第35話 異世界狂想曲
異世界修学旅行のことが公開されるようです。
『(*'▽') 大変なことになりそう!』
異世界科の生徒たちが地球世界に帰還して一週間。彼らの教室は落ちつきを取りもどしたが、ここにきて学校の外では騒ぎが大きくなりはじめていた。
生徒たちから五日ほど遅れて異世界から帰還した『異世界通信社』の三人によって、異世界科の修学旅行が取りあげられたからだ。
有料で購読できるサイトで世界に配信されたそのニュースは、各メディアで取りあげられ話題となった。
『異世界通信社』は、会社のオーナーであるシローから修学旅行中の生徒に対する取材を禁じられていたので、それについての記事は大まかなものだったが、様々な企業、団体から学校へ問いあわせがあった。
ただ、報道陣が学校に押しよせるようなことは起こらなかった。大手報道機関に所属している記者もフリーで活動している記者も、一度ルールを破れば、『異世界通信社』から情報を回してもらえなくなる。
これまで、ルール違反を犯した者がどうなったか、みんながそれを知っているのだ。
それでも、正式なルートを通じての取材申しこみは、後を絶たなかった。
「林君、君はどうすればよいと思うかね?」
校長室に呼ばれた林は、来客用のテーブルに広げられた手紙や冊子を前にしていた。
「これなど、アメリカの一流大学から教授待遇での勧誘だよ。
いったい、なんの冗談かね!」
校長が頭を抱えている。
それはそうだろう。その対象は、まだ高校も卒業していない生徒たちなのだから」
「しかし、どうやって情報を集めたんですかねえ」
校長に比べ、林は暢気なものだ。
彼の手には、白神を名指しで勧誘する、ある海外有名大学からの封筒があった。
異世界クラブのメンバーは、各大学、各機関の標的になっているようで、一人一人、名指しで招かれている。
「異世界科の生徒たちについては、情報管理を改めなければなりませんね」
普段通りの口調で言う林に、校長が声を荒げる。
「君ぃ、危機感はないのかね!
こりゃ、大騒ぎになるよ」
「校長、お言葉ですが、もう大騒ぎになっていますよ。
この騒ぎは、しばらく続くと思います。
まあ、そのうち落ちつくでしょう」
「異世界への修学旅行が何事も無く終わって、やっとひと安心したところだったんだが……」
「それより、報告会の方はどうしましょうか?」
「そうか、そんなものもあったね。
とりあえず、予定どおり開いてくれたまえ」
「分かりました。
保護者の参加は、お断りする方向でよろしいね?」
「ああ、君に任せるよ」
「……分かりました」
「それより、君、小林先生、いや、聡子先生との新婚旅行はどうだったかね?」
「ははは、生徒たちの引率がありましたから、ほとんどそんな時間は取れませんでしたよ。
ただ、シローのおかげで、最小限、それらしいことはできました」
「そうかね。
それはよかった。
じゃあ、報告会の事はよろしく頼むよ」
「はい、では失礼します」
◇
ここの所、異世界科二回生の教室では、連日マスコミで報道される彼ら自身の話題で持ちきりだった。
「昨日の〇〇ニュース見た?」
「見た見た!
私たち、大学や企業から招待されてるんでしょ?」
「そうなのよ!
しかも、世界中の大学からよ!」
「どうしてこんなことになっちゃったのかしら?」
異世界のことに関しては事情通の白神が、食べかけの弁当をそのままにして立ちあがった。
「なんでも、今、学問の分野で『異世界学』っていうのが始まっているらしいのね。
各大学が、『異世界学部』みたいなのを創ろうとしてるらしいよ」
小西は、その説明に納得していないようだ。
「大学にその『異世界学部』ができるからって、なんでウチに求人が来るの?」
「小西、あんた『異世界クラブ』の部長なんだから、これまで地球世界から異世界へ行って帰ってきた人が何人いるか分かるでしょ?」
「ええと、まず、『初めの四人』でしょ。
それから、翔太君と騎士のみなさん、ええと、あとは異世界では会えなかったけど『異世界新聞社』の人たちかな?」
「一人忘れてるわよ」
「ええと、あっ、加藤さんのお姉さんがいた!」
「私の情報では、あと何人かいるんだけど、全て『初めの四人』に身近な人だけ」
「少ないね」
「そう、たったそれだけしかいないのよ。
分かる?」
「そうか、実際に異世界を体験している人ってすごく少ないんだね」
「そう。
だから、各大学は、どうしてもウチの生徒が欲しいのよ。
だって、紙の上でどんなに研究を積みかさねても、異世界を経験した人に、『それ違うよ』って言われたらお終いでしょ」
「なるほど、百聞は一見に如かずってやつだね」
「だから、『異世界学部』を新設する大学は、少なくとも一人は異世界を経験した人が欲しいんだよ。
特に覚醒を体験している人がね」
白神の説明には、小西だけでなく、クラスメートたちも頷いている。
「俺は希望大学が決まってるから、普通にその大学を受験するつもりだ」
大和の言葉に、三宅が驚く。
「えっ?
大和君って成績良いから、推薦もらえるでしょ?
空手の大会でも優勝してたし」
「まあそうなんだが。
俺は推薦って制度がどうも気に入らなくてな」
「なんで?」
「普通の人は、学力で勝負するわけだろう?
スポーツや音楽なんて、その世界で評価されればいいんであって、受験でまで考慮するのは、どうかと思うんだ」
「ホント、大和君らしいなあ。
私は、大学からの勧誘、受けてもいいと思ってるんだ。
だって、『異世界学』って新しい分野じゃない。
大学なら施設も整えてくれるだろうしね。
修学旅行でアリストへ行って思ったんだ。
もっと異世界のこと知りたいって」
宇部が言うなり、白神がその肩に手を置いた。
「おお、我が同士よ!」
「いや、白神さんまでいくと、ちょっと……」
「なっ、ひどいよ、宇部っちー!」
「倫子、あんたつくづく賢者ってタイプじゃないわ~」
「萌子まで裏切った!
ひどいよー!」
◇
その頃、曽根家では、しかめ面をした曽根(父)の姿があった。
「どういうことだ、これは!」
リビングのテーブルには、何枚か求人の用紙が広げられている。
しかし、その中に大学からの招待は一つもなかった。
息子をわざわざ『異世界科』に入れることで箔をつけさせるつもりだったが、これでは台無しだ。
求人は、彼が経営する建設会社と取引のある会社からしか来ていなかった。
修学旅行前、高校で開かれた説明会で曽根自身が醜態をさらしたこと、その上、息子が異世界へ行かなかったことがこうなった原因なのだが、どうやらそこまで考えが及ばないようだ。
「くそう、なんでこんなことに……」
テーブルの求人用紙を鷲掴みにした曽根は、狂ったようにそれを細切れにしていく。
「ただいま……」
玄関から元気のない息子の声が聞こえてくる。
曽根はそんな息子を大声で呼びつけ、床に正座させると、頭ごなしにただ怒鳴りちらすだけだった。
理由も無く当たりちらされた息子は、たまったものではない。
さんざん罵られた挙句、二階にある自分の部屋へヨロヨロと上がっていく。
「この役立たずのクズが!」
汚いものでも吐きすてるように父親が洩らした言葉は、まだ階段にいた息子の耳に入ってしまう。
それは、やがて彼が家を出るきっかけとなるのだった。
読んでくださってありがとう。
やっぱり、大騒ぎになりましたね。
しかし、世知辛いというか、現金と言うか。異世界科の生徒が序列化されてるっていうのが気になります。
曽根君、どうなるんだろう?
どっからか自業自得って声が聞こえてきそうだけど。
その辺の事は、ここからのお話で。
明日へつづく。




