表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポータルズ ー 最弱魔法を育てよう -  作者: 空知音(旧 孤雲)
第2シーズン 獣人世界グレイル編
77/927

第20話 逆転

 絶体絶命の史郎は、窮地を逃れることができるのか。



 虎人は、それぞれが懐から黒い筒を取りだし、筒の先をこちらに向けると地面に置いた。ローブを羽織り、顔を隠した小柄な虎人が呪文を唱える。点ちゃんがいない今、俺に魔道具の炎を防ぐすべはない。

 死を前にして、俺は自分が思ったより冷静なことに驚いていた。


 最後の瞬間まで諦めない。

 畑山さんとの約束、ルルとの約束が脳裏をよぎる。

 しかし、何本もの黒い筒の先から吹きだした炎の大波が、情け容赦なく俺に押しよせた。


 ◇


 アンデは先頭に立ち村人を森へ逃すと、集落にとって返し、虎人と戦っていた。


 なぜか最初襲ってきたときより数が減った虎人は、次第にギルドメンバーによって倒され、拘束されていく。


「聖女様はっ!?」


 叫ぶようなアンデの声に、隊員の一人が山の方を指さす。


「聖女様は、あちらへ逃げました。

 シローと一緒です」


「よし!

 お前ら、ついてこい!」


 アンデは、聖女とシローの救出へと急いだ。


 山道の行きどまりは崖となっており、今しもその崖の下を、青白い炎の波が荒れくるっていた。

 数人の虎人が炎を取りかこんでいる。

 聖女とシローがあの中なら、すでに灰となっているだろう。

 アンデたちが虎人のところにたどり着く頃には、炎を出しつくした魔道具が立てる、シューシューという音がしていた。

 魔道具が向いている方に人影はない。骨も残さず燃えつきたのだろう。


「貴様ら!」


 膨れあがった怒りで、アンデが虎人に襲いかかろうとした瞬間。その声が、聞こえてきた。


 ◇


 時は少し戻る。


 何本もの焼殺の魔道具から、一斉に炎が向かってきたとき、さすがの俺も死を覚悟した。

 ところが、炎は目の前でぴたっと止まっている。なにより、近くに炎があるのに熱くもない。


『(^▽^)/ ご主人様ーっ!』


 点ちゃん!!


『(;ω;) やっと会えたーっ』


 点ちゃん……いったい、どこ行ってたの!


『↑(・ω・) レベルが上がって、適応するのに時間が掛かってたみたいです』


 点ちゃんは、無事なんだね。


『(^ω^) 超元気ですよー』


 確かに、超ぴょんチカしてるな。

 なんで、そんなことになったの?


『(・ω・) よく分かりません。 

 私が生まれたのとは違う世界で、レベルが上がったからなのか。

 もしかすると、レベル11になったからかもしれません』


 えっ!?


 レベルの上限は、10じゃないの?


『Lv11(・ω・) 普通の魔術なら、そうなんですが。

 私には、当てはまらなかったようです』


 点ちゃんシールドにぶつかる、炎の勢いが弱くなってきた。

 とにかく、詳しいことは後で聞かせてね。

 今は、こいつらをやっつけちゃおう。


『(^▽^) キュン、ジュバッて消しちゃいますか』


 いや。こいつらは、動けなくするだけでいいよ。


『(^▽^)/ 了解でーす』


 俺は、岩の影から外に出た。


 ◇


「ふう~、なんとかなったな」


 大岩の影から出てきたのは、史郎だった。


「な、なんでだ!?」


 虎人のリーダーが叫ぶ。

 史郎が出てきた大岩の裏側も含め、そのあたり一帯は燃やしつくしたはずだ。

 スライム一匹、生きているはずはない。


 無事な史郎の姿を目にしたアンデたちがあっけにとられている。

 虎人は抜け目なく、その隙を突こうとした。


「やっちまえ!」


 虎人のリーダーが叫ぶ。

 虎人たちは、大剣をさっと抜くと、それをアンデに叩きつけようとした。


「うっ! 

 な、なんだ?」


 ところが、虎人たちの体はピタッと動きを止めた。

 背後の岩場から、足音が近づいてくる。

 その場にいた虎人、全ての顔が蒼白になった。


「さて、いろいろ聞かせてもらおうか」


 史郎の声を聞いた虎人たちは、恐怖で全身を震わせている。


「い、いったい、何が!?」


 次の瞬間、全ての虎人の体から力が抜け、ぐにゃりと地面に崩れおちた。


「あ、足が動かねえ!」

「手が、手が……」

「どうなってるんだこりゃ!?」


 足元に倒れている虎人の頭を史郎が思いきり蹴とばすと、意識を失ったようだ。


「ど、どういうことだ?」


 アンデは驚きのあまり、史郎の無事を確認する言葉を掛ける前にそう言った。


「企業秘密。

 それより、舞子、あ、いや、聖女がヤツらに連れさられた。

 方角はあっちだ。 

 すぐに、捜索隊を出してくれ」


「分かった。

 こいつらは、尋問用に生かしておいたんだな?」


「ああ。

 口裏を合わせられないように、一人一人尋問しろよ」


「当然だ。

 お前は、どうする?」


「まずは、こうかな」


 史郎は、ローブで顔を隠した小柄な敵に近づくと、そのフードを引きはがした。

 その下から出てきたのは、眼鏡をかけた若い男の顔だった。


「人族かっ!!」


 アンデが驚くのも無理はない。プライドが高い虎人は、普通なら絶対に人族となど一緒に行動しないからだ。


 ◇


 アンデは集落へ連絡役を送り、他のギルドメンバーに崖下まで来てもらった。

 冒険者が二人で一人ずつ、虎人を集落まで運びおろす。一人だけ混ざっていた人族は、アンデが担いで運んだ。

 とりあえず、全員を牢屋に入れておく。


 槍が腹部に刺さったコウモリ男は、村長の家に運びこまれた。舞子の治療が、死期を遅らせてはいるけれど、彼の命は長くないだろう。

 俺は、横になったヤツの側に座った。


「うう、聖女様……」


 こいつは、死の間際に舞子の心配をしている。これが本当に、あのコウモリ男か?

 しかし、舞子がいない今、致命傷を治すことはできない。この傷では時間の問題だろう。


「せ、聖女様……」


 コウモリ男の声が次第に小さくなる。


『(・ω・)ノ ご主人様ー』


 点ちゃん、何だい?


『(・ω・) この人、助けたいのー?』


 え? ま、助かるなら助けたいけどね……。


『(^▽^)/ できますよー』


 お、来たね、「できますよー」

 でも、さすがに今回は無理でしょ。


『(^▽^)/ できますよー』


 え? どうやって?


『(・ω・)~* こうやります』


 点ちゃんが、二つに分かれると、一つの点がコウモリ男の腹部、傷があるところへ向かっていった。

 傷から体内に入ると、そこが、ぼんやりと光りはじめた。


 あれ? あれは、治癒魔術の光。

 コウモリ男の表情が、柔らかくなる。

 光は、しばらくすると消えた。


『(^▽^) もう、大丈夫ですよー』


 えっ? 何が起こったの?

 俺は、なぜ点ちゃんが治癒魔術を使えるのか、それが理解できなかった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。

主人公、本当に危なかった。

間一髪で、点ちゃんが助けてくれました。

作者も、点ちゃんが帰って来てくれてホッとしています。

 お帰り、点ちゃん。


ただいまー(*´∀`*)えへへ


ー ポータルズ・トリビア - 点ちゃんが持つ知識

 ポータルズ世界には、世界の統一知識であるアカシックレコードというものがあります。

点ちゃんは、このレコードの一部にアクセスできます。

 だから、史郎とおしゃべりできたりもします。

しかし、地球独特の言いまわしについては、情報が無いようです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ