第33話 ちぐはぐな世界(下)
男だけの国がどうやって成りたっているのか?
秘密の一端が明かされます。
近代的な巨大都市上空から『・』をばら撒いた後、俺は瞬間移動でイスタニアにある軍事施設の一室に戻っていた。
質素なベッドに横たわり、ここまで集めた情報について考えてみる。
この世界には、大きな海を挟んで二つの大陸がある。
大きな方の大陸には、科学が進んだ巨大都市がある。
かなり小さなもう一つの大陸には、都市国家が二つあり、お互いに争っている。
それにしても、このチグハグな感じはなんだろう。
二つの大陸間で、文明の差があり過ぎる。
そして、小さな方の大陸には、男だけしかいない国と女だけしかいない国がある。
どう考えても矛盾が多すぎる。
点ちゃんは、どう思う?
『(p ω・) 現在、情報を分析しています』
だよね。いくら点ちゃんでも、何でも分かるわけじゃないもんね。
『d(u ω u) 何パターンかの予想は、すでにできています』
えっ!? できてるの?
教えてください。
『(・×・) まだ情報が十分でないから、教えることはできません』
そ、そんな……ケチ。
『(; ・`д・´) ケチとは何ですか! 少しは自分で考えてください!』
ご、ごめんなさい。
とにかくヴァルムと話してみるか。
◇
ヴァルムは任務で防壁の外へ出たとかで、しょうがないから、俺の世話をしている少年兵に話しかけた。
俺のことを警戒しているのか、最初は口が重かった少年だが、蜂蜜クッキーをごちそうすると、なんとか会話できるようになった。
「俺、シローっていうんだ。
君の名前は?」
「はっ、ニコ二等兵です」
「いや、俺、君の上官じゃないから、畏まらないでくれる?」
「え、ええ」
「君は、いつ兵士になったの?」
「十二です」
「へえ、そんなに小さなときから。
お父さん、お母さんは心配しなかった?」
「ええと、お父さんというのは、分かりますが「オカアサン」とは何でしょうか?」
うーん、女性に偏見がある社会みたいだから、どうやって説明しようか。
そうだ!
「君はどこで生まれたの?」
「ええと、ウマレルとはどういうことでしょう?」
「……うーん、君は鳥が卵からかえるのは知ってる?」
「それは知っていますよ」
「君はどこで……生を受けたの?」
「ああ、ウマレルって『祝福』のことでしたか」
「その『祝福』ってなに?」
「神様から生を授かることです」
「生を授かる?」
「神殿で、ええと、姿を現すことです」
「ふうん。
神殿ってどこにあるの?」
「聖なる場所ですから、部外者には教えてもらえないと思います」
「君は知ってるんでしょ?」
「それは、もちろんですよ。
お祈りにも行きますし」
「お祈りって、何をするの?」
「お祈りはお祈りですよ」
うーん、とりあえず、この辺でいいかな。
「ありがとう。
君と話せて楽しかったよ」
「えっ!?
そ、そうですか」
なぜか、赤くなったニコ少年は、部屋から出ていった。
俺はブランの透明化を解いた。
彼女は、俺が何をしたいか分かっているようで、ぴょんと肩の上に乗ってくると、肉球を俺の額に押しつけた。
ニコの記憶、その一部が俺の頭に流れこんでくる。
◇
「お父さん、どんな子だろうね!」
殺風景な街並みを背景に、大きな男性の手を握った「自分」が、スキップしながら歩いている。
ニコが幼い頃の記憶らしい。
「きっと、いい子にちがいないよ、ニコ。
俺の息子で、お前の弟だからね。
『祝福』が楽しみだ」
口髭を生やした大柄な男はそう言うと、朗らかに笑った。
「うわー!
早く会いたいなあ!」
やがて、目の前に白い円柱型の建物が見えてきた。
建物は二階建てで、その周囲を幅広の道が囲んでいる。
建物の中は、やはり白一色で統一されており、広いロビーの奥には、大きな金属製の扉があった。
扉が開き、中へ入る。
そこは大きな空間になっており、その中央に、天井へと続く白い円柱があった。
自分が手を繋いでいる男が円柱に銀色のカードで触れると、その部分が丸く開き、白いカプセルが押し出されてきた。
そのカプセルの蓋がゆっくり開く。
横から覗きこむと、そこには白い布に巻かれた三才くらいの幼子が眠っていた。
「ほら、ニコ、お前が抱いてやりなさい」
「はい!」
男が幼子を抱えあげ、そっとこちらに渡す。
幼子を包んだ布は温かく、ふわふわと柔らかかった。
消毒液のような匂いが漂う。
「うわーっ!
凄く軽いね!
柔らかい!」
「ははは、ええとね、この子の名前は、ボリスだよ」
男はカプセルの中から銀色のカードを取りだし、それを読んだ。
カードには、幼子の名前が書いてあるらしい。
「ボリス、これからよろしくね!」
ニコの声で、幼子が目を覚まし泣きだす。
男が小型のシリンダーをカプセルから取りだし、その端を幼子の口へもっていく。
コクコクと液体を飲む音がする。
「うわーっ!
美味しそうに飲んでるね!」
「そうだな。
早く大きくなって、イスタニアのために戦う立派な兵士になってもらわないとな」
男が大きな手でニコの頭を撫でたので、視界がぐらぐら揺れた。
◇
記憶を読みとり、それを受けわたすことができるブランの能力で、俺はニコの幼少期を体験した。
そして、男だけの社会で、どうやって子供を授かるか、その秘密を目にすることができた。
「点ちゃん、どう思う?」
『(pω・) カードに書いてある文字は、明らかに『学園都市世界』の文字と似ていました』
「俺たちが昨日までいた『田園都市世界』と同じように、ここもあそこの影響を受けてるってことだね?」
『(・ω・) ニコの記憶にあった円柱形の白い建物は、『田園都市世界』の『旅立ちの森』と呼ばれていた建物と、構造が酷似しています』
「なるほど」
『(・ω・)ノ もう一つの大陸にあった都市からの映像も見てみますか?』
「うん、見てみよう」
いつもお読みいただきありがとうございます。
イスタニアでは「生まれる」という言葉が無いんですね。
ここでも学園都市世界の影響がみられました。
次話、点ちゃんの活躍で、この世界についてさらに驚くべき事実が分かります。
明日へつづく。




