第55話 お好み焼きと陰謀(下)
さて、食前酒に続き、史郎が食事として出すものは?
貴族たちの不穏な動きも気になります。
ティーヤム王国の王都、その王城にある迎賓館で、俺は国王一家のために食事を提供している。
「次が楽しみだわ」
いや、そんなに期待されても、出すものは変わりませんから。
俺は腰のポーチに触れ、点収納からお好み焼きを出した。
さて、ここまで、こちらの世界群でみんなに受けてきたお好み焼きだが、国王陛下への受けはどうかな?
「史郎さん、次はオコ焼きですか?」
シュテイン皇太子が訊いてくる。
「はい、そのつもりですが」
「父上、オコ焼きは、熱くないと美味しくないと聞いております」
シュテインのその言葉で、陛下の後ろに立つお毒見役の男性が身じろぎする。
その男が、意を決した顔で陛下に話しかける。
「陛下、熱いものなどお召しあがりになってはいけません!」
陛下は俺の方を向き、こう言った。
「シロー、オコ焼きは、熱くないと美味しくないというのはまことか?」
「はっ!
間違いなく、冷めると美味しさは大きく損なわれます」
陛下の後ろに立つお毒見役が、それだけで殺せるような視線を俺に送ってくる。
陛下は侍従の一人を呼ぶと、彼に何か耳打ちしている。
侍従は、慌てて部屋を飛びだしていった。
「シロー、少し待ってくれ。
その間、この酒をもう少し味あわせてもらうぞ」
◇
しばらくすると、右手の扉が開き、五人の男たちが入ってきた。
沢山飾りが付いた立派な服装と、それぞれ年齢が高いところを見ると、かなり上級の貴族らしい。
彼らは国王の側に行くと、何か話しった後、その一人が懐から羊皮紙を取りだした。
国王が、羽根ペンでそれにサインする。
「シロー、喜べ!
たった今、大臣たちと話しあい、『オコ焼き令』を出したぞ。
いかなる者も、オコ焼きは熱いうちに食べよという法令じゃ。
これで気兼ねなく熱いオコ焼きが食べられるぞ、あはははは!」
あはははは、じゃないよ、全く!
こんなことなら、きちんと『お好み焼き』だって訂正しておけばよかったよ。
『(; ・`д・´)つ 突っこむとこ、そこ!?』
絶望した顔のお毒見役が、俺が点収納から出したばかりのお好み焼きを口にする。
「熱っ!
旨っ!」
口にしてしまったお毒見役が、しまったという顔をした後、絶望の表情で天井を仰ぐと、その顔を両手で覆い膝を着いた。
おい、いくらなんでも、それは大げさだろう!
それを見た陛下が、お好み焼きを一口食べる。
「熱っ!
旨っ!」
それ、お毒見役と同じ反応……。
「お父様、これ、おひひいです、むきゅむきゅ」
ルナーリア姫の無邪気な反応には、心が洗われるよ。
「これ、旨っ!
あっ、美味しゅうございます」
シュテインの婚約者、セリカ嬢が慌てて言いなおす。
「まあ、セリカさん、遠慮はいらないですのよ」
王妃が、鷹揚に話しかける。
しかし、彼女もお好み焼きを口にしたとたん……
「熱っ!
旨っ!」
さすが夫婦、陛下と同じ反応でしたね。
◇
「なにっ!
陛下の一家がお城から迎賓館に出向いてるだと?」
反乱を企てる貴族たちの盟主ナゼリア侯爵は、思わぬ知らせに自分の耳を疑った。
「それは間違いないな?」
「はい、たった今、使いの者が知らせて参りました。
いかがしましょう?」
警備の厳重な王城内ならともかく、迎賓館なら少数で襲ってもなんとかなる。
「すぐに貴族たちに知らせよ!
兵を出せるだけ出せとな!
遅れたら、ワシが作る新王国では平貴族に降格だと告げよ!
急げっ!」
「はっ!」
いつもお読みいただきありがとうございます。
史郎は王族にお好み焼きを出したようです。
いいのかなあ。
毒見させてから食べるため、冷えたものしか食べられない王族にとって、焼きたてのお好み焼きは忘れがたい印象を残したようです。
次話、貴族たちのたくらみが動きだします。
明日へつづく。




