表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポータルズ ー 最弱魔法を育てよう -  作者: 空知音(旧 孤雲)
第14シーズン 異世界科クラスの修学旅行編
718/927

第8話 ある家族の夕食

 ある異世界科生徒の家族団らんです。


『(*'▽') 異世界科の修学旅行、どうなったの?』


 その事も、このお話を読めば分かるよ。


 その日、白神家では、八畳の座敷で四人が座卓を囲んでいた。

 木造二階建てのこの家は、築八十年を超える。


「久々だなあ、この部屋も」


 手にした箸をカチカチいわせているのは、白神家の長男達夫(たつお)だ。

 ここのところ彼が仕事で海外を飛びまわっていたこともあり、こうして食卓に家族が揃うのは久しぶりなのだ。


「達夫、その癖、何度言ったら直すんだい!」


 普段は優しい母親町子(まちこ)の丸顔が、箸を鳴らす息子の手を指さし鬼のようになる。


「ご、ごめん、母ちゃん」


「まったくダメ兄貴よね。

 よくシロー様が相手にしてくれてるわ」


 妹の倫子りんこが、兄に冷たい視線を送る。


「おい、なんだその呼び方は?

 なんで俺が『ダメ兄貴』で、坊野ボーが『シロー様』なんだよ!」


「達夫、お前、自分の力で稼いでると思ってないか?」


 寡黙な父親浩二(こうじ)が珍しく口を開いた。


「ばっ、馬鹿言うなよ、父ちゃん!

 俺だってそれくらい分かってるよ!」


「ウチが稼げてるのは、『ポンポコ商会』さんのお陰だ。

 それを忘れるんじゃないぞ」


「ああ……」


「達夫、しょげるんじゃないよ。

 この前なんか、父さんがお前の事、見どころがあるって――」


「町子さん、それをこいつに聞かせたらダメだ。

 すぐ調子に乗るから」


 両親のやり取りを聞き、達夫の表情が明るくなる。


「だけど、なんだ?

 この盆と正月がいっぺんに来たような料理は?」


 達夫が言うのも無理はない。座卓の上には、すき焼きとしゃぶしゃぶ両方の鍋に加え、寿司折りまで載っている。


「お祝いに決まってるだろ」


 母親の町子が笑顔で答える。


「お祝いって、何の?」


 急に笑顔になった母親に、引き気味の達夫が尋ねる。


「倫子の修学旅行のお祝いさね」


「なんだそりゃ?

 なんで修学旅行ごときでお祝いするんだ?

 だいたい、俺の時には――」


「お兄ちゃん、食事中なのにうるさい!

 ちょっと静かにして!」


「だけど、倫子、どう考えたっておかしいだろう!?」  


 達夫の意見はもっともだ。


「倫子はね、修学旅行で異世界へ行くのさ」


 母親の町子がなぜか胸を張る。


「へえ、今時、珍しいなあ。

 修学旅行で伊勢か。

 伊勢神宮で大きな行事でも見学するのか?」


「もう、まったく馬鹿だよ、この子は。

 あたしゃ、異世界って言ったろう?」


 町子は、息子の勘違いに呆れ顔だ。

    

「ええと、異世界って、あの異世界?」


「お兄ちゃん、馬鹿っぽーい!」


「なんだと、倫子!」


「達夫、倫子、やめなさい!」


 めったに無い父親の叱責に、息子と娘は静かになる。

 

「倫子、本当なのか、異世界に行くって?」


「お兄ちゃん、しつこいよ。

 行くって言ってるじゃん」


「マジかよ……。

 おい、どこ、どこいくんだ?

 フェアリスの所にも行くのか!?」


「達夫!」


 再び父親に叱られ、シュンとする達夫。


「倫子、どこへ行くか、もう一度、父さんに教えてくれるか?」


「うん、いいよ。

 私が行くのは、『パンゲア』って世界なんだ。

 シロー様が住んでる、『アリスト』って街へ行くの。

 宿泊は、なんとお城だよ!

 女王様は、畑山先輩だよ!

 お兄ちゃん、知ってるでしょ?」


「……ああ、知ってる。

 美人の学級委員長さんだ」


 正直なところ、達夫は融通の利かない同級生の畑山が苦手だった。

 それを思いだし、彼は顔をしかめた。


「学級委員長じゃなくて女王様。

 そして、なんと、あのネトプリ翔太様も、そのお城に住んでるんだって!」


「倫子、その『ねっとりプリン』ってなんだい?」


 父親の言葉を聞いた達夫が、口に入れかけたネギを噴きだす。


「お兄ちゃん、汚い!

 お父さん、ネトプリだよ、ネトプリ!

 ネットのプリンスだよ!

 すっごく素敵な上、魔術の達人なんだから!」


「そ、それは、なんだか凄そうだね」


 父親の浩二は、目を白黒させている。


「女王様が達夫の同級生だし、シローさんや、ええと、『騎士』だっけ、あの人たちも一緒なら、心配いらないね」


 鍋をつつきながら、町子がそう言った。


「なんで倫子だけ異世界旅行できるんだよ!

 俺も行きたいよ!」


 達夫は不満げだ。


「お兄ちゃん、わがまま言わないの!

 この前、小西さんと一緒にフランスの一流ホテルに泊ったでしょ!」


「ばっ、馬鹿っ、それは言うなって――」


「達夫。

 倫子が言ってんのは本当かい?

 小西ったら、那奈ちゃんのことだろ?

 あんた、いつの間にそこまでの仲になったんだい?

 あちらのご両親にご挨拶に行かないと――」


「ま、待って!

 待ってよ、母ちゃん!

 それはその内きちんとするから、ちょっとだけ時間をください」


「……やだねえ、母親に土下座する息子があるかい!

 じゃあ、ちょっと待とうかねえ。

 孫の顔が――」


「お母さん、お兄ちゃん、もう泣きそうだよ。

 そろそろ勘弁してあげて」


「ま、ここまでにしとくかね、あははは!」


「母ちゃん、もうー」

 

 食卓は笑いに包まれた。


「そうだ、父ちゃん。

 今日、ボーから、新酒が届いたんだ。

 家族で食事するって言ったら、持たされたんだ。

 飲んでみる?」


「おお、フェアリスの新酒か!

 ぜひ飲ませてくれ!」


「新酒の名前は、『フェアリスの友』だって。

 全く新しいタイプの酒らしいよ」


 達夫は、隣の部屋にある冷蔵庫から白い陶器の小瓶を持ってくる。

 封を外しコルクを抜き、用意してあったガラスのおちょこにそれを注ぐ。

 チンとおちょこを合わせ、二人が酒を口に含む。


「お父さんもお兄ちゃんも、どうしちゃったの?」


 倫子がけげんな顔で父親と兄を見る。

 二人は酒を口に含んだまま、微動だにしない。


「ちょっと、あんた、どうしたんだい?

 達夫、あんたも!?」


 町子が驚くのも当然だ。

 浩二と達夫はその目から滝のように涙を流している。

 父親と息子は、泣きながら顔を見合わせ、頷きあっている。


「いったい、なんなんだい、あんたたち……」


 町子が呆れ顔で、そんな二人を見ている。


「この酒……酒屋やってて、良かったなあ」

「父ちゃん……」


 町子と倫子は、狐につままれたような顔で肩をすくめるのだった。


 読んでくださってありがとう。

 異世界マニアの少女、白神さん家の一幕でした。

 しかし、保護者たちは、どうして異世界旅行に賛成したのでしょうか?

 そのあたりは、次のお話で。

 明日へつづく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ