第50話 送別会(上)
異世界科生徒たちが、シローのために送別会を開いてくれたようです。
異世界科二年の生徒たちによる送別会が開かれることとなった。
異世界への修学旅行で彼らが世話になった、シローを見送るためだ。
場所は、林、聡子両先生の新居である『もてなしの家』となった。
生徒たちは、それぞれが荷物を持ち、竹林の道を抜け目的地までやって来た。
「へえ、先生の家ってこんな所にあるんだ。
あっ、あの家!?
すごく大きくない?」
「なんかオシャレだなあ」
「うん、聡子先生には似合ってるけど、林先生にはねえ~」
「おい、聞こえてるぞ!
今のは、三宅だな。
早く中へ入れ」
上下とも紺色のジャージという、地味な格好をした林が玄関扉を開ける。
「「「お邪魔しまーす!」」」
学生服姿の三十人近い生徒たちが、ぞろぞろ玄関をくぐる。
「なに、このオシャレさ!」
「フローリングかー!」
「囲炉裏があるよ!」
「景色いいねー!
学校が見えるよ!」
「うわ、アイランドキッチンだー!」
「みなさん、こんにちは」
生徒たちが騒ぐ中、エプロン姿の聡子がキッチンスペースから出てきた。
「おい、小西、お前、囲炉裏に落ちるぞ。
とにかく、みんな座れ。
座布団は人数分ないから出さんぞ」
林の説明に、生徒から不満の声が上がる。
その時、別棟への引き戸が開き、リンダと彼女の母デボラが姿を見せた。
リンダは手にしていた木の丸椅子を床に置くと、そこに母親を座らせる。
「あ、リンダ先生、こんちはー!」
「デボラさん、こんにちは」
「そういえば、リンダ先生も、ここに住んでたんだよね」
「ええ、そうよ。
ママも一緒に住んでるの」
リンダが穏やかな顔で微笑んだ。
「ホームステイですね!」
「羨ましいなあ!」
「なんでよ?
あんた日本人でしょ?」
「だって、こんな家に住んでみたいじゃん」
「まあ、そうだけど」
収拾がつかなくなりそうな生徒たちの会話を聞き、林がその額に手を当てる。
「おい、そろそろいいか?
宇部、音頭を取ってくれ」
「はい、先生。
みなさん、お世話になったシローさんが喜んでくれるよう、がんばりましょう。
打ちあわせたとおり、班ごとで準備に取りかかってください」
「「「はーい!」」」
生徒たちは、四五人ずつに分かれると、それぞれが自分の仕事に取りかかった。
◇
夕暮れ迫るころ、シローが林邸の前に現れた。
自分の家から、わざわざ歩いてここまで来たのだ。
カーキ色の冒険者服から見える首筋には、汗が浮かんでいた。
「さすがに、この時期だと藪蚊が飛んでるね」
シローにまとわりついていた蚊は、彼が『もてなしの家』の敷地に入ると姿を消した。
これは敷地の境界線に沿って、虫よけの魔術が掛けてあるからだ。
林邸からは、賑やかな声と温かい灯りが洩れている。
「どう、点ちゃん、割と良くない?」
『d(u ω u) そうですね。夜の外観も狙いどおりになりましたね』
二人が話しているのは、相談しながら設計した林邸『もてなしの家』の事だ。
「そうだ、まず、アレやっとくかな」
『(@ω@) えーっ、来るなりアレですか!?』
「だって汗かいただもん」
『(・ω・) ……』
◇
「シローのやつ、遅いなあ。
あいつの場合、どっからでも瞬間移動で来られるはずだが、何かあったのか?」
ジャージの袖を二の腕までまくり上げた林は、聡子を手伝いながら壁時計に目をやる。
「「「きゃーっ!」」」
突然、裏の方で女子生徒たちの悲鳴が上がった。
林はキッチン奥の八畳ほどもあるパントリーに駆けこんだ。そこに裏口があるからだ。
彼が扉を開け外へ出ると、そこにはすでに大和と小西がいた。
身を寄せあった三人の女子生徒もいる。
「何があった!?」
大和と小西の呆れたような顔を見て、緊急事態ではないと気づいた林は、強ばっていた体の力を抜いた。
大和が指さす方を見ると、泡立つジャグジー風呂に茶色の布を巻いた頭が浮いている。
風呂の縁に座った白猫が、なぜか目の前の頭を前足でちょんちょんとつついていた。
「おいおい、シロー、そこで何やってる!」
「あ、林先生、こんばんは。
いやあ、ここまで歩いてきたんで汗かいちゃって。
この時期、日本は蒸しますねえ」
「『蒸しますねえ』じゃない!
なんで風呂に入ってる?」
「いや、だから、言ったように汗かいたから」
「……もういい。
おい、お前らはさっさと中へ入れ。
シローは、風呂から上がったら、リビングへ来い」
「「「はい」」」
「ほーい」
生徒が家へ入り、シローと二人だけになると、林がため息をつく。
「ふう、シロー、お前、少しは後輩のお手本になるようにしろ」
「あの子たち、お風呂に誘った方がよかったですかね?」
「……お前に常識を求めた俺が馬鹿だったよ」
「えーっ、こう見えても、俺、二児のパパですよ?」
「分かった、分かった。
もういいから、思う存分、風呂を楽しめ」
「はーい。
夜空を見上げながら入る露天風呂は、また格別ですねえ」
「……」
ガチャリ
裏口の扉が開き、タオル地のバスローブを羽織ったリンダが出てくる。
「リンダ先生、なにか?」
「いえ、せっかくだから、私もお湯につかろうかなあと……」
パサリとバスローブを落としたリンダは、先日シローからもらった真紅のワンピース水着だった。
「リンダ先生、あなたまで、なぜ……」
それを見た林は、薄暗がりでも分かるほど、顔が赤くなっている。
ちょうど裏口から顔をのぞかせた聡子が、やけに優しい声でこう言った。
「あなた、いつまでそこにいるのかしら?」
「はっ、はい!
すぐに参ります」
なぜか敬語で答えた林が、足早にその場を去る。
リンダと二人きりになったシローが、声を掛ける。
「リンダ先生、今日は月が綺麗ですよ。
さあ、早く入って。
風邪を引きますよ。」
「え、ええ……」
シローに声を掛けられたリンダが、少女のようなはにかみを見せる。
『へ(u ω u)へ 「月が綺麗ですよ」は、ナイよねえ、ブランちゃん』
「なーご」(ナイナイ)
夜になり気温が下がって来たのか、黙って二人の男女が入る露天風呂は、白い湯気に包まれていった。
読んでくださってありがとう。
おい、シロー! それはなんでもやり過ぎだろう!
リンダ先生も、なにしてるの?
まあ、もうやっちゃったことは仕方ないですけど。
しかし、「月が綺麗ですね」は、ナイわ~。
明日へつづく。




