第17話 獣人族長会議(下)
族長会議で聖女の事が取りあげられます。
獣人たちの反応は?
狐人族の城では、獣人の長が集う獣人会議が行われようとしていた。
「では、今回の会議を招集した犬人族代表から、その理由を述べてもらおう」
狐人の小柄な少女が、口火を切る。コルナは、議長役らしい。
「犬人族南西の村が襲われ、住人が全てさらわれた」
アンデが話しはじめる。
「同様の出来事が、過去に何度も起きており、猿人族の関与が疑われてきた。
しかし、死体を残さないのは、奴らの手口ではない。
そういうことで、手をこまねいていた」
居並ぶ参加者は、真剣な表情で聞いている。
「この度、シローが生存者を見つけた。
シロー、その時の話を頼む」
「生存者は、村に住む八歳の少年でした。
襲撃者は、昼食後の時間を狙い、まず家々に放火したそうです。
その後、ローブ姿の者が多数、村に襲いかかり、人々をロープで捕えたということでした。
彼自身の父親も、この時さらわれたようです。
たまたま襲撃者のフードが外れたところを少年が目撃したため、猿人族だと分かりました」
「な、なんたることだ……」
熊人族の族長が、思わず声を漏らす。
これまでも、猿人族が他族を襲うことはあった。ただ、それは、あくまで部族間の争いとして扱われてきた。しかし、獣人議会がそれを放置し続けてきたのも、また事実だ。族長たちは、この事件に間接的に責任があるとも言えた。
「問題は、猿人族が何のためにそんなことをしているかだな。
手口から考えると、奴ら単独の犯行とは思えない」
猫人族の一人が、鋭いことを言った。
「これは、噂話の段階にすぎないんだが、ヤツらの背後に人族がいるのではないか、というものがある」
アンデがこう言うと、全ての獣人がこちらを睨んだ。
怖いから、それ、やめて欲しい。
「いずれにしても、ヤツらのところに調査隊を出す必要があるだろう」
「調査隊なら今までも何度か出してるではないか」
これは、虎人からの発言だ。アンデが続ける。
「ああ、全て帰ってこなかった。
考えられるのは、こちらの情報が向こうに漏れているのではないか、ということだ」
「どこに、そんな証拠がある」
「今のところは、状況証拠だけだな」
「ニャニャ、複数の調査隊を、送ってみたか? にゃ」
賢者が、発言する。
「いいえ、まだです」
コルナが答える。
「各部族が、報告を取りあうことなく、それぞれ調査隊を送ればいい。にゃ」
さすが、賢者だ。これなら、いずれかの部族が情報を漏らしていても、情報は入ってくる。
「おお!
それは、いい考えですな」
熊人族の族長が賛成する。
「では、まずは各部族がそれぞれ調査隊を出す、ということでいいのじゃな?」
議長のコルナが、まとめにかかる。
虎人族は、ドラバンを含め三人とも不満そうだが、大勢が決まっていては、勝ち目は無いと思ったのだろう、渋々頷いた。
「ああ、これは今回の議題とは、関係ないのだが……」
賢者の隣に座る猫人が、発言を求める。
「湖沼地帯北側の山岳地域を、ご存じだろう」
「ふむ、そこで何が?」
「その辺りに、聖女様が現れたという噂がある」
「なに!」
「ほ、本当か!?」
「聖女様が!」
議場は、騒然となる。
「これも、いまだ噂の域を出ない」
猫人が続ける。
「ただ、もしそれが本当なら、なすべき事があるであろう?」
「当たり前だ」
「異議なし!」
「当然だ」
「急ぎこちらにも、調査隊を送ってもらいたい。
山岳地帯ということを考えると、冒険者が適当だろう。
アンデ、頼めるか」
「分かった。
それは、こちらで引きうけよう」
場内のざわめきは、消えそうにない。聖女の話は、想像以上の衝撃を獣人たちに与えたようだ。
俺は、いろいろ尋ねたいこともあったが、人族が疑念を持たれていることもあり、この場は動かないことにした。この件に関しては、とにかく慎重を期さなければならない。
会議が終わると、コルナが近よってきた。
「シローは、いつまで、この地にいてくれるのじゃ」
「明日、遅くとも明後日には、ここを発つ予定です」
「そ、そんなに早くか……」
「ええ、事態は、こちらを待ってくれませんから」
「仕方ないの……」
コルナは、まだ何か言いたそうだったが、俺の方を振りむき振りむき、城の奥へと入っていった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
なんとか終わった獣人会議。
聖女探索は?




