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ポータルズ ー 最弱魔法を育てよう -  作者: 空知音(旧 孤雲)
第1シーズン 冒険者世界アリスト編
44/927

第43話 魔の手

 勇者の命を狙い始めたアリスト国王。

史郎と加藤は、それをはねのけることができるでしょうか。

 


 翌日、約束通り夕刻前に、俺が滞在している宿に王宮から迎えが来た。


 俺は、紋章が無い客車を引いた二頭立ての馬車に乗りこんだ。紋章が無いのは、今回の会合を内密に行いたいということだろう。


 マスケドニア王宮は、アリスト城のような威容は無かったが、落ちついた上品さがあった。広い敷地に、この国特有の建築様式である半球状の屋根がいくつも見られる。その金色の屋根が、夕日に輝いて美しかった。


 おそらく迎賓館として使われているであろう、石造りの二階建て前に、馬車が停まった。建物内の装飾は、金、銀より茶系統をうまくあしらってある。

 目的の部屋まで案内してくれた執事がノックする。


「どうぞ」


 軍師ショーカの声が答えた。

 部屋は、二十畳ほどの広さがあり、中央にテーブルが用意されていた。マスケドニア国王、ショーカ、加藤の三人が席に着いていた。

 給仕役が数人、壁際に控えている。


「久しぶりじゃな」


 国王が立ちあがり、歓迎を示す。


「今日は、お招きいただきありがとうございます」


「お、来たか」


 おい、加藤、いくら何でもそれは砕けすぎだろう。まあ、こいつはしょうがないか。


「まずは、この国の食事を楽しんでほしい」


 国王が手を鳴らすと、前菜と食前酒が運ばれてきた。


「では、目標の達成を願って!」


 軍師が、グラスを目の高さに上げる。加藤と俺もそれにならった。

 華美ではないが、食事は一つ一つの料理が吟味され、こちらの味覚を刺激してくる。この国における食文化の奥深さを知った思いだ。

 俺は、プチプチした食感の香ばしい脂が浮かんだスープが気にいった。ぜひ、ルルやナル、メルにも、食べさせてやりたい。

 四人とも、黙って食べている。本当に美味しいものを食べると、なぜか人は無口になるよね。

 デザートは、甘さを控えた冷菓だった。この世界でアイスクリームが初めてだったので驚くと、魔術師が水魔術で処理したとのこと。

 美味しさに手間を惜しまない。それが、さらなる美味しさに繋がるのだろう。


 食後、薬草茶を出すと、給仕は部屋を出ていった。

 四人だけになり、陛下が口を開く。


「さて、今後のことだが……」


 そのタイミングを見計らったように、加藤の指輪が鈍い光を放ちはじめた。


「伏せてっ!」


 とっさに陛下の前に飛びこみ、加藤との間にシールドを展開する。

 もちろん、点魔法だ。

 加藤の指輪が、点滅を始める。

 点滅が次第に早くなり、急に強い光を放った後、すっと暗くなった。


「な、何があった。」


 ショーカが、震える声で尋ねる。


「多言語理解の指輪に、細工がしてあったようです」


 俺が説明する。

 加藤の指からは、指輪が消えていた。


「念のため、指輪の周りを別の魔術で覆っておきました」


 センライでの第一回訓練討伐の時、加藤たち三人とその指輪に点魔法を施しておいた。


「指輪は、誰からもらったものだ?」


「アリスト国王です」


 陛下の質問に俺が答える。


「ふむ、あやつ、勇者殺害まで企ておったか!」


 青い顔の陛下が、うめくように言った。


「すぐに代わりの指輪を持ってこさせよ」


 ショーカがドアを開けて、出ていった。


「まさか、ここまでするとはの」


「恐らく、陛下と勇者を同時に狙ったのだと思います」


「すでに、なりふり構っておれんということか」


「勇者亡命がアリスト王国に与えた衝撃は、それほど大きかったようです」


「こちらに勇者がいることで派兵に踏みきれぬのであろう」


「それゆえの、この暴挙でしょう」


 加藤は、まだ呆然としている。


「おい、加藤。

 大丈夫か?」


「な、何だったんだ、今のは?」


「どうやらアリスト国王は、お前が生きてちゃ困るらしいな」


「……何から何まで、とんでもないやつだぜ!」


「まあ、ともかく、相手の意図はハッキリしたな」


「冗談じゃないぜ、全く!

 人の命を、何だと思ってやがる!」


 ケースを手に、軍師ショーカが戻ってきた。濃紺のビロードが張られた上蓋を開けると、細工を施した指輪が六つ並んでいる。


いにしえに、この国の天才錬金術師が作ったものです」


 四か所に穴があるのは、すでに使われたからだろう。


「シロー、お主は命の恩人だ。

 これを持っていけ」


 恐らくは、国宝だろう。


「では、四つだけ頂いてまいります」


「お主がつけておるそれも、勇者の指輪と同じ出所か?」


「はい、そうです」


「ならば、それは置いてゆけ」


「分かりました。

 では、後で覆っている魔術を解いておきます」


「そうせよ。

 では、ショーカよ、その指輪を調べてくれ」


「はっ」


 宮廷つきの錬金術師に調べさせるのだろう。あれほど危険な術が込められているなら、調べる方も命懸けだ。

 俺は、もらった指輪の一つを、さっそく加藤に渡しておいた。


「さて、相手の意図がはっきりしたところで、どう対処すべきか?」


「陛下、相手の計画が失敗したことを、それとなく知らせてはいかがでございましょう?」


 ショーカが、きらりと目を光らせる。


「それで、少し冷静になってくれればいいが……」


 アリスト国王の人となりを考えると、それはまず無理だろうと俺は考えていた。


「では、細かいところを打ちあわせておこうか」


 たった今、命を狙われたにもかかわらず、マスケドニア国王は、すでに平常心を取りもどしていた。


 この日、俺たち四人の話しあいは、夜遅くまで続いた。


 いつもお読みいただきありがとうございます。

ある意味、アリスト国王と蝙蝠男のコンビは凄いと思います。

さて、彼らからの最初の攻撃を防いだ史郎ですが、この後の展開は?

勇者加藤の運命は?

 次回にご期待下さい。

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