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ポータルズ ー 最弱魔法を育てよう -  作者: 空知音(旧 孤雲)
第13シーズン 招き猫と冒険者
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第29話 水着と盗賊団(下)

 襲撃を受けた史郎たち。

 史郎は一人でそれに立ち向うようです。

 

 遠く離れた港町ポーラとエルフ国王都を、東西に結ぶ幹線道路が、『モロー街道』だ。

 街道の前半は比較的起伏の少ない草原であり、後半は丘陵地帯、そして広大な森の入り口で終わる。

 以前この道を通った時は、丘陵地帯で待ちぶせにあった。

 今回はどうだろうか?



 盗賊が襲ってきたのは、やはり2号が丘陵地帯の切通しにさしかかった時だった。

 襲撃する人って、みんな同じこと考えるんだね。

 ただ、かつてここで襲撃を受けた時、敵の数は二十人だったが、今回は五十人以上いそうだ。

 見えているだけで、前方に十人ずつ三列、切通しの上に左右二十人ずついる。

 点ちゃんからの情報だと、それ以外にも岩陰にひそむ者がいるようだ。


 前回襲撃されたときは、敵の少し前で2号を停め、リーヴァスさんが全員を切りふせた。

 今回、盗賊たちには、俺のスキル実験につきあってもらおう。


 ◇


 盗賊団の頭目ココネンは大柄なエルフだ。細身が多い種族の中で、彼は一際がっちした体格をしている。

 この男、かつては上級貴族だった。気安く王城イビスに登れるほどの。

 しかし、度重なる失敗が、彼を今の身に転落させた。


 かつて、王の前で異世界から来た者たちを侮辱しようとして、逆にコルナという名の狐人に恥をかかされた上、謹慎させられた。次に、ダークエルフ侵攻後の会議で、戦後賠償を要求して、やはり謹慎の憂き目にあった。そして、この間、上級貴族から下級貴族へ降格となった。これはエルフ有数の名家出身の彼にとり、許せるものではなかった。


 まさに逆恨み、いや、言いがかりとしか言いようがないのだが、彼は一連の出来事により自分が失脚したのは、シローとその仲間のせいだと結論づけた。

 そして、虎視眈々と復讐の機会をうかがっていた彼は、信じられないほどのチャンスに恵まれる。


 モロー街道郊外にある王家の離宮に、史郎の仲間二人、リーヴァスとコリーダが滞在する事を突きとめたのだ。

 リーヴァスは史郎のパーティメンバーでありエルフ王の友、コリーダは史郎の妻であり、エルフ王の娘。

 憎き史郎はもちろん、エルフ王にも復讐する絶好の機会だ。

 彼は二百人以上の兵士でその離宮に夜襲をかけた。

 ところが、たやすいと思えた包囲戦は、闇に紛れ襲いかかる小さな何かによって壊滅的な敗北に終わった。


 捕らえられた兵士から、彼の関与が明るみに出ると、爵位はおろか領地や屋敷まで剥奪されてしまった。

 一族は散り散りとなり、彼自身も盗賊に身をやつした。

 

 ココネンにつき従う元兵士や元家人で結成された盗賊団は、瞬くうちに五百人を超える大集団へと膨れあがった。

 街道沿いの宿場町を次々と手中に収め、そこからの収益と盗賊行為そのものによる略奪品の売買で、今では千人を超える盗賊団となっている。


 こうなると、もう盗賊団と言うより一つの組織、一つの国である。ココネンはその集団を『黒き血』と名づけ、やがては王都で騒乱をひき起こそうと画策していた。


 そんなある日、彼の部下がモロー街道で、不思議な獲物を見つけた。

 馬車と言うには大きすぎるその白銀色の貨車は、かなりのスピードで走っていたが、前にはそれを引く馬もおらず、よく見ると道から少し浮いているのが分かった。

 これは、間違いなく大物だ!

 盗賊団『黒き血』の実行部隊は色めきたった。

 

 ◇


「シロー、本当に私は出なくていいのですかな?」


「ええ、ここは俺だけで出ようと思います」


 俺とリーヴァスさんは、バス型点ちゃん2号の最前列横の通路で、小声で話をしている。

 というのも、お昼寝しているナルとメルを起こさないためだ。

 彼女たちには戦闘シーンを見せたくないから、現在、点ちゃん2号は車体全部を白銀に染め、俺以外は中から外が見えなくなっている。

   

「リーダー、大丈夫?」


 俺の言葉を洩れ聞いた黒騎士さんが心配してくれる。

 

「大丈夫です。

 黒騎士さんには、戦闘後に武装解除のお手伝いをお願いしますよ」


「シローさん、切り通しではこちらに地の理がありませんよ」


 さすが軍師ショーカ、その辺りを考えるよね。


「ショーカさん、大丈夫ですよ。

 危険はありませんから、大船に乗ったつもりでいてください」


「大船に乗る?」


「ああ、安心して見ていてくださいという意味です」


「分かりましたが……できるなら戦闘を見られませんか?」


 ショーカの前では、すでにいろいろ点魔法使っちゃってるから、隠すっていっても今更だよね。

 そう考えた末、答えた。 

   

「そうですね。

 何が起こってるか、見ても分からないかもしれませんが……まあ、いいですよ」


 だって、今回俺が使うの、点魔法の『拡大縮小』と『状態変化』だからね。

 ここのところ身に着けた新スキルって地味過ぎない?


『へ(u ω u)へ やれやれ、こんな人に蹂躙される人たちって哀れです』


 点ちゃん!?

 戦う前から敵に同情?


 ◇


 髭も剃らず、むさくるしい格好をしているマルキアスはココネン家に代々仕えてきた騎士だった。今は盗賊となっているが、まだ三十前の彼は美形が多いエルフの中でも、ちょっと有名な美丈夫だった。かつて上流貴族の娘や奥方と浮名を流したのがまるで夢のような今の境遇だ。


 今日は、彼が百人近い実行部隊を指揮している。

 見たこともない大きな獲物、白銀色の貨車が切通しに入ったのを見計らい、指笛で合図する。


 ピーッ!


 部下をひき連れ、隠れていた岩陰から飛びだすと道をふさぐ。

 音もなく停まった貨車に対し、仲間が十人ずつ三列に並んだ。

 前十人が近接、次の十人が弓、後ろの十人が魔術、それぞれ腕が立つ者を配置している。

 そして、左右の崖には二十人ずつの仲間が、上から奇襲するため潜んでいる。


「行けっ!」


 そう叫び、合図がわりに剣を振りおろしたとき、彼は目の前に停まる貨車の前半分上部が透明になり、椅子のようなものに座る何人かがこちらを見ているのに気づいた。

 彼の頭上を越えた矢が、そいつらに向け飛んでいく。

 透明な素材はクリスタルだろうが、そんなものではエルフが放つ矢を止めることはできない。

 なぜなら、彼らの矢は『風弓かざゆみ』というエルフ特有の魔術で強化されているからだ。

 その威力は生木でさえ容易に射通すことができる。


 チチチッ


 そんな音を立てた矢がクリスタルに当たると、マルキアスの予想に反し、全てはじかれてしまう。


「なっ!?

 ま、魔術いけっ!」


 すかさず後列の魔術師に声を掛けた彼は、時と場合が適切ならば褒められるべきなのだろう。

 三列目から風の魔術が放たれる。『風刃ふうじん』 これは風の刃で相手を切りきざむ、情け容赦ない攻撃魔術だ。


 チチチッ


 さっきと同じような音がすると、魔術は消えうせた。

 ど、どういうことだ!?

 複数の『風刃』が透明なクリスタルに命中したはずだ。

 それなのに、なぜあれは壊れないのか?


 呆然とした頭を左右に振り、マルキアスは再び指笛を吹いた。

 二度目のそれは、崖の上に潜んでいる者が奇襲をかける合図だ。


「きぇー!」

「死ねーっ!」

「ヒヤッハーッ!」


 白銀の貨車目掛け、仲間が次々と飛びかかる。

 彼らの落下速度がゆっくりしているのは、風魔術でスピードをコントロールしているからだ。

 それから起こったいくつかの事は、マルキアスの想像をはるかに超えていた。

 

 いつの間にか、貨車の上にカーキ色の上下を着た人族の青年が立っていた。

 頭に茶色の布を巻いた彼は、のんびりした表情で周囲を見まわしている。

 盗賊団の仲間が貨車の上に降りたち、青年をとり囲む。


「死ね!」

「くらえっ!」

「むんっ!」


 塗った麻痺毒で薄緑色に輝く白刃が、無防備な青年に殺到する。


「ひえ?」

「痛っ!?」

「いっ!?」


 仲間たちが持つナイフや短剣が消えている。

 どういうことだ?


 よろめいた仲間の一人が、貨車の上から地面に落ちる。駆けよったマルキアスは、目にした事が理解できなかった。

 倒れた男の手が開き、そこには握られていたナイフが見えている。なぜだか、そのナイフがやけに小さいのだ。小指より短くなったそのナイフが、男の手にちょんと刺さっている。

 いったい、何がどうなってる?


 貨車の上にいた仲間がどさどさ道に落ちてくる。

 手を握ったままの男がいたので、それを開かせると、やはりその手のひらに小さな短剣が刺さっていた。

 何が起こってる?


 背後から動揺した仲間の声が聞こえてくる。

 一瞬そちらを見た彼は、あまりの事に口を閉じることも忘れてしまった。

 前衛の男たちが、地面に落ちた巨大な何かに抱きついているのだ。

 よく見ると、それは巨大な長剣や槍、戦斧だった。

 二メートルを超えた武器を持つことができず、仲間は仕方なくそれに抱きつく形になっているようだ。

 なんなんだ!?

 これはいったい、なんなんだ!?


 貨車の方を降り向くと、いつの間にか、目の前に先ほどの青年が立っている。

 近くで見ると、彼が着ている黄色い服は、冒険者のそれらしい。


「お、お前、な、なんだ?」


 マルキアスは、本来「誰」と問うところをそう尋ねてしまう。

 それほど、目の前で起こっている事が理解できなかった。


「カクダイシュクショウ、かなり使えるな」 

 

 青年は小声で呪文のような言葉を漏らした。

 

 もしかすると、これを引きおこしているのは魔術なのか?

 今は亡き祖母から子供の頃聞いた話を思いだす。

 魔術師の中には、幻を見せる術を使う者がいると。

 これは、幻術なのか?


「な、なんだ?」

「どうなってる?」

「熱っ!」


 目の前に青年がいるのに、思わず背後の声に振りかえる。

 二列目に並んだ弓師たちが、困惑した顔で弓を見ている。

 エルフらしくマルキアスの視力は高い。その目に映ったのは、弦が消えた弓だった。

 弓の周囲に煙のようなものが漂っているから、弦が燃えたのかもしれない。


 そのとき、彼は気づいた。

 どういうことだ?

 三列目にいた魔術師たちの姿がない。


「マルキアス!

 た、助けてくれ!」


 その声は、聞きなれた仲間のものだった。

 足元を見下ろした彼は、再び理解を超えたものを目にする。

 そこには、手のひらくらいの身長になった仲間たちがいた。

 魔術師のローブを着ている者は、みな小人こびとと化していた。


 マルキアスは確信した。

 これは、間違いなく幻術だ。

 人を小さくするなど、魔術と言えどできるはずがない。

 とっさに祖母から教わった幻術を解く方法を試みる。

 腰の鞘からナイフを抜き、それを自分の腕に突きたてたのだ。


「ぐっ!」


 刺した所に、焼けるような痛みが走る。

 しかし、なぜか幻術は解けなかった。

 足元にいる小人は、相変わらず口々に救いを求めている。

 この方法では、解けない幻術なのか……。

 為す術が無くなった彼は、力なく地面に座りこんでしまった。

 


 いつもお読みいただきありがとうございます。

 シローのスキル『拡大縮小』でした。かなり使えるようです。

 明日へつづく。 


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