第98話 聖樹様への報告
『ポータルズ』が700話を迎えました。
読者様の応援で、ここまで物語が成長しました。
本当にありがとうございます。
聖樹様の話がちょうど700話目というのも、何か運命のようなモノを感じます。
さて、シローたちは、『エルファリア世界』にある『聖樹の島』へ。
ボナンザリア世界を去る事になった俺たちは、ベラコスの郊外にあるお花畑を出発の場所に選んだ。
「シローさん、ホントにありがとう!」
「素晴らしい仕事を紹介してくださってありがとう!」
咲きみだれる花に囲まれ、そんなことを言っている男女は、ハンナとケロベス、今はハナとケロと名乗っている二人だ。
二人より添い、いかにも仲が良さそうだ。
このリア充め!
『へ(u ω u)へ やれやれ、また言ってるよ、この人』
「みみみ」(ダメですね)
点ちゃん、ブランちゃん、リア充に明日はないのだ。
『(・ω・)ノ それって「俺たちに明日はない」じゃないの?』
くぅ、点ちゃんの地球知識が充実しきてる。
「シロー、今更変えるのもどうかと思いますが、母さんとデロリンが仲良くしているのを見るのはちょっと……」
ルルが、困ったような顔をしている。
そうなんだよね。ハンナとケロベスの二人に『形態変化』使う時、ハンナはエレノアさん、ケロベスはデロリンをモデルにしたんだよ。
まあ、本物と偽物が会うことは、一生無いと思うから大丈夫だよね、きっと。
少し離れた所では、ルエラン親子が別れを惜しんでいた。
「母さん、じゃあ行ってくるよ」
「ああ、シローさんに迷惑かけないようにね」
ルエランは、俺たちと一緒にアリストがあるグレイル世界へ向かう。
向こうで支店長会議があるし、神薬に関する打ちあわせもあるからね。
「この世界に来たら、またウチのギルドに寄るんだよ!」
ナルとメルの頭を撫でながら、片目のギルマス、サウタージさんが念を押す。
「もちろんですよ」
俺も、ベラコスの街やギルドの雰囲気が好きだしね。
「では、みなさん、お世話になりました!
良い風を!」
見送りの人々が、手にした招き白猫の肉球をプニプニしながら声を合わせる。
「「「ニャンニャン!」」」
こちらも、それに答えた。
「「「ニャンニャン!」」」
お花畑から、俺たちの姿が消えた。
◇
セルフポータルが開いたのは、エルファリア世界、『聖樹の島』にある森だ。
ここが初めてのルエランは、巨木が連なるその景色に圧倒されている。
「この森……素材の宝庫ですね!」
彼の目がキラキラしている。
そのまま採集を始めそうな彼を引きとめ、聖樹様の所へ向かう。
聖樹様の前まで来たので、膝を地面に着く。
「シローさん、なんでそんな格好を?」
「ルエラン、聖樹様の前だから」
「ええと、聖樹様はどこにいらっしゃ……」
彼は、やっと目の前にいらっしゃる聖樹様に気づいたようだ。
あまりの大きさに、初めてここに来た人は、みんな驚くからね。
ルエランは、カクンと両膝を折り、地面に座りこむと、信じられないという顔で固まっている。
周囲には、聖樹様が発する、おおらかな波動が満ちていた。
「聖樹様、ただ今、戻りました」
『シロー、エミリー、ご苦労じゃった。
点の子よ、よろしく頼む』
『(*'▽') はいはーい!』
点ちゃんが、聖樹様とみんなを繋ぐ念話のネットワークを構築する。
「聖樹様、『ボナンザリア世界』の神樹様は、無事お元気な姿をとり戻されました」
頼まれていたことが成功したことを報告する。
『ありがとう。
あの子からも、知らせてもらった』
「それから、頂いた神樹の種を包んでいた素材を、薬としてつかうのをお許しいただけますか?」
『もちろんじゃ。
それは、すでにお主につかわしたもの。
自由にするがよい』
「ありがとうございます」
『お主、我が渡した玉を使っておらんのではないか?』
「ええと、どの玉でしょう?」
『(*'▽') ご主人様、ホントに忘れてるの?』
『先だって、お主が来た時、渡したはずだが』
「ああ、これでしょうか?」
すっかり忘れていた俺は、聖樹様から頂いた、虹色に輝く玉を右手に載せた。
『それは異世界間の念話を可能にする玉じゃ』
えええっ!
それって、かなり凄いものじゃない?
『(・ω・)ノ だからあ、なんでそんな大事なものを忘れちゃうんですか!』
ごめんごめん。
これで世界間の連絡が、ぐっと楽になるね。
『(・ω・) 直接行かなくても済みますからね』
『その玉、もう一つ渡しておこう。
エミリーが使うがよい』
『聖樹様、ありがとうございます』
エミリーの念話が伝わると同時に、紙のようなものに包まれた玉が、空から落ちてくる。
さっそく、空中でつかまえ、点収納に入れておいた。
『この世界を訪れた時は、またここを訪れるがよい』
「ありがとうございます」
聖樹様への報告が終わった俺たちは、ギルド本部前へ瞬間移動した。
◇
俺たちがギルド本部前に現れると、あっという間に人々が集まってきて囲まれてしまった。
この集落は、働き手のほとんどがギルド本部に所属する冒険者か職員だから、俺たちの活動に興味があるんだろう。
ただ、旅の間、俺は『ポンポコ商会』の仕事をしている時間が多かったから、話はリーヴァスさんに任せよう。
そんなことを考えていると、ギルド本部の扉から、白いローブを身にまとったミランダ本部長が姿を現した。
相変わらず、背筋がピンと伸びた美しい姿だ。
その彼女が、エミリー、舞子が並ぶ前にひざまずくと、翔太を除き、みんながそれにならった。
「聖女様、大聖女様、再びお目に掛かれ光栄に存じます。
大変なお仕事、ご苦労様でした」
ミランダさんだけには、俺たちの旅が神樹様を癒すためのものだと、前もって知らせておいたからね。
「神聖神樹様のご加護がありましたから、無事お仕事を終えることができました」
エミリーが、ゆっくりした口調でそう言った。
そんな彼女の姿は、神々しいばかりに威厳があり、まるで森の生命力が凝縮し人の形をとったかのように見えた。
エミリーは、ミランダさんの手を取り立たせると、翔太、舞子と共に、ギルド本部へ入っていった。
旅の間、ギルド間の調整をしていたリーヴァスさんが、その報告をするためだろう、四人の後を追った。
ナルとメルは、さっそく子供たちからボードに乗せてくれるようせがまれている。
ルル、コルナ、コリーダ、それにミミとポルは、この地で知りあった人たちと、談笑している。
ここが初めてのルエラン、そして、二度目の黒騎士、ショーカ、ハーディ卿の周りにも、人が集まっていた。
俺?
なんか、みんな近寄ってこないんだよね。
なんだこれ?
『(*'▽') ご主人様、嫌われてるの?』
「みぃ?」(そうなの?)
いや、点ちゃん、ブラン、それヤメテ!
俺自身、そうかもしれないと思って、ちょっと不安なんだから。
◇
ギルドの待合室で、ぽつんと一人座り、膝の上で丸くなっている白猫をモフっていると、顔見知りのギルド職員がやって来た。
「ギルド長がお呼びです。
ミミさんとポルナレフ君もご一緒にいらしてください」
あれ?
この人、俺に対し、こんなに恭しい態度だったっけ?
まあ、いいか。
一度外へ出て、住民に囲まれているミミとポルに声を掛けると、彼らを伴いギルド本部奥の個室へと入った。
落ちついた内装の部屋には、茶色いソファーが置いてあったので、ミミ、ポルと並んでそれに腰かける。
それほど時間をおかず、ミランダさんが一人で入ってくる。
彼女は、立とうとした俺たちを制し、向かいのソファーに座った。
「三人とも、ご苦労だったね。
シロー、『ボナンザリア世界』での件、よくやったね」
神樹様のお姿を元に戻した一件だね。
「いいえ、あれはエミリーの仕事でしたから」
「それでもさ。
あんたがいなけりゃ、新世界へ渡ることもできなかったんだからね。
謙虚すぎると嫌味だよ」
「はあ、そうですか」
「なに気の抜けた返事してるんだい。
ああ、これを伝えとかなくちゃね。
ミミ、ポル、あんたたちもよくやった。
それでだ、二人とも、銀ランクから金ランクに昇格する話が出てる。
あんたたち、受けてくれるかい?」
ミミとポルの反応は意外なものだった。
「お言葉はありがたいのですが――」
「ボクたちには、まだ早いと思います」
ええっ!?
二人とも、金ランクに憧れてたと思ってたんだけど?
「今回の旅で、まだまだ冒険者として学ぶことがあると知りました。
本当に金ランクにふさわしくなれたと思えたら、そのとき昇格したいです」
「私も同じ考えです」
ポルとミミはそんなこと考えてたのか。
「リーヴァスから聞いたよ。
カニの一件かい?」
そういえば、ミミとポルは、『田園都市世界』で、リーヴァスさんに叱られて反省してたよね。
「もちろん、そのこともあるんですが、自分たちは色んな面でまだまだ未熟だと思いました」
「うーん、そんなことないと思うけどねえ。
もしかして、あんたら、自分をこのシローや、リーヴァスと較べてないかい?
こいつらは規格外だから、比較対象にならないよ。
だが、まあ、あんたらがそう思ってるなら、昇格は少し待つかね」
「申し訳ありませんが、それでお願いします」
「私もポン太と一緒で」
ミランダさんは、ため息をつくと、俺の方を見た。
「シロー、『ポンポコリン』は、ホントに一流冒険者パーティだねえ」
全ギルドの頂点にいる彼女の言葉は、何より嬉しいものだった。
「話は変わるが、この二人、しばらく私に預けてくれないかい?」
「……それは、もちろん、俺に異存はありません。
ミミ、ポル、二人はどうしたい?」
「「ミランダ様、よろしくお願いします!」」
じゃあ、決まりだね。
こうして、ミミとポルは本部での冒険者修行が始まった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
聖樹様への報告も無事終わりました。
ミミとポルは、冒険者として一回り成長したようです。
では、次話、舞台はアリストがある『パンゲア世界』へ。
明日へつづく。




