第505話 ポータルズ列伝 プリンスの騎士編 第10話 ダンジョンと冒険者(5)
洞窟を出たマックは意外な行動に出ます。
冒険者たち全員が、ダンジョンの入り口である塚の外へ避難した。
「あ、兄貴、どうして逃げないんです?」
白騎士が尋ねるのも無理はない。マックは冒険者たちを指揮し、ダンジョン入り口から少し離れた辺りに、土を盛ったり、丸太を並べたりしている。
「説明は後だ!
それより、お前も手伝え!」
結局、白騎士も丸太を担いで「土木工事」を手伝うことになった。
「マックさん、そろそろ来やすぜ!」
あごヒゲを生やした、がっしりしたベテラン冒険者が報告する。
「よっしゃ、いいか者ども!
一匹たりとも逃がさねえつもりでやれ!
ここで食いとめねえとどうなるか、分かってるな!」
マックは大声で冒険者に呼びかけた。
「「「「「おーっ!」」」」」
「幸い、今回はベテランが多い。
もしかすると、生きて帰れるかもしれねえ。
気合い入れろ!
ゴブリンどもに冒険者魂、見せつけてやれっ!」
「「「「「おおーっ!」」」」」
『星の卵』『プリンスの騎士』が集まった所にマックがやってくる。
「おい、スタン。
お前は、帰り路が分かるよな。
お前ら三人は、すぐ町に帰ってこのことをギルドに報告してくれ!」
「は、はい!」
「兄貴、私たちは帰らないわよ」
白騎士が静かな声で言うのを聞き、マックが赤鬼のような顔になる。
「馬鹿野郎!
駆けだしが、生意気言うんじゃねえっ!
とっとと帰らねえと、ぶっ飛ばすぞっ!」
さすが長年ギルマスをやっていただけあり、こんな時のマックは凄い迫力だ。
しかし、白騎士は顔色一つ変えず、こう言った。
「ここでゴブリンってのを食いとめなきゃいけないのは、ヤツらが町を襲うからでしょ?」
「……」
マックの沈黙が、白騎士の言葉通りだと認めていた。
「あたしは『プリンスの騎士』なの。
プリンスを守るためには、この命、いつでも差しだすわ」
「……しょうがねえな。
多分、命はねえぞ」
白騎士の目を覗きこんでいたマックが、首を左右に振る。
「あんたたちは、街に帰んなさい」
他の騎士に対し、白騎士が珍しくリーダーの威厳を見せる。
「「いーっだっ!」」
「戦闘上等!」
「ま、魔法……愛の魔法で奇跡を起こす!」
「な、なんでよっ!?」
自分はマックの忠告を聞かなかったくせに、白騎士は仲間の言葉に怒っているようだ。
「ちょっとね、思いついたことがあるのよ。
さっき洞窟ではパニクってて使えなかったけど」
いつになく真剣な表情で、桃騎士がそう言った。
「「みんなでがんばろう!」」
黄騎士と緑騎士が、声を合わせる。
「パーティは一つ!」
黒騎士が、彼女にしては長めのセリフを吐く。
「仕方ないわねえ。
命懸けだってのに。
じゃ、『プリンスの騎士』で頑張るわよ!」
「「「「「おー!」」」」」
こうして地球からやって来た騎士たちは、ゴブリンから街を守るため、ダンジョン前の陣地に留まることになった。
◇
アリストギルドでは、昼食を終えたキャロが、待合室の掃除に取りかかっていた。
彼女はギルマスになった今も、このギルドに来た当初からの日課である掃除を、自らの手でおこなっている。
ギルド職員からは止められているのだが、自分でやらないと気持ちが落ちつかないのだ。特に今日は何だか胸騒ぎがして、じっとしていられなかった。
彼女がホウキで床を掃こうとしたタイミングで、開けはなたれた入り口から、若い冒険者が飛びこんできた。
「スタン君、スノーちゃん、リンド君!」
それはマックに連れられ、ダンジョン体験に向かったはずのパーティ『星の卵』の三人だった。
「そんなに息を切らせて、みんな、どうしたの?」
息も絶え絶えの三人を見て、キャロはすぐ食事用のカウンターへ声を掛け、お盆にコップを三つ乗せ戻ってきた。
床に腰を落とした少年少女にコップを渡す。
震える手でコップを受けとったスタンは、半分ほどもこぼしながら、一気に水を飲みほした。
「ゼエゼエ、た、大変です!」
「見れば分かるわ。
ダンジョンで何かあったのね?」
キャロが励ますようにスタンの背中を撫でた。
「か、隠し通路から、ゴブリンがいっぱい出てきて!
マックさんが、スタンピードを防ぐため、ダンジョン前に残っています!」
緊急時にこれだけのことを伝えられれば十分だ。
冒険者としてのスタンの能力が予想以上だったので、キャロは嬉しかったが、今はそれどころではない。
一方、新米冒険者三人は、キャロがこの緊急時に黙って目を閉じ、じっとしていることに戸惑っていた。
彼らは、キャロが念話でシローと連絡できるのを知らない。
しばらくそうしていた彼女は、身体の力を抜き長く息を吐くと、落ちついた声でこう言った。
「マックさんたちは大丈夫です。
安心していいですよ」
「い、一体、どうして?」
「あなたたちも、後片づけにかりだされるでしょうから、今から体を休めておきなさい。
いいわね、きちんと食事もとるのよ。
活躍のご褒美に、食事代は要らないから、ここで好きなものを思いっきり食べなさい」
まだ、納得がいかない三人が、ぼんやりした顔をしている。
「現地には、シローが助っ人に向かったの」
キャロが立ちさるときに囁いた言葉で、三人は顔を見あわせた。
「お兄ちゃん……」
「スノー……」
「スタン君……」
そう口々に言った後、彼らは声を合わせた。
「「「見たかったーっ!」」」
三人は、残念のあまり、床を拳で叩いていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
冒険者たちは、ゴブリンの大暴走を防ぐため、命懸けでダンジョン脇に陣取ったようです。
さて、いったいどうなるのか。
明日へつづく。




