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ポータルズ ー 最弱魔法を育てよう -  作者: 空知音(旧 孤雲)
第14シーズン 異世界科クラスの修学旅行編
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第16話 職業指導『剣士』

 異世界科の生徒たちは、自分が覚醒した職業クラスに興味があるようです。


 アリスト城で『水盤の儀』が行われた翌日。

 この日は自由行動が予定されていたが、異世界科の生徒たちは、職業クラス別に基礎訓練することを希望した。

 もしかすると、晩餐会の席で小西が貴族に絡まれたことも、理由の一つかもしれない。

 生徒たちの間では、「自分の身は自分で守る」という意識が共有されているようだ。


 今回、覚醒した数が一番多かった『剣士』は、アリストギルドの訓練場に集まった。いつもは、冒険者が練習している姿が見られる訓練場だが、今日は異世界科クラスの貸しきりとなっている。

 ウォーキングに備え用意してあった運動靴を履き、十五人の生徒が待っていると、緑のワンピースを着た、一メートルほどしか背丈のない女性が入ってきた。


「「「キャロちゃん!」」」


 すでに小さなギルマスのファンとなった、数人の生徒が歓声を上げる。

 ところが、その後ろに続く人物を見て、みんなの歓声はさらに大きくなった。


「「「リーヴァスさん!!」」」


 茶色い冒険者服をすらりと着こなしたリーヴァスは、それだけで様になっていた。


「ふふふ、みなさん、もうリーヴァスさんのこと知っているみたいね」 


 微笑を浮かべ、キャロが並んだ生徒を見まわす。

 生徒たちの目が、これでもかというほどキラキラしている。

 特に、三人だけいる剣士職の女子は、目からハートが飛びだしている。


「「「こんにちは!」」」


「ははは、元気がいいですな。

 今日は、私がみなさんに剣の基礎を教えます」


「「「やったー!」」」


 生徒たちが、ぴょんぴょん跳ねている。


「剣は、あなたの、そしてあなたが守るべき人の命を守るためのもの。

 練習は厳しいですが、よろしいですかな?」


「「「はいっ!」」」


「無理をしてはいけませんよ。

 ケガの元です。

 辛くなったら、遠慮なく休みなさい」


「「「はいっ!」」」


 練習が始まると、キャロは訓練場を出ていった。 

 しかし、練習中の生徒たちは、それに気づく余裕がなかった。

 訓練場の中を楕円形に走りながら、時々ダッシュが入る。

 この段階で、三人の女子が脱落した。


「はあっ、はあっ、こ、これ、まだ準備運動、はあっ、だよね?」

「はあっ、まだ、はあっ、剣、使って、はあっ、ないもんね」

「し、死ぬー!」


 訓練場には、階段状の観覧席があるが、その下で壁にもたれた女子三人は、息も絶え絶えだ。


「お三方は、立てるようになってから、参加するといいですよ」


 リーヴァスが、そんな三人に優しく声を掛ける。


「「「ありがとうございます」」」


 背中を向けたリーヴァスを見て、ぽーっとなった女子三人がため息をつく。


「「「素敵~……」」」


 ◇


 訓練場では、木剣ぼっけんを使った練習が始まった。

 木剣は刃渡り四十センチほどのもので、ケガをしないよう刃が丸めてある。日本のお土産物屋で売っているような木刀とくらべると、やや重い程度だ。


 三十センチほどあるつかの、つばに近い所を右手で持ち、生徒たちが構える。

   

「体の力を抜いて……。

 右足を前に出して……。

 剣を前に構えて……」


 リーヴァスは、一つアドバイスをする度に、一人一人の姿勢を手取り足取り直していく。

 黒鉄の冒険者に手ずから剣の指導をしてもらう。

 どの世界の冒険者が見ても、羨ましがる光景だ。

 剣はまったくの素人だった生徒たちだが、少しずつ構えらしきものができてくる。

 

 自然体から剣を構えるまでの動作を、何度も繰りかえさせた後、リーヴァスは剣を使う動作を一つだけ教えた。

 それは、いわゆる「突き」だった。

 両足の動きと、体重移動に意識を置き、剣をことさら意識しないようアドバイスしている。

 最初はへにゃへにゃしていた生徒たちの動きが、一回ごとに良くなってくる。

 

「それでは、自然体から剣を突くところまで、一つの動きでやってみましょう」


 リーバスが手を叩く合図で、練習が佳境に入る。

 単純な動きだが、生徒たちにとって初めてのそれは、彼らの体力を奪っていった。

 やがて、しゃがみ込む生徒が出てくる。


 ランニングで最初に脱落した三人の女子は、この練習で予想外の頑張りを見せた。

 最後の五人に、三人とも残っていたのだ。

 そして、最後まで立っていたのは、生徒たちが誰も予想しない生徒だった。


 原田という名のその少年は、小太りの上、体育が苦手で短距離走でも長距離走でも、いつもクラスでビリだった。

 それなのに、最後の一人になっても、剣の型を続けている。

 しかも、その型が次第に自然なものになっていくのが、座っている生徒たちにも分かった。

 汗を散らしながら、一回一回、丁寧に剣を突く原田を全員が黙って見ている。

 やがて、リーヴァスが彼に近づき、その肩に手を置いた。


「はい、もういいでしょう」


 無我夢中だった原田は、ハッと気づいた顔になると、剥きだしの地面にすとんと座りこんでしまった。

 彼は、知らぬ間に体力を絞りつくしていたのだ。


「みなさん、よく頑張ったわね。

 とにかく、お風呂に入って、それから食事にしましょう」


 そう声をかけたキャロと、ギルド職員の男性が、革の水袋を生徒に手渡す。

 生徒たちは、木でできた飲み口から水を飲むと、生きかえったような表情になった。


「お風呂?

 アリストでは普通の家に、お風呂がないって聞いてます。

 ギルドにはあるのですか?」


 生徒の一人が、キャロに質問する。


「いえ、ギルドにも、普通はないわね。

 でも、このギルドはシローが所属してるから、彼が点ちゃんと一緒に作ってくれたのよ」


「「「スゲー!」」」


「うふふ。

 お風呂は、アリストギルドの自慢なの。

 入ったなら、みんなもっと驚くわよ」


「「「やったー!」」」


 少年少女らしい反応に、キャロが目を細める。


「では、私も一緒に入りますかな」


 そう言ったリーヴァスの背には、半分気を失った原田少年が背負われていた。


 ◇


「スゲー!」

「マジ異世界だわ~!」

「ふえ~、キモチイー!」


 大きな湯船につかった男子生徒から声が上がる。

 広い湯船は、十二人全員で入っても、まだ余裕があった。

 壁には、青空に白い雲が浮かぶ写真が貼ってある。

 生徒たちは、自分が空に浮いているような心持ちになるのだった。

 

「それより、原田、お前やるなあ!」

「ほんと、驚いたぞ!」

「大したもんだ!」


 今まで級友から一度もそんな言葉を掛けられたことがなかったからだろう。原田少年が惑っている。

   

「う、うん。

 気づいたら終わってた」


 その時、浴室に全裸のリーヴァスさんが入ってくる。


「「「……」」」


 身体中に古傷が残るその体は、無駄が全くなく、完成された美しさがあった。


「ひゃ~」

「くぅ~」

「む~」


 男子生徒の憧れの視線を受けながら、かけ湯を終えたリーヴァスが湯船に入る。


「ふう~、シローのお風呂はいいですなあ」


「リーヴァスさん、これって普通のお湯じゃありませんよね」


 生徒の一人が、勇気を出して話しかけた。


「ここだけの秘密ですよ。

 ここのお湯は、あなた方の世界で『オンセン』と言われるものらしいです」


「「「温泉!」」」


「どうりであったまると思ったわー!」

「お肌スベスベになっちゃうぞ!」

「温泉最高!」 

 

 男子生徒たちが、口々に騒ぐ。


「くれぐれも、このことは秘密ですよ」


「「「はいっ!」」」


 リーヴァスの前では、とてもいい子になる男子だった。

 一方、女子の入浴はどうだったかというと、先に入浴を終えた男子が、長いこと食事を待たされ、空腹で悲鳴を上げることになった。

 

 読んでくださってありがとう。

 リーヴァスさんの指導、ちょっと受けてみたいですね。

 原田君、がんばりました。

 次話、魔術師に覚醒した生徒たちの職業指導です。

 先生は、あの人かな?

 明日へつづく。


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