第4話 不思議な石
また、史郎が名前をつけちゃいました……。
『( ̄▽ ̄) ご主人様には、もうやめてって言ってるんだけど……』
家族が東京、大阪での買い物や、沖縄にある別荘でのバカンスを楽しんでいるとき、俺はアフリカの『エミリー研究所』を訪れていた。
地球世界に着いてすぐ、俺だけがここへ来て、いくつか素材を預けておいたのだ。
「シローさん、この石、どこで手に入れたんです?」
興奮した表情で、そう話しかけてくるのは、学園都市世界から招へいされた若い女性科学者ジョイだ。肩まであった髪を短く切った彼女は、そばかすのせいもあって、ずい分若く見えた。
彼女が手のひらに載せているのは、田園都市世界で俺がタム少年からもらった石だ。
小指の先ほどのそれは、深い緑色をしており、角度によっては、鮮やかな青色にも見える。
「まだ知られていない世界でもらったものだよ」
「調べてみたのですが、この石、エネルギー交換機の触媒として使えそうなんです」
「えっ!?
どういうこと?」
「現在使っている素材と比べて、十倍は効率が上がりそうなんです。
機械がかなり小型化できます」
「凄いね!
じゃあ、その世界を訪れる時、探してみるかな」
「量はそれほど必要ありません。
むしろ質が高いものが欲しいですね」
「石に名前はつけたの?」
「まだです」
「じゃあ、その鉱物は、『タムライト』とでも名づけておくかな」
タム少年からもらった石だからね。
「分かりました」
『(・ω・)ノ あーっ、また適当に名前をつけて……』
ぎくっ!
点ちゃん、細かいことは気にしな~い。
◇
「シローさん、研究は順調に進んでいますよ」
研究所に併設されているカフェで、俺はアメリカの大富豪ハーディ卿とお茶をしている。彼はこの研究所設立に甚大な助力をしてくれた人物で、『聖樹の巫女』エミリーの父親でもある。
「ええ、先ほどジョイ研究員から報告を受けました。
エネルギー変換に利用できる触媒が見つかるかもしれないそうですね。
ところで、ハーディ卿、あなたは以前から異世界へ行ってみたいとおっしゃられてましたよね」
「ええ、異世界の技術でエミリーの目を治すことができるならと考えていました。
しかし、娘の目はもう治りましたから……」
「今回、俺は家族と一緒に世界群を巡る予定です。
その世界の一つで、エミリーにしかできない仕事があるんです。
いい機会ですから、あなたもご一緒しませんか?」
「えっ!?
それは本当ですか!?」
年齢を感じさせない、その澄んだ目がキラキラ輝く。
ハーディ卿って、子供のようなところがあるよね。
「林先生の話だと、君と一緒に異世界転移できるのは、原則として家族に限られているということでしたが――」
「ははは、確かにそうなんですが、エミリーを他人だなととは思ってませんよ。
もちろん、ハーディ卿、あなたもね」
「シ、シローさん……」
ハーディ卿の目がうるうるしている。
この辺りが、人を捉えて離さない彼の魅力なのだろう。
それくらいじゃないと、一代で巨万の富を築くことなんてできないよね。
「費用はいかほど差しあげれば――」
旅行にはお金が掛かるのが地球の常識だからだろう、ハーディ卿は真剣な顔でそんなことを言った。
「ははは、もちろん、お金はいただきませんよ。
でも、もしタダで同行するのが心苦しいと思われるなら、もう一つ旅行の目的があるので、そちらを手伝っていただければ嬉しいです」
「お力になれることなら何なりと。
どんなことをすればいいのですか?」
「俺が作った会社がいくつかあるので、その経営について現地でアドバイスを頂ければありがたいです」
「もちろん、そんなことでしたら喜んでお手伝いさせてもらいますよ。
会社はどんな業務形態で、どんな商品を扱っているのですか?」
「ええと、そういえば、以前『ポンポコ商会地球支店』の業務について、ウチの白騎士にアドバイスいただいたと思うのですが」
「ええ、そんなことがありましたね」
「同様のお店が異世界の各地にあるので、そこでアドバイスしていただければと」
「ほう、それは面白いですな!
娘のことがなくても、ぜひ参加したいですね!」
「では、さっそく地球支店の黒騎士さんから、異世界の貨幣価値などについてレクチャーを受けてください。
それより、今回の旅行は長ければ三か月ほどになりますが、ご自身の会社は大丈夫ですか?」
「ははは、それは大丈夫です。
私が突然いなくなっても支障がないよう、会社の体制は整えてあります」
「さすがですね」
「そろそろ、息子や娘により重い責任を経験させようと考えていましたから、今回の事はちょうどよい機会です」
エミリーは末っ子だから、話に出てきた「息子」や「娘」というのは、彼女のお兄さんやお姉さんだね。
「では、お願いします」
「ははは、いやあ、異世界旅行ですか。
ワクワクしますなあ!」
ハーディ卿が、大きな手で握手を求めてくる。
その目は、遠足を前にした少年のように輝いていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
すでにボロ儲けしている『ポンポコ商会』
史郎は、さらに黒い商人になろうとしているのでしょうか?
次回は、黒い秘書さんが登場です。
明日へつづく。




