第27話 狩るもの、狩られるもの
今回は、襲撃を行っている猿人側の視点です。
猿人族の背後にいるのは?
獣人世界グレイル『時の島』大陸南部にある、猿人族の町。
コンクリート造りだろうか。
北部では見られぬ、直線が多く使われた建物が立ちならんでおり、もし、史郎がそれを見たなら、日本の地方都市に似ていると思っただろう。
その町のとある一室で、人族の女性が頭を抱えている姿が見られた。
ソネルは当惑していた。
この地のフィールドワークは、今まで順調すぎるほど順調だった。
彼女は、他の二人の人族と違い、研究職には興味が無かった。彼女の夢は、学園都市で上級教師として生徒を教えることだった。
生徒たちから尊敬される先生、それが彼女の夢だった。
薄給で生徒からそれほど尊敬されない下級教師の職は、彼女のプライドが許さなかった。
このフィールドワークは、彼女に上級教師としての道を約束するはずだった。しかし、三日前、モーゼス教授からの定時連絡が途絶えた。
その後、全く連絡が取れない。
事あるごとにデートの誘いをかけてきた、いけ好かないミゼットも、いなくなってしまうと少し心配だ。
不気味なのは、彼らと一緒に行動していた虎人の行方も分からなくなっていることだ。調査班が丸ごと消えたような形だ。
魔獣に襲われるなどのトラブルも考えられたが、全員からの連絡が無いのは、普通ではない。今、現地には虎人の調査隊が入り、捜索を始めている。
「先生、こちらにいらっしゃいましたか」
若い猿人が、食事を載せたお盆を持ち、入ってくる。
「ああ、ゼロス。
まだ、報告は無いの?」
男は、お盆をテーブルの上に置くと、ソネルの方を向いた。
「まだ、ありません。
それより、我々が調査に入らなくてもよいのですか」
「う~ん、それがね。
本国に打診してみたけど、無理みたいなのよ」
「なぜでしょう」
「ん~、なぜだろうね。
場所が、他の獣人のテリトリーに入りこみすぎてるからかな」
「それが、どうして?」
「あなたも、そこの広場に犬人が現れたら驚くでしょ?」
「ああ、そういうことですか」
「だから、虎人を使ってみたんだけど、どうもダメだったみたいね」
「それは、猿人族と較べると、虎人族は劣りますからね」
「どうすればいいか、途方に暮れてるところなの」
その時、バタバタと足音がしたと思ったら、猿人の若者が飛びこんできた。
「大変です!」
「ゼラス!
失礼だぞ、きちんと挨拶をしろ」
「兄者、そんなこと言ってる場合じゃない!
村が襲われた!」
「なに!」
「どういうことか、説明してくれる?」
「はい。
その村に出入りしている商人が今朝行ってみると、住人はもぬけの殻だったそうです」
「目撃者はいないの?」
「隣村の男が、空を飛んでいる人々を見たと言ってますが、まあ、酔っ払いの言うことなので、誰も信じてはいません」
「他に、目撃者はいないの?」
「何ぶん、夜半から早朝にかけてのことで、付近には誰もいませんでした」
「何という村です?」
「ソツ村です」
それを聞くと、ゼロスと呼ばれた猿人がガタリと立ちあがった。
「何!
ジ、ジーナはっ!?」
ゼラスは、黙ったまま答えない。
「な、何てことだ!
ジーナ……」
ゼロスは、力なく床に座りこんでしまった。
「それから、いたずらかもしれませんが、このような手紙が置いてありました」
ゼラスは、白い大型の封筒をソネルに渡した。
獣人族の文字が読める彼女は、中の手紙を取りだし、それを読みあげた。
「猿人族の諸君。
自分の知人、愛する人が消えた気持ちはいかがだろうか。
君たちがこれまでやってきたことを、身をもって体験してもらおう。
これは、君たちがさらった獣人が、全て戻ってくるまで続く。
他の部族におこなったことを自分たちがされて、まさか悲しんだり、後悔したりはしていないだろうね。
では、またどこかで」
「こ、これはいったい!」
「族長には、もう知らせたの?」
「はい。
族長から、あなたに知らせるように言われました」
さらって来た獣人のほとんどは、すでに学園都市世界へ送ってある。今更、取りかえすことなどできるはずもない。
手紙の主が言葉通り実行できるなら、全ての猿人がいなくなるまで、これが続くことになる。
「これをどの部族がやっているか、見当はついているの?」
「いえ。
しかし、北部部族は『聖女』によって、一つにまとまりつつあるという情報があります」
「何ですって!?」
なるほど『聖女』が後ろにいるなら、教授達の失踪にも理由がつく。ぐずぐずしている場合ではない。
「今すぐ族長に会わせて」
ソネルは、これをどう学園都市へ連絡したらよいか、見当もつかなかった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
この話は、後に多くの話と繋がることになります。
では、また明日。




