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ポータルズ ー 最弱魔法を育てよう -  作者: 空知音(旧 孤雲)
第2シーズン 獣人世界グレイル編
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第8話 聖女とコウモリ

 アリストから獣人世界へ送られた聖女舞子のその後です。

史郎は、彼女を追って獣人世界へ来ています。

コウモリ男と同時にポータルに落ちた、聖女はどうなるのでしょう。

関連話は、冒険者世界アリスト編(48)(49)50(51)となります。

一緒にお読みいただくと、より面白くお読みいただけます。

 お楽しみください。


 気を失っていた舞子が意識をとり戻すと、周囲は夜になっていた。

 いや、右手に外の光が見える。ここは、洞窟の中かもしれない。


「あ、史郎君、史郎君はっ……」


 そこで、舞子は、自分がポータルに落ちたことを思いだした。異世界のこちら側に史郎がいるはずはない。

 なぜなら、すでにポータルが消えていたからだ。


 明るい方へ歩きだそうとしたとき、足が何かに触れる。

 しゃがんで、手で触れてみる。布の様だ。さらに探ると、それが人の体であることが分かった。焦げくさい臭いがする。

 舞子は、倒れている誰かの下に自分の体を押しこみ、持ちあげようとした。小柄な彼女には大変な重労働だが、なんとか洞窟の入り口までたどり着いた。

 外から入ってくる明かりで、その人物の顔を確認したとき、彼女は心臓が停まるかと思った。


 そこには、彼女をさらったコウモリ男がいた。驚いた舞子の肩から、男の体が、ずるりと地面に落ちた。そのことで、男は目を覚ましかけている。


「う、ううう」


 男の顔は、脂汗を浮かべ、白っぽくなっている。体の半分は、焼けこげて炭のようだ。彼の命は、すぐに消えるだろう。

 舞子はためらうことなく、治癒魔術を使う。彼女の心には、治した男が危険な存在になるという考えすら浮かばなかった。

 男の体が光ると、うめき声がだんだん小さくなってきた。

 息を確かめると、さっきより落ちついている。舞子は安心すると、自身も再び意識が遠のいていった。


 舞子が次に目覚めると、自分が洞窟の入り口に、うつ伏せに倒れていることに気づいた。はっと思いだし、隣を確認する。

 コウモリ男は意識を失い横たわっており、その顔色はかなり良くなっていた。しかし、不規則な呼吸から考えると、まだ油断はできないだろう。

 舞子は、もう一度、男に治癒魔術をかけておいた。


 不思議なのは、コウモリ男の体に何か内側から抵抗するものがあり、魔術が効きにくいことだ。多くの人々を治療してきた彼女にとって、それは初めてのことだった。

 男の左半身の焼けこげは、何回か治癒魔術を掛けても、ほとんど変化が無かった。

 ただ、黒くなった左手の指が少し動くようになったのは確認できた。治療が全くの無駄というわけではなかった。


 陽がかげり、少し寒くなってくる。舞子は、男を担ぎ、また洞窟の奥に戻った。風が当たらないだけ、こちらの方が温かいからだ。

 半分焼けた男のローブを脱がせ、二人の体に掛ける。アウトドアが得意な史郎なら、簡単に火がおこせるのだろうが、自分にそんな技術はない。

 舞子は、なるべく男に密着するような姿勢を取ると、不安の中、やがて眠りにつくのだった。


 ◇


 コウモリ男は、暗がりの中で目を覚ました。

 熱があるのか、少し寒気がする。 岩の上に横たわっているようだ。体の左半分には、ほとんど感覚が無い。指を動かそうとしても、ピクリとする程度だ。左足も、動かないようだ。

 暗闇の中、周囲をまさぐると、柔らかいものに触れた。小柄な女性のようだ。ぼんやりした記憶の中に、聖女と共に、ポータルに落ちたときのことが浮かんできた。


 ここはいったい、どこなんだ?


 明かりを灯す魔術を唱える。空中に現れた光る球が、周囲を照らす。

 差しわたし五歩ほどの狭い洞窟と、その中で横たわる少女の姿が浮かびあがった。


「聖女か」


 彼は、自由になる右手を、少女の首に持っていく。地面に押しつけるように、その手を絞めていく。


「うう……史郎君……」


 男は、はっとして手を放す。もし、他に誰かいるのなら、ここで彼女を殺すのは危険だ。

 コウモリ男はそう考えると、明かりを消し、再び横になるのだった。


 ◇


 次に目覚めた時、コウモリ男は焼けつくような喉の渇きを感じていた。

 その口に、冷たい水が注がれている。彼は、むさぼるように舌を伸ばし、水を求めた。目を開けると、ぼんやりと聖女の顔が見える。

 彼の口元で濡れた布を絞っているようだ。

 水が口の中に入ってくる。喉を鳴らし、それを飲んだ。


「よかった。

 気がついたようですね」


「どうして私を助けた?」


「こちらに着いたとき、あなたは死にかけていました。

 だから、治癒魔術を施しました」


 男には、聖女の言葉が自分の問いに対する答えになっているとは、到底思えなかった。


「私が、怖くはないのか?」


 聖女は、それに答えず、光る手をかざした。体が温かなものに、包まれていく。それは、物心ついて以来、一度も彼が感じたことがないものだ。


 舞子の治癒魔術は、コウモリ男の心にまで何かを与えはじめていた。


いつもお読みいただきありがとうございます。

コウモリ男が、あやうく聖女舞子を手に掛けるところでした。

舞子ちゃん、危なかった。

では、また次回で。


ー ポータルズ・トリビア - 神獣のヒント

 このお話のどこかに神獣のヒントがあります。

お気づきになった方もいらっしゃるかもしれません。

神獣の正体は、「獣人世界編」後半で判明します。

 ご期待ください。

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