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ポータルズ ー 最弱魔法を育てよう -  作者: 空知音(旧 孤雲)
第2シーズン 獣人世界グレイル編
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第11話 聖女と従者

 今回は、特に作者が好きな話です。

 では、お楽しみください。


 いつものように、治癒魔術の温かい光に包まれ、目が覚める。

 コウモリ男は、その温かさが無い毎日など、もう考えられなくなっていた。そして、心の余裕ができると、これまで過ごしてきた自分の人生を振りかえるようになった。


 それは、砂を噛むような、つくづく味気ないものだった。

 物心つくとすぐ、厳しい魔術の修行に明けくれた。学校に入ると、それはさらにエスカレートした。

 彼の両親は、学校で一番になることを求めた。いや、強要した。二番にでもなれば、激しいムチ打ちと罵詈雑言、さらに厳しい修業が待っていた。


 彼のことを名前で呼ぶ者は、家族も含め誰もいなかった。

 両親は、「お前」、教師は「君」、クラスメートは「おい」という風に。しかし、全員が彼のことを、陰ではこう呼んでいた。


「コウモリ」と。


 両親が亡くなると、彼の興味は、地位と権力へと向かった。より早く、より高く。出世への欲望は、限りがなかった。

 そのあげく、王から便利な道具のように扱われ、やがて捨てられた。

 自分の人生は、いったい何だったのか。

 自分は、何者でもなかった。


 そして、今、このような身になって鏡を見ると、自分の人生がやっと見えてきた。


 ピエロ。


 そう、まさにピエロこそ、彼の人生だった。

 名は無く、人から笑われ、さげすまれ、そして、評価されない。


 奇禍により半身に刻まれた黒い刻印は、男に本当の姿を教えてくれるのだった。


 ◇


「だいぶ、顔色が良くなりましたね」


 聖女が、微笑みを浮かべる。


「それから、あなたのお名前は?」


 初めて、誰かから名前を聞かれた。

 電流のようなものが、身体を走った。


「どうしました?

 寒気がしますか?」


 聖女が、心配そうに尋ねる。


「ヴィ、ヴィナスです」


 生まれて初めて、人から求められ自分の名を告げた。

 両親が美を司る異世界の女神に因んでつけた、皮肉な名前。これまで自分をさいなんできた、運命の始まり。

 しかし、今、その運命が変えられようとしていた。

 異世界から来た一人の少女によって。

 聖女こそ、ヴィナスの名にふさわしい。


「私のことは、ピエロッティとお呼びください」


「でも、本当は、違う名前なのでしょう?」


「私は、今こそ自分の本当の名を知ることができました。

 どうか、この名で呼んでください」


 この後、聖女あるところには必ず、背後で目立たぬよう立つ、この従者の姿があった。獣人たちは、彼のことを、その姿からこう呼んだ。『陰陽いんようの従者』と。

 そして、人々は、聖女同様、従者のことも敬うことになるのだった。


 いつもお読みいただきありがとうございます。

 コウモリ男の生いたちが、明かされました。

 次回は、場面が変わり、また史郎の登場となります。

 ご期待ください。


ー ポータルズ・トリビア - コウモリ男

コウモリ男の両親は、第3シーズンで舞台となる学園都市世界の出身です。

学園都市で望む地位を築けなかった彼らは、活躍の場を他の世界に求めます。

選ばれたのが、アリストがあるパンゲアでした。

アリスト国成立の際には、二人もそれなりの働きをし、貴族に叙せられています。

こういう背景があって、彼らは息子に過度の期待をしていたようです。

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