第3話 新しい仲間
狸人の少年、キャラクターがいいですよね。
今回は、異世界の食材も登場します。
では、お楽しみください。
狸人族の少年が俺を案内してくれたのは、裏通りにある店だった。
驚いたことに、ギルドから歩いてすぐの所だ。こじんまりした店構えだが、店の前には植木鉢が沢山置かれ、その入り口は、緑に包まれていた。
狸人の少年は、ノックもせずドアを開けた。
「お客さんだよー!」
少年の声で奥から少女が現れた。
「ポン太、また汚れた服で入ってきて!
いい加減にしなさいよ!」
少女がにらむと、少年は俺の後ろで小さくなった。小声で何かもごもご言っているが、聞きとれない。
「ああ、俺が頼んで連れてきてもらったんだ。
彼を責めないでやってくれるか」
俺が言うと、少女はこちらを見て、ニコッと笑った。
「いらっしゃい。
お食事ですか?」
「ああ。
人族でも食べられるものを出してもらえるかな?」
「分かりました」
「二人分、頼むよ」
「え?
ポン太のもですか?」
「ああ。
いいかな?」
「お客さん。
こいつに優しくしても、つけあがるだけですよ」
「あ、ああ、そうなのか。
でも、ここまで案内してくれたからね。
お礼だよ」
「分かりました。
では、お好きなテーブルで、座ってお待ちください」
「ありがとう」
二人が座ると、少女は奥へ入っていった。
「今の娘も、犬人族ではないね」
「ええ、猫人族と犬人族のハーフです」
「へえ、そうなのか。
でも、全然、犬人っぽいところはなかったね」
「猫人族と、犬人族のハーフは、猫人か犬人のどちらかになるそうです」
「なるほどね」
食事が来るまで、お互いに自己紹介した。
彼の名前は、ポルナレフ。狸人族で十五歳だそうだ。天涯孤独の身の上で、この町で雑用をこなし生活しているとのこと。
俺が自分を冒険者だと紹介すると、ポルナレフはキラキラ目を輝かせ、いろいろ尋ねてきた。彼の夢は、お金を貯め冒険者になることらしい。
食事が出てきた。前の世界で美味しい宿屋の料理や、ルルの手料理を食べてきたから舌は肥えているつもりだが、ここの料理はとても旨かった。
白い冷製スープに、ムニムニした食感の透明な具が浮かんだものが絶品だった。
「この透明な具は、何だい?」
「ああ、それは湖沼地帯に住む、カエルの卵から作るらしいですよ」
聞かなければよかったね。
食事が終わると、デザートの茶色い果物が出てきた。外見は、地球のメロンくらいの大きさだ。一緒にストローと、錐のような道具が付いてきた。
ポルナレフが、食べ方を見せてくれる。
錐でてっぺんに穴を開け、そこにストローをさす。ストローを吸うと、ゼリー状の果肉が口の中に入ってくる。
上品な甘さが、口の中に広がる。ほのかな酸味が、さわやかな後味となっている。
異世界における楽しみ方の一つが、このような美味にあるのは間違いないだろう。
「この『ライコン』の実は、大陸北部中央で獲れる代表的な果物なのですが、収穫時期が短く、旅行者はなかなか口にすることができません。
今回は、ラッキーでした」
この果物がよほど好きなのだろう。ポルナレフ少年は、ゆっくり味わいながら食べていた。
食事が終わると、彼に一つの提案をした。
「ポルナレフ、あとどのくらいで、ギルドに登録するお金が貯まるんだい?」
「はい。
登録料は銀貨三枚で、これはもう持っています。
けれど、武器や防具や魔道具など、冒険者として必要なものを買いそろえるためのお金が足りないんです」
「そうか。
なんなら、俺のガイドをやってもらえないか?
その間の食事代は、こちらが持つし、討伐などで手に入れた素材は自分のものにしていいよ」
「えっ!
そんな条件でいいんですか?」
「ああ、構わない。
実は、俺がここに来たのは、ある人族の少女を探すためなんだ。
土地勘のない俺が人探しするには、現地の誰かに案内してもらうのが一番いいのさ」
「ぜひ、ぜひやらせて下さい!」
ポルナレフは目を輝かせ、今にも飛びあがりそうだ。
「人探しの過程で危険な目に遭うかもしれないけど、それでもいいかい?」
「冒険者にとって、危険はスパイスのようなものですよ。
ガイド、やらせて下さい」
少年が立ちあがり、頭を下げる。
「そうとなったら、俺たちは相棒だ。
頭を下げるなんてなしにしよう」
「ありがとう、ありがとうございます」
ポルナレフの目には涙があった。
冒険者になるってことが、本当に大切な目標なんだね。
「ああ、これからよろしく頼むよ」
そこへ猫人の少女が現れた。
「ミミ、聞いて!
ボク、冒険者になれそうだよ!」
「ふ~ん」
「その反応はないだろ!
やっと夢が、かなうんだから」
少女は少年の方を黙って見ていたが、くるっと後ろを向き、にょろにょろ尻尾を左右に振ると奥に引っこんでしまった。
「もう!
せっかくなのに……」
ポルナレフは、しばらくぼやいていた。
お勘定は、猫人族のお母さんに払った。ミミが成長するとこうなるのか。美しくかわいい女性だった。
◇
店を出てギルドに向かう。
立ちさる前に店の名前を見ると、『ワンニャン亭』とあった。そのまんまだね。
ギルドの入り口をくぐると、冒険者が挨拶してくる。こちらも挨拶を返し、ポルナレフと二人で冒険者の列に並ぶ。
ポルナレフは、登録を前に目をキラキラ輝かせ、ワクワクが止まらないようだ。
あと一人で俺たちの番となったとき、入り口から昨日突っかかってきた、犬人の若者が入ってきた。
「お、お前は……」
ヤツの顔色が変わる。
「タヌキ野郎なんか連れやがってよ!」
それを聞いた俺は、珍しく低く強い声を出した。
「俺に対して、何かするのは構わない。
だが、俺の相棒を侮辱するのは許さん」
「なんだと!
ギルマスに目を掛けてもらってるからって、いい気になるなよ」
俺は点魔法を使い、ヤツの行動を制限する。
「な、なんだ?!
う、動けねえ!」
今回は、神経線維の切断はしていない。見えない板で、体の要所要所を押さえつけているだけだ。俺はヤツのところまで助走をつけると、思いっきり右手拳をヤツの顔に叩きこんだ。
拳は当然、点ちゃんシールドで覆ってある。だって、痛いの嫌だもん。
ゴンッ
鈍い音がすると、きりもみ状態になったヤツが、ギルド入り口から外へ吹っとんだ。
道で大の字に伸びている。いや、太の字か。いや~、まったく、太の字が似あう男だよ。
俺たちの番が来たから、カウンターの前に立つ。
「キャンピーのヤツが、ホントご迷惑かけます」
受付の垂れ耳お姉さんが、訳知り顔で話しかけてくる。
「あー、気にしてませんから」
「あなたが金ランクって知ってたら、突っかかったりしなかったでしょうに」
そういえば、俺が金ランクのギルド章もらった時、ヤツは外で伸びてたからね。
「えっ!?
金ランクって?」
ポルナレフが驚いている。
「ああ、俺、昨日金ランクになったばかり」
「え?
え?
どういうこと?」
思考停止状態の少年は放っておき、手続きを進めていく。
「お二人は、パーティを組まれますか?」
「そうですね。
そうしましょうか」
「パーティ名は、もう決めていますか?」
「いいえ、まだです」
「では、決まったら、また手続きにおいでください」
「分かりました」
「こちらが鉄ランクのギルド章と、諸注意を書いた本になります」
「どうも。
いろいろ、ありがとうございました」
受付のお姉さんの笑顔を後に、自分の部屋まで戻る。ポルナレフも一緒だ。
部屋は、身分が高い来客のために用意されている部屋を、アンデが俺用の宿泊所にしてくれた。十五畳くらいありそうな部屋は、壁に上品なオフホワイトのクロスが貼られ、質実剛健のギルド内にある部屋とは思えない。
四つある椅子の一つに、少年を座らせる。
まだ、ぼーっとしている少年の目前で、手をパンと鳴らす。はっとした表情をした彼が、怒涛のごとく話しはじめる。
「き、金ランクって、シローさんが?」
「ああ」
「本当に?」
「そうだよ」
「でも、シローさん、まだ若いでしょ?」
「十七才。
もうすぐ十八だね」
「それで、どうやって金ランクに?」
「ゴブリンキング討伐、ドラゴン討伐に参加して銀ランクになった」
「ゴ、ゴブリンキング!
ド、ドラゴン!!」
「金ランクになったのって、何でだろ。
戦争を止めたからかな?」
「……」
「おいおい、そんな顔をするなよ」
少年が、お化けでも見たかのような顔で俺を見ている。
「本当に、金ランクなんですね」
彼はしばらくうつむいていたが、突然パッと顔を上げた。
「ボク、金ランク冒険者のパーティに入れる……やったー!!」
急に、歓声を上げだした。
「おいおい、あまり騒ぐなよ。
この部屋は、ギルマスから借りてるんだから」
「ハア、ハア、ああ、わ、分かりました。
お水をもらえませんか?」
俺が金属製のカップに魔道具から水を注いでやると、彼は一気にそれを飲みほした。
「ぷはーっ!
なんか、いろいろありすぎて夢のようです」
「ああ、そうだ。
水の魔道具、持ってるか?」
「いいえ」
「じゃ、一つあげるから」
カバンの中から、魔道具を取りだし、渡してやる。
「えっ、いいんですか!
すごい!
水の魔道具だ!」
ポルナレフは、目をキラキラさせ、水の魔道具に見いってる。
コンコン
ノックか。 誰だろう、ギルマスかな?
俺がドアを開けると、そこには意外な人物が立っていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
誰が、何のためにやってきたのでしょう。
次回にご期待ください。
ー ポータルズ・トリビア - ケーナイ・ギルドの間取り
史郎は、二階の角部屋、来客用の部屋を使わせてもらっていますが、そのすぐ下が、ギルマスの部屋になります。
そのうち調査依頼に行くときに使う会議室も二階にあります。




