきたのだ。もちろん、復讐のためだ。
血走った目の獣人が、ブルブル震える猿人たちを取りかこみ、数秒後には血が舞うだろうと思われた時だった。
囲みを破り俺が猿人たちの前に立った。
俺は、ポルを連れてこの場に臨んでいる。
「お前たち、彼が何族か分かるか?」
俺は、ポルを指さす。
「「「……」」」
猿人からは、声も無い。
俺は一番体格がいい男を猿人の集団から点魔法で吊りあげ、ポルのすぐ前に下ろした。
「もう一度聞く。
この子が何族か、分かるか?」
「た、狸人族です」
猿人の男が、うつむいたまま答える。
「狸人族は、もうほとんどいないらしいな。
なぜだ?」
俺は、静かな声で重ねて尋ねた。
さっきまで騒いでいた獣人たちも、今は水を打ったようにシーンとなっている。
「……」
「答えろ!」
俺は低くした声で、再度問う。
「さ、猿人族が、ほ、滅ぼしました」
言葉の最後で、猿人の男は膝から崩れおちた。
俺が点魔法でやったのではない。
「なら、お前たちが同じ目に遭っても文句はないな?」
「……」
「答えろ!」
俺は、切りつけるように言葉をぶつける。
男は下半身から湯気を立てながら、やっと答えた。
「ゆ、許して、許してくだ「馬鹿なことを言うな! そんなことが通用するかっ!」
謝罪の言葉を俺が途中でぶった切ると、周囲の獣人からも同意する声が上がった。
「許すもんか!」
「あの子を返して!!」
「私のお母さんはどこ!!」
俺は男の胸倉をつかみ、こう言った。
「ふざけるな!
許してもらえるとでも思ってたのか!」
そして、俺は周囲に集まっている獣人を見回した。
「こいつらの命をどうするか、この狸人族の少年に決めてもらおうと思うが、どうだろう。
反対する者は?」
「それでいいぞ!」
「少年に任せる」
「いいわ、あなたに任せる!」
みんな、狸人族の悲劇をよく知る者たちだ。自分と同じ、いや、それ以上の体験を潜りぬけた、この小さな少年に全てを託す事に反対する者はいなかった。
全員が真剣な表情で、狸人の少年、ポルナレフの言葉を待った。
彼はしばらくうつむき、何かじっと考えているようだった。
そして、とうとう口を開いた。
「ボクは……ボクは……猿人が許せません」
群衆から同意の声が上がる。
「しかし、殺そうとも思っていません」
獣人たちからは、血を吐くような叫びがあがる。
「なんでだ!!」
「どうしてよっ!?」
「殺すと言ってくれっ!」
ポルは、静かに続けた。
「ボクも、そうしたいと何度思ったか知れません。
しかし、この人たちが人族に命令されて行動していたのも事実です。
もし、今、この人たちを殺したなら、ボクも彼らの後ろにいた人族と同じになります」
ポルは、そこで言葉を切った。
「ボクは、父さん母さんの血を受けついだ、誇りある狸人です。
そのようなことをした人族と同じになることは、断じてできない!」
少年の言葉は、太い杭のように突きささった。
猿人の心にも。
他の獣人たちの心にも。
「それでいいのか、ポル?」
「これでいいんです」
ポルはそう言うと、にっこり笑った。
俺は彼の頭を撫でると、周囲を見わたした。
さっきまで、血を求め我を失っていた獣人たちの目に、落ちつきが戻っている。
「そうだ……そうだな。
俺たちは、誇りある獣人だ!」
「あなたの言うとおりよ!」
「獣人の誇りを汚すわけにはいかんな!」
「そうね、あの子に恥ずかしくないように、獣人として立派に生きなければ」
猿人をとり囲んでいた、武器を持った獣人は、まるで憑きものが落ちたかのように、静かにその場を立ちさった。
まだ震えている猿人の中から、一人の老人が進みでた。
「誇り高き狸人族の少年よ。
あなたの名前を教えていただけないだろうか」
ポルは俺の方を見た。
俺が頷くと、彼は堂々と自己紹介した。
「私の名前は、ポルナレフ。
神獣様の御言葉を守る、狸人族です」
猿人の老人は、こう言った。
「我らは、まだ名乗ることができません。
自分たちの恥辱にまみれた行いで、我が一族の誇りは地に落ちてしまった。
だが、それを取りもどせる日まで、貴方にお仕えしたい」
老人は言葉を続けた。
「本当なら、聖女様にお仕えすべきなのでしょうが、我らにその資格はありますまい。
どうか、あなたに我々を導いて頂きたい」
老人が平伏すると、他の猿人もそろって平伏した。
俺は、大人たちの行為がまだ理解できず、うろうろしている猿人の子供たちを集め、お菓子を配った。
身軽な猿人の子供たちは、俺の体をジャングルジムのように使い、遊んでいた。
ポルを彼らの前に連れてきたとき、こうなることが分かっていたかというと、そうではない。
ただ、獣人たちの問題は彼ら自身が解決すべきだと思っていた。そして、ポルならば彼らに何か与えられるだろうという予感はあった。
こうして、ポルナレフは猿人たちを率いることになった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
ポルの判断は、いかがでしたか?
作者は、とても彼らしいと思います。
では、次回に続きます。




