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ポータルズ ー 最弱魔法を育てよう -  作者: 空知音(旧 孤雲)
第1シーズン 冒険者世界アリスト編
52/927

第51話 聖女の行方

 聖女舞子はどんな世界に行ったのでしょう。

また、新しい国王には、いったい誰が就任するのか。

そして、雷神リーヴァスが、なぜ執事をしていたか。

 多くの謎が解けるお話となっています。


 ここのところ、俺は、アリスト城の書庫にこもっている。


 マスケドニアの至宝である多言語理解の指輪は、なんと文字の読解までも可能だった。俺は、古い書籍を中心に、あの消えたポータルについて調べていた。


 あの教会は、かつてこの国で栄えた宗教団体が管理していたこと。アリスト国が建国される際の騒乱で焼けおちたこと。

 教会には、上位聖職者が脱出するための、ポータルが設置されていたこと。いや、おそらくは、そのポータルがあったところに、教会が建てられたらしい。

 ポータルは、その性質上一方通行のものが選ばれたこと。

 行く先は、獣人が住む世界であること。

 俺がこのようなことを調べあげた時には、舞子が消えてから、すでに一か月が経っていた。


 壁のように積みかさねられた古書の間から、畑山さんの顔がのぞいた。


「これはこれは、女王陛下。

 本日は、また何の御用で?」


「もう!

 私たちだけの時は、よしなさいって言ってるでしょ!」


 畑山さんは、三週間前、国王に就任した。彼女のことだから、きちんと考えた上での結論だろう。

 俺は、彼女が国王になった理由の一つが、舞子捜索の力になるためだと知っていた。

 現に、この書庫は、王族以外は立ちいりが禁じられている。俺がこうしてあのポータルについて調べられるのも、畑山さんのお陰だ。


「大体、調べはついたようね」


「どうして、そんなことが分かるの?」


「あんたねえ、たまには鏡を見なさいよ。 

 普段のぼーっとした顔が、ここのところ鬼のようになってたわよ」


「え?

 そうだったの?」


 顔を手でつるりと撫でた俺は、そのまま立ちあがった。


「で、何が分かったの?」


「加藤にも、話しておいた方がいいだろう」


「そうね。

 では久しぶりに、一緒にランチでもするか」


 ランチといっても、王族用の豪華なものだ。


「頼むよ。

 加藤には、俺から念話しとくから」


 自分にも協力できることがあるかもしれない。加藤はそう言うと、旅に出るのを引きのばしていた。本当は、俺と畑山さんのことが、心配だったからみたいだけどね。


「じゃ、後で会おう」


 俺は立ちあがると、書庫を後にした。

 ここのところ、ほとんど家に帰っていない。


 今日は、午後からナルとメルの相手をしよう。


 ◇


 家に帰るとルルと子供たち、それからリーヴァスさんが待っていた。


 今日は、家族水入らずということで、キツネたちは来ていない。


「リーヴァスさん、お久しぶりです」


「おお、お帰りなさったか」


 舞子の事件後、リーヴァスさんは城の執事を辞め、冒険者に戻っていた。ギルドからの依頼で、新人冒険者の指導にあたっているようだ。


「今日は、ちょっとお話ししたいことがありましてな」


「夕方でも構いませんか。

 ナルとメルを、外に連れていってやりたいんです」


「一緒に行ってもいいですかな」


「もちろんです。

 ぜひ、来てください」


 この日は、例の河原で、日暮れまで遊んだ。

 リーヴァスさんは、意外にも子供の相手が上手かった。笹船造りや、手で魚を捕まえる方法を、優しくナルとメルに教えていた。

 ナルとメルは、リーヴァスさんが大好きになったようで、ずっとまとわりついている。あまりに仲がいいので、俺が少しねたましく思ったほどだ。

 まあね。パーパは、最近あまり家にいないもんなあ。


 俺はひたすら反省した。


 ◇


 家に帰り、子供たちがいつもより早く寝てしまうと、リーヴァスさん、ルル、俺の三人がリビングに集まった。


 ルルが香草茶に興味があると知り、俺はお茶を点てる練習をしている。やっぱり、ルルが喜ぶ顔、見たいじゃない。

 今、三人の前にあるお茶も、俺が点てたものだ。


「ふむ、なかなかよくれられておる。

 ルルや、よくがんばったな」


「あ、それは、旦那様が点てたお茶です、おじい様」


「なんと!

 多才な方ですな、あなたは」


「いえ、そんなことは……それより、お話というのは?」


「まずは、この美味しいお茶をいただこうではありませんか」


 リーヴァスさんはそう言うと、大切そうに少しずつお茶を飲んだ。

 三人のカップが空になり、二杯目を注いだところで、リーヴァスさんが話しはじめた。


「今回の話は、おおやけにはできぬゆえ、どうかそのお覚悟で聞いてくだされ」


「はい」


「聖女様を、さらった男の事です」


「リーヴァスさんは、奴をご存じで?」


「話せば長くなります。

 初代国王と同じパーティにいた縁で、私は彼の息子、つまり、皇太子のお世話をしていたことがありましてな……」


 皇太子は、彼にとても懐いており、彼も自分の子供のように接していた。皇太子が毒殺されたとき、彼は非常に心を痛めた。

 その犯人を捜すため、執事として城で働いていた。


「聖女様をさらった男が、まさに私が調べていた者です」


 コウモリ男め。悪事には、ことごとく絡んでくるな。しかし、建国の英雄であるリーヴァスさんが、執事に身をやつしていたのは、そういう理由だったのか。


「彼を逃してしまい、申しわけないです」


「いいえ、お気にせず。

 こちらは、どうしても証拠がつかめずにおりました。

 あのままでは、手をこまねいて見ているだけでしたろう」


「そうでしょうか」


 リーヴァスさんは、静かに目を閉じた。少しして目を開くと、俺に問いかけた。


「あなたは、彼を追いかけて、ポータルを渡るおつもりですかな?」


 良い機会だから、ルルにも話を聞いてもらおう。


「ルル、君も聞いてほしい。

 俺は、聖女にとても大切な仕事を頼まなければならない」


 ルルが、俺の目をまっ直ぐに見て頷く。


「聖女とその男を追いかけて、獣人世界へ行くことを許してほしい」


 ルルは、ふうーっと息をついた。

 そして、俺の目を見ながら話しはじめた。


「ナルとメルのことは、私に任せてください。

 ここで聖女様を追わなければ、旦那様が旦那様でいられなくなります。

 どうか、ご自身が信じることをなさってください」


 感極まって、俺は涙を流していた。そんなところを、リーヴァスさんに見せたくなかったが、止められないものは止められない。

 そんな俺たちを見て、リーヴァスさんは、深く頷くとこう言った。


「あなた方二人なら、何があっても安心ですな」


 ルルが、顔を赤らめ、微笑む。


「私から提案があるのだが……あなたが獣人国に行っている間、私がこの家に住まうのはいかがかな?」


 リーヴァスさんから思わぬ言葉が出た。


「えっ!? 

 そのようなことを、お願いしてもよいのですか」


「私自身が、ぜひそうしたいのですよ」


 彼は、そう言うと、にっこり笑った。


 それは、俺が初めて見る、リーヴァスさんの素晴らしい笑顔だった。


 ◇


 次の日、ナルとメルが朝起きると、リーヴァスが一緒に住むことになったと告げた。


 二人とも、本当に飛びあがって喜んだ。


「じーじと、お風呂に入るの!」

「じーじに、お馬さんしてもらうの!」


 いや、雷神のお馬さんは、さすがにないだろう。


 昼前に簡単な荷物を持ち、リーヴァスさんが現れた。さすが冒険者、身軽だ。子供たちは、さっそく彼に飛びつき、遊んでもらっている。

 昼には、得意料理を振まってくれるとのこと。


 俺とルルは、エプロン姿が妙に似合う、リーヴァスさんの後姿を見て微笑んでいた。


「アニキー、こんちはー」


 そこへ、ボス、ゴリさん、キツネ、モヤシ、タルの五人が現れた。ウチにこの五人が揃うのも、久しぶりだ。

 彼らは、キッチンで、エプロン姿の老人が働いているのに気づいた。


「あー、爺さん。

 それは俺らがやるから、休んでていいよ」


「そうそう、老人は、いたわらないとな」


 好き勝手なことを言ってる。


「ルルや。

 この方々は、どなたかな?」


「はい、旦那様のお友達です。

 おじい様」


 その瞬間、キツネたちが、ぴきーんと固まった。


あねさんのお、おじい様とおっしゃると……」


「ああ、雷神リーヴァスだね」


 俺が、答えてやる。


「……。。。」


 あー、また、気絶しちゃったよ。

 ほんと、どうしたもんかねえ。


 こらこら、子供たち。気絶したおじちゃんの股をくぐって遊ぶのやめなさい。

 いつもお読みいただきありがとうございます。

史郎が聖女舞子を追いかけて行くべき場所が分かりました。

それは獣人の世界でした。

これから、どうなるのか。

 次回に、ご期待ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 中から引っ掻き回せる囮として行動できるもしくは緊急時にも対処できるものでなければバカ。安全に出来ないのなら無能
2021/04/29 11:28 退会済み
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