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ポータルズ ー 最弱魔法を育てよう -  作者: 空知音(旧 孤雲)
第13シーズン 招き猫と冒険者
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第66話 薄い本(上)

 シローが天敵と戦います。

 そして、「薄い本」とは?



 朝、床にそのまま寝ていた俺は、外でざわざわと人声がするので目が覚めた。 

 うー、硬い床に直に寝てたから、体が痛いよ。

 

 テント内のかさばる浴槽を収納してから、外に出る。

 扉を開けたとたん、テントをとり囲んだ群衆から声を掛けられる。


「シロー殿!」

「いつおいでに?」

「我がウエスタニアへ、ぜひ!」

「イスタニアへこそ、ぜひ!」


 この人たち、軍隊仕込みの大声だからうるさいんだよね。

 

「シロー殿、すぐに『結びの家』を開けますから、どうぞ中へ!」


 そんな中、知りあいのヴァルム大尉が群衆をかき分け、必死に俺を建物内へ誘導する。

 建物の表扉が閉まると、やっと喧噪から逃れることができた。


「ふう、この世界にとって大恩ある方に、なんたる無礼だ!」


 ヴァルムは男らしい顔をしかめている。


「その通りだわ!」


 ヴァルムの声に応えたのは、左目に赤い眼帯を着けたモラー少佐だ。

 かつてと比べ、彼女はその表情がぐっと柔らかくなっている。


「騒がせちゃったね。

 ここに着いたのが夜中だったし、ちょっと試したいことがあったからテントで寝てたんだ」


「そうでしたか。

 とにかく、おいでいただいて嬉しいです。

 いろいろとお願いしたいこともありますし……」


 モラーのセリフに悪い予感がする。まさか……。


「お願いしたい案件が山積しておりまして。

 どうぞ、あちらの部屋へおいで下さい」


「い、いや、まだ着いたばかりだし、家族や仲間もいるから――」


「みなさんのおもてなしは、担当の者が総力を挙げて取りくみます。

 いまは、ささ、こちらへ」


 ヴァルムが俺の手首をがっちり握り、建物の中を進んでいく。

 あー、こっちにあるのは……。


 ヴァルムとモラーがバンと扉を開けた大きな会議室には、軍のお偉いさんがずらりと顔を並べていた。

 俺が部屋に入ると、みなが拍手する。

 それはいいんですけどね、これはこの後、きっと……。


「では、会議を始めましょう」


 うーん、やっぱりこうなりますか。俺の天敵、会議だよ。


 ◇


『結びの家』での会議は、六時間後にやっと終わった。


「懸念事項が、これほど解消されるとは!」

「ははは、『英雄』の名にふさわしいですな!」

「ふふふ、明日から休暇が取れそうですわ!」


 いや、あれだけ長い会議の後で、このおじさん、おばさんたち、なんでそんなに元気なの?

 

「お休みに備えて、今日はここのお風呂でしっかりくつろぎましょう!」 


 おい、くつろぐのに気合い入れてるよ、この人!

 ここ『結びの家』には、俺が造った大浴場があるから、みんな、それを楽しむ気だな。


『(*'▽') ご主人様ー! あんなにたくさん、お仕事ひき受けちゃって大丈夫?』


 会議を早く終わらせたいから、どの案件も俺に任せろって言っちゃったんだよね。


『(@ω@) えーっ!? そんな理由だったの?』


 他に何の理由があるの?


『(;ω;) 一緒にたくさん遊べると思ったのに……』


 いや、点ちゃん、それ、俺も思ってました!

 ちゃんと思ってたから!


『(=ω=) ホントですか~?』


 ホント、ホント!

「ミィ?」(ホント?)


 あっ、ブランちゃん、ここで俺の肩に乗っちゃだめ!

 長時間の会議で、肩がすんごく凝ってるの!


『(=ω=) ブランちゃんに、過去の心を覗かれたくないからじゃないの?』


 ドキッ!

 ちっ、違いますよ、違います!


 ◇


 それから数日間、俺は多忙を極めた。

 処理する案件は多岐に渡り、もう一つの大陸での仕事も含まれていた。

 イスタリアとウエスタリアを戦わせていた賢人たちは、牢獄と化した行政ビル最上階で毎日を過ごしている。

 彼らは様々な理由をでっちあげ、ビルから外へ出ようとしたそうだが、当然許可が下りなかったそうだ。

 どうも、反省が足りないみたいなので、彼らが座る椅子を消して、立場を再確認させておいた。


 仕事の中には大陸間を行き来する船舶の建造があったが、これは船の骨組みを点魔法で組みたて、後は作業員に任せる形をとった。

 この他、かつての戦争で荒れはてた土地を整えたり、主なものでも三十以上あった仕事を終えた時、『結び世界』に来てから二週間が過ぎていた。


 これまでは通貨すらまともに発達していなかったから、商業活動に関してはハーディ卿からレクチャーしてもらうよう頼んだ。


 上下水道や道路、建築関係は、ショーカに働いてもらうことにした。激務になるだろうが、この旅に参加したからには、仕方ないと諦めてもらおう。


 ギルドの設立は、リーヴァスさんに頼んだ。ミミとポルはそのお手伝いだ。

 リーヴァスさんは、ドラゴニア、スレッジとすでに二つのギルド立ちあげを手掛けているから、特に問題はないだろう。

 

 一番の難関はウエスタニア、イスタニア両国の交流で、幼い頃から「男性は下劣なもの」「女性はつまらないもの」と教え込まれてきた、それぞれの国民がお互いを理解し合うためには、何かきっかけが必要だった。

 ところが、これに関しては、よい案が浮かばない。

 問題が個人個人の心にあるからだ。

 ブランによって、全国民の記憶を改変するという方法もあるのだが、さすがにこの手段は取りたくなかった。


 考えるのに疲れた俺は、『結びの家』のカフェで、膝で丸まったブランを撫でながらお茶を飲んでいた。

 広く席数が多いカフェは満員で、なぜか一番奥の席に座る俺の方をみんながチラチラみている。

 かつてヴァルム大尉の部下で、今はここで料理を担当しているニコ少年が通りかかったので、呼びとめる。


「ニコ、みんながこっちを見てるんだけど」


「ああ、それはアレのせいですね」


「アレ?」


「すぐに取ってきます」


 厨房に駆けこんだ彼が、すぐに戻ってくる。

 テーブルの上に置かれたのは、A4サイズの薄い本だった。

 地球の製本技術からすれば、「本」とも言えないほどお粗末なその冊子の表紙には、大きな文字で表題が書かれていた。


『解放の英雄』

 

「えーっと、これは何?」


「ご存じないんですか?

 英雄が私たちを『科学都市』の支配から解放した物語ですよ」


「えっ!?」


「全ての成人に、連合評議会が配布しているんです」


「その英雄って誰?」


「あははは、シローさん、あなたに決まってるじゃないですか!」


 なっ、なんでそんなことに!


「あなたは、『結びの大陸』の救世主なんですから」


「いやいやいや、ちょっと待ってくれ!

 なんでそうなった!?」


 かつて俺がこの世界でやった事は、両国の上層部しか知らないはずだ。


「最初は、ウエスタニア軍で流行った、手書きの薄い冊子だったそうなんですが、それが有名になって、今に至るです」


 薄い冊子って、同人誌ですか!?


「おいおい、途中飛ばしすぎだろ!

 どうして、それがこんなことになる?」


「その辺の事情は、作者から聞いたらどうですか?」


「作者?」


「ミラという女性です。

 ほら、噂をしたら、彼女が現われましたよ!」


 飾り戸を開けカフェに入ってきたのは、ブロンドの髪を肩まで伸ばした、すらりとした長身の女性だった。

 

 いつもお読みいただきありがとうございます。

 天敵との戦いは、シローの敗北に終わったようです。

 次話、薄い本を書いた女性、ミラとのやり取りです。

 明日へつづく。

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