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ポータルズ ー 最弱魔法を育てよう -  作者: 空知音(旧 孤雲)
第13シーズン 招き猫と冒険者
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第55話 ドラゴニアギルド(下)

 ドラゴニアギルドでの一幕、後編です。


 ギルドの奥には、小さな体育館くらいはある広間があった。

 下は土がむき出しで、奥の壁際には盛り土がしてあり、まとのようなものが並んでいる。きっと弓や魔術を訓練するためのものだろう。

 また、手前の壁際は木製の階段が設けてあり、冒険者希望で集まった竜人たちはそこへ座った。

 

 部屋中央の開けたところには、白い開始線が二本引かれている。

 黒竜族の女性リニアと、同じく黒竜族であるバークが、それぞれ開始線に立つ。

 部屋に入る前、リニアにはあることをアドバイスしておいたから、俺は安心して観客に徹することにした。


 リーヴァスさんが、木製の長剣をバークとリニアそれぞれに手渡す。


勝敗かちまけは、審判の私が判断する。

 お互い正々堂々と戦うように。

 始め!」


 リーヴァスさんの合図で「試合」が始まる。

 

 大柄なバークが無造作に木剣を振りかぶると、リニアにそれを叩きつけた。

 体格的に劣るリニアが木剣で受けていたら、おそらく剣ごと地面に叩きつけられていただろう。

 バークの斬撃は、それほど勢いがあるものだった。

 さすが近接戦闘特化の黒竜族だ。

 

 リニアは体を開き、その斬撃をひらりとかわす。

 彼女は体勢が崩れたバークの後ろにするりと移動すると、彼の首に木剣を当てた。 


「それまで!」


 リーヴァスさんが、勝負の終わりを告げる。

 バークは後ろを振りむき、目の前にある木剣の切っ先を信じられないといった表情で見つめている。


「おおっ!」

「速えっ!」

「なんだ?!

 攻撃が見えなかったぞ!」


 観客として試合を眺めていた竜人たちが驚きの声を上げる。

【竜眼】を持つ俺にはリニアの動きがはっきり見えていたが、彼らには見えなかったらしい。

 肉体強化の魔術を試合開始前に使っておくよう、彼女にアドバイスしたことも功を奏したようだ。


「ば、ばかな!

 な、何かの間違いだ!

 もう一度やらせてくれ!」


 バークは、それからさらに四度リニアに挑んだが、いずれもほぼ同じ結果となった。


「ぜえぜえ、そ、そんなはずはねえ!

 お、俺が女なんかに負けるはずはねえんだ!」


 息を切らせた黒竜族の男は、まだ諦めがつかないようだ。


「リニア、もう下がりなさい」


「はい、師匠」


 リニアがリーヴァスさんに頭を下げ、練習場を出ていこうとする。


「ち、畜生!」


 叫んだバークがリニアの背後から木剣で殴りかかる。

 その瞬間、彼の体はまるで重力が無くなったような動きを見せた。

 両手両足を広げ、地面と水平に飛んでく。


 ズドーン!


 大太鼓をぶっ叩いたような音が訓練場に響く。

 壁にぶつかったバークの体が、ぐしゃりと地面に落ちる。


「やれやれ、懲りないお人ですなあ」


 リーヴァスさんが呆れている。

 竜眼を持つ俺には、リニアに襲いかかったバークの脇腹辺りに、リーヴァスさんが軽く触れた姿が見えていた。

 しかし、見えていても、どうやってあんなことになったか理解できない。 

 武術でいう気功のような技かもしれない。


 静まりかえった訓練場だったが、少しすると黒竜族の男が数人、バークに駆けよった。

 

「バークさん、大丈夫ですか?!」

「ケガはしてませんか?!」

「どうしてこんなことに!?」


 倒れたバークの横にひざまずいていた黒竜族の若者が、きっとこちらを見る。


「人族が竜人に勝てるワケねえ!

 きっと、何かインチキしてるに違えねえ!

 なあ、あんたらも、そう思うだろう?!」


 呼びかけられた「観客」は、みんな横や下を向き黙ったままだ。

 額に赤い鉢巻を巻いた赤竜族の青年が観客席から立ちあがり、彼のところへ近づいた。


「うーん、気がついてないみたいだから訊くんだが、お前この人が誰か知ってるか?」


 赤鉢巻の竜人は、俺を指さしている。


「そんなヤツ、知るわけねえだろう!

 だいたい、そいつは人族だろうが!」

 

 黒竜族の若者は、かなりご立腹のようだ。


「お前、去年の竜闘を見てないな?

 その若さじゃ、天竜祭、いや、真竜祭にも参加しなかったんだろう?」


「ばっ、馬鹿にすんなっ!

 次の天竜祭には参加する!」


 天竜祭への参加できるのは二十歳以上だから、彼は十九歳か二十歳なのだろう。


「ふう~、言っていいのかどうか、分からんが……。

 お前、去年の竜闘と天竜祭で何が起きたか知らんのか?」


「ど、どういうことだ……?」  


「ここにいるのは、竜闘で黒竜族を下したお二方だ。

 そして、白い魔獣を肩に乗せていらっしゃるのが、竜王様のご友人、シロー殿だ」


「げっ!

 も、もしかして……ま、『魔王』!?」


 俺は思わず口を出した。


「おいおい、『魔王』ってなんだよ!」


「凶悪な魔獣を何匹も使役して、何人も美女を侍らせてるっていう――」


「ちょっと待ったー!

 どこでそんな根も葉もない話を聞いたんだ!?」


「こ、黒竜族のみんながそう言ってます……」


 黒竜族の若者は、すでに両膝を地に着き、頭を下げている。


「な、なんでそんなことに……リーヴァスさん?」


 リーヴァスさんは、俺に背を向け前かがみになっているが、まちがいなくその背中が震えている。

 笑ってる!?


「えー、お集りのみなさんには、急きょ冒険者になるための訓練をしてもらいましょう。

 後になるほど厳しい訓練になりますから、早めに掛かってきましょうね?

 さあ、どなたから来ますか~?」


 俺の優しい言葉に、冒険者志望の竜人たちが、青くなった顔を見合わせる。

 さっき黒竜族の若者に声を掛けた、赤い鉢巻の赤竜族が、のろのろと練習用の木剣を手にする。


「おい、あんたらのせいだぜ!

 後で覚えとけよ!」


 彼は倒れたバークの周囲に集まった竜人たちに向かい、恨めしげにそう言うと、木剣を振りかぶり、やけくその勢いで俺に掛かってきた。

 

 ◇


 十分もせず、冒険者志望の竜人たち全てが地面に横たわった。

 さっき俺の事を笑ったからか、リーヴァスさんも「稽古」を手伝ってくれた。

 

「これなら、なんとか冒険者としてやっていけそうですな」


 そう言うリーヴァスさんは、全く息も切らせていない。ほどんどの竜人を彼が相手にしたのにだ。

 竜人たちに対してリーヴァスさんがある程度の評価をしているのは、彼らが元々身体能力が高いうえ、冒険者になろうというというくらいだから、それなりに腕自慢の者たちが集まったからだろう。


「彼らのランクはどうしますか?」


「そうですな。  

 剣の腕と冒険者としての能力は別物ですから、全員が鉄ランクから始めるとよいでしょう」


「なるほど、それもそうですね」


 こうして、ドラゴニアギルドの初日が始まった。 


 いつもお読みいただきありがとうございます。

 黒竜族の間では史郎が「魔王」と呼ばれていたことが判明。

 リーヴァスさんに笑われてしました!

 では、明日へつづく。

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