第33話 エルファリアのポンポコ商会(下)
エルフ国のポンポコ商会支店では、やっぱり、あれを売るようです。
会議が行われていたのは、円形の部屋だった。この部屋は、店舗から一つ森の中へ入った場所に作られている。一つの球状住宅を丸ごと会議室にした形だ。
その部屋中央に据えられた円形のテーブルの周囲に、数人のエルフたちと俺の仲間が座っていた。
「本当にこんなものが売れるのですか?」
年配の男性エルフが手にしているのは、白猫のぬいぐるみだ。
「マスケドニアでは大変な売れゆきでしたよ」
軍師ショーカが、いつもの落ちついた声でそう言った。
彼は、店員と言うよりオブザーバー的な立場だから、よけい説得力があるよ。
だけど、ショーカって、声がいいよね。声優の才能あるかもね?
「エルフにとって魔獣は忌むべきもの。
これは本当に幸運のシンボルなのかい?」
痩せたエルフのおばあさんが長い爪の先で、ぬいぐるみをつつく。
物語に出てくる悪い魔女っぽい。
「リーダー、どう思います?」
黒騎士さんが、俺に発言を求める。
「ああ、魔獣に対する先入観ね。
何もしなければ、マスケドニアのように売れることはないだろうね」
「そうだろう、そうだろう」
エルフのおばあさんが、したり顔で頷く。
「だけど、その辺は大丈夫。
そんな先入観、宣伝でぶっ壊すからね」
「宣伝?
宣伝とは何ですか?」
質問したのは、身長が一メートルくらいしかない若者だ。緑色の服を着た彼はフェアリス族という種族だ。
遠く離れた『西の島』大陸に住む彼らだが、最近は少数ながら若者がエルフ王国で働いている。まだ、交易に関わる仕事にしか就いていないみたいだけど。
「これを見てください」
各自に行きわたるだけ、点ちゃんシートを配った。
みんなに見せるようシートを立て、それに触れる。
それに映しだされた動画は、ダークエルフの少女がトテトテ走り、ぽふりとコケットに跳びのるというものだった。
『ふわふわ~♪』
それを見たハーディ卿が目を丸くする。
「シローさん、これは何です?」
「ああ、これ、以前コケットを売りだすとき、宣伝用に作ったシートなんです。
この世界では、マーケティングや宣伝という考えがまだまだ未発達なんです」
「なんと!
それでは、この宣伝は凄い効果があったのではないですか?」
「ええ、これによって高額商品のコケットが飛ぶように売れたのが、『ポンポコ商会』設立のきっかけになったんですよ。
ちなみに、商会の名前は今回ここにいませんが、ミミがつけました」
「納得」
これは、黒騎士さんだ。
「宣伝に慣れていない人々、そしてこのシート……これはいい!」
ハーディ卿が目をキラキラさせている。
「ええ、幾つかの映像を作って、最も良いものを採用しましょう。
ロスさん、広告専門の部署って、まだ作っていませんでしたよね?」
「宣伝をする部署ですか?
ええ、いままでは営業する者が兼ねていましたから」
「では、ハーディ卿にアドバイスしてもらって、それを立ちあげてください。
それから、みなさんは、この『白猫様』の使い方、知ってますか?」
俺はエルフの出席者の方を見まわした。
みんな首を横に振っている。
「この肉球を指で押さえるんですよ。
黒騎士さん、お願いします」
エルフのおばあさんが、白猫ぬいぐるみを黒騎士に手渡す。
彼女は、嬉しそうにそれを受けとると、肉球を指で押さえた。
「にゃんにゃん♪」
エルフたちがどよめく。
黒騎士の整った顔立ちがデレデレになってるからね。
ロスが白猫を手に取り、黒騎士をまねる。
「にゃんにゃん♪
なっ、なんだこの気持ち良さは!?」
エルフたちは、争うように白猫のぬいぐるみを手にし「にゃんにゃん♪」を試した。
「素晴らしくイイね!」
エルフのおばあさんも納得したようだ。
「片手を上げたこの形は、商売繁盛のご利益を意味しています」
「「「おおっ!」」」
エルフたちが声を揃える。
さて、後はハーディ卿と黒騎士さんに任せて、俺は宣伝用の動画を作りに行くかな?
◇
店から出ると、メサリアさんが俺の方へ駆けてくる。慌てているのか三度ほど転んで、やっと俺の前に来る。
「英ゆ……失礼しました、リーダー、娘さんたちは凄い人気です」
彼女が指さす方に、エルフの子供たちが並んでいる。
「子供たちが道いっぱいになってしまったので、整理しました」
確かに、子供たちは三列縦隊で、道の端に並んでいた。
ロスが言ったように、この人、本当は優秀なんだろうなあ。
子供たちの歓声が上がる。
エルフの子供を一人ずつボードに乗せ、ナルとメルが近づいてきたのだ。
どうやら、二人は子供にせがまれ、ボード遊びをさせてやったようだ。
子供たち全員がボードを体験するまで、道端に座り、それを見守った。
久しぶりにボードに乗れ、ナルとメルは最高の笑顔だった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回はお姫様たちとお茶会のようです。
明日へつづく。




