第21話 二人の歌姫(中)
舞台の幕が上がります。
自分史上最高の舞台だった。
そして、観客にとっても。
踊りながら歌いおえたジョセフィンは、向きを変えながら、満員の客席に手を振った。
拍手と歓声が押しよせる。
歌手として、これ以上望めないひと時だ。
だから、彼女はそれをそれ以上のものにしたかった。
家令のフォルツァがしくじらなければ、その時は間もなく訪れるだろう。
かつて高名な冒険者であった彼が、あれしきの仕事をしくじるとは思えない。
特等席でそれを楽しむため、舞台袖に下がると、ジョセフィンは着替えもせず自分の客席へと急いだ。
「最高でしたわ!」
「素晴らしい歌と踊りでした!」
「あなたの歌、忘れませんわ!」
客席の通路で、観客から次々と声がかかる。
自分の席に腰掛けながら、ジョセフィンは、弾む心の中で思っていた。
ふふふ、あなた方には、もっと驚いてもらいますわよ!
◇
「さて、栄誉ある舞台の最後を飾りますのは、同じくノンコラからやってきた『ポンポコ歌劇団』です!」
司会の男性が、拡声の魔道具で紹介すると、舞台の右袖から、獣人の少女が大きな玉を転がしながら現れた。
期待していた観客の顔に、「おや?」という表情が浮かぶ。
獣人の少女は、客席に向けぺこりと頭を下げ、押してきた青い玉の上に、ひらりと跳びのった。
玉の上でバランスを保ち、縦横に舞台を動く彼女の演技は、しかし、観客には受けなかったようだ。
「おい!
大道芸ならよそでやれ!」
「そうだそうだ!」
「ひっこめ!」
そんな罵声まで飛びはじめる。
ところが、舞台袖から小さな魔獣が四匹現れると、歓声の方が大きくなった。
「きゃー、かわいい!」
「なにあれ!」
「見たことないわ!」
四匹は、なんと客席に向けぺこりと頭を下げることまでした。
かわいいものが好きなお客は、もうメロメロになりかけている。
そして、四匹の中で一番大きな、猪の子らしい魔獣が、舞台をちょこちょこ走った後、青い玉と少女の体を駆けあがり、彼女の頭に四本足で立った。
「「「きゃーっ!」」」
子供たちは、もう舞台に夢中だ。
そして、次は白く丸い魔獣が、ちょこちょこ走りだした。
「「「カワイー!」」」
それだけで、黄色い声が飛ぶ。
白い魔獣は転がるように、青い玉と少女の体を登ると、猪っ子の背中にぽふりと座った。
「「「きゃーっ!」」」
歓声がさらに大きくなる。
さらに、白い小さな魔獣と、黒い小さな魔獣が、滑らかな動きで玉を駆けのぼる。
二匹は、白く丸いふわふわ魔獣の上に背中合わせに香箱座りすると、その右前足をひょいと上げた。
いわゆる招き猫のポーズだ。
下でバランスを取る少女が、玉の向きをゆっくり回すから、その頭に乗る魔獣も向きを変える。
小さな子供たちが、歓声を上げながら舞台に走りより、係員に止められた。
女帝も、わざわざ立ちあがって拍手している。
玉の上で少女が礼をすると、それによって前に崩れた魔獣の「積み木」が、見事に横一列にぴたりと並んだ。
「すげー!」
「あんなの見たことねえぞ!」
「なんてカワイイの!」
絶賛の中、少女と魔獣は舞台左袖へ消えた。
期待が高まる中、次に現れたのはルルだった。
◇
抜けるように青いドレスの上に、淡い紫色のベールを羽織ったルルが舞台に上がると、その可憐さに男女問わず、ため息がもれた。
舞台裏に立つリーヴァスが愛用の横笛をそっと唇に当てる。
玄妙な笛の音が舞台からあふれ出し、客席へと広がっていく。
アリストに古くから伝わるその曲は、人々の心を鷲掴みにする力があった。
彫像のように停まっていたルルが、ゆっくり動きだす。
薄いベールが、キラキラと輝きながら、彼女を包み、そしてひるがえる。
客席から声が消え、笛の音と踊りだけの世界が扉を開ける。
特別席では、急に立ちあがった女帝に、若い宰相が何もできず立ちつくしている。
ぶるぶる震える女帝は、その目から涙が止めどなくあふれていた。
宰相は、今までそのような女帝を見たことがなかった。
彼女が、他の観客のように、少女の踊りに魅入られたわけでないのは明らかだった。
なぜなら、女帝の目は閉じられていたからだ。
その閉じられたまぶたを縁取るように涙があふれ、そしてこぼれ落ちる。
女帝の涙はとどまることを知らなかった。
宰相は、なにを言うべきか分からず、ただうろたえるだけだった。
読んでくださってありがとう。
『天女祭り』の舞台が始まりました。
ミミとルルのパフォーマンスでした。
女帝の様子が気になります。
次回はいよいよコリーダの歌です。
ジョセフィンの妨害工作は?
明日へつづく。




