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ポータルズ ー 最弱魔法を育てよう -  作者: 空知音(旧 孤雲)
第15シーズン 狙われた聖女編
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第21話 二人の歌姫(中) 

 舞台の幕が上がります。


 自分史上最高の舞台だった。

 そして、観客にとっても。


 踊りながら歌いおえたジョセフィンは、向きを変えながら、満員の客席に手を振った。

 拍手と歓声が押しよせる。

 歌手として、これ以上望めないひと時だ。

 だから、彼女はそれをそれ以上のものにしたかった。


 家令のフォルツァがしくじらなければ、その時は間もなく訪れるだろう。

 かつて高名な冒険者であった彼が、あれしきの仕事をしくじるとは思えない。

 特等席でそれを楽しむため、舞台袖に下がると、ジョセフィンは着替えもせず自分の客席へと急いだ。


「最高でしたわ!」

「素晴らしい歌と踊りでした!」

「あなたの歌、忘れませんわ!」


 客席の通路で、観客から次々と声がかかる。

 自分の席に腰掛けながら、ジョセフィンは、弾む心の中で思っていた。

 ふふふ、あなた方には、もっと驚いてもらいますわよ!


 ◇


「さて、栄誉ある舞台の最後を飾りますのは、同じくノンコラからやってきた『ポンポコ歌劇団』です!」


 司会の男性が、拡声の魔道具で紹介すると、舞台の右袖から、獣人の少女が大きな玉を転がしながら現れた。  

 期待していた観客の顔に、「おや?」という表情が浮かぶ。


 獣人の少女は、客席に向けぺこりと頭を下げ、押してきた青い玉の上に、ひらりと跳びのった。

 玉の上でバランスを保ち、縦横に舞台を動く彼女の演技は、しかし、観客には受けなかったようだ。


「おい!

 大道芸ならよそでやれ!」

「そうだそうだ!」

「ひっこめ!」


 そんな罵声まで飛びはじめる。

 ところが、舞台袖から小さな魔獣が四匹現れると、歓声の方が大きくなった。


「きゃー、かわいい!」

「なにあれ!」

「見たことないわ!」


 四匹は、なんと客席に向けぺこりと頭を下げることまでした。

 かわいいものが好きなお客は、もうメロメロになりかけている。

 そして、四匹の中で一番大きな、猪の子らしい魔獣が、舞台をちょこちょこ走った後、青い玉と少女の体を駆けあがり、彼女の頭に四本足で立った。


「「「きゃーっ!」」」


 子供たちは、もう舞台に夢中だ。

 そして、次は白く丸い魔獣が、ちょこちょこ走りだした。


「「「カワイー!」」」


 それだけで、黄色い声が飛ぶ。

 白い魔獣は転がるように、青い玉と少女の体を登ると、猪っ子の背中にぽふりと座った。


「「「きゃーっ!」」」


 歓声がさらに大きくなる。

 さらに、白い小さな魔獣と、黒い小さな魔獣が、滑らかな動きで玉を駆けのぼる。

 二匹は、白く丸いふわふわ魔獣の上に背中合わせに香箱座りすると、その右前足をひょいと上げた。

 いわゆる招き猫のポーズだ。

 

 下でバランスを取る少女が、玉の向きをゆっくり回すから、その頭に乗る魔獣も向きを変える。

 小さな子供たちが、歓声を上げながら舞台に走りより、係員に止められた。

 女帝も、わざわざ立ちあがって拍手している。 


 玉の上で少女が礼をすると、それによって前に崩れた魔獣の「積み木」が、見事に横一列にぴたりと並んだ。


「すげー!」

「あんなの見たことねえぞ!」

「なんてカワイイの!」


 絶賛の中、少女と魔獣は舞台左袖へ消えた。

 期待が高まる中、次に現れたのはルルだった。


 ◇


 抜けるように青いドレスの上に、淡い紫色のベールを羽織ったルルが舞台に上がると、その可憐さに男女問わず、ため息がもれた。


 舞台裏に立つリーヴァスが愛用の横笛をそっと唇に当てる。

 玄妙な笛の音が舞台からあふれ出し、客席へと広がっていく。

 アリストに古くから伝わるその曲は、人々の心を鷲掴みにする力があった。


 彫像のように停まっていたルルが、ゆっくり動きだす。

 薄いベールが、キラキラと輝きながら、彼女を包み、そしてひるがえる。

 客席から声が消え、笛の音と踊りだけの世界が扉を開ける。


 特別席では、急に立ちあがった女帝に、若い宰相が何もできず立ちつくしている。

 ぶるぶる震える女帝は、その目から涙が止めどなくあふれていた。

 宰相は、今までそのような女帝を見たことがなかった。   

 彼女が、他の観客のように、少女の踊りに魅入られたわけでないのは明らかだった。

 なぜなら、女帝の目は閉じられていたからだ。

 

 その閉じられたまぶたを縁取るように涙があふれ、そしてこぼれ落ちる。  

 女帝の涙はとどまることを知らなかった。

 宰相は、なにを言うべきか分からず、ただうろたえるだけだった。

 

 読んでくださってありがとう。

『天女祭り』の舞台が始まりました。

 ミミとルルのパフォーマンスでした。

 女帝の様子が気になります。

 次回はいよいよコリーダの歌です。

 ジョセフィンの妨害工作は?

 明日へつづく。

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