第400話 奴隷世界編 第14話 奴隷と闘士(5)
投降したはずが、なぜかできていませんでした。
ということで、二話分投稿です。
俺と加藤は、貴族から招かれ、石造りの大きな屋敷に来ていた。
玄関ホールのようなものはなく、いきなり十二畳ほどの部屋になっている。ソファーやテーブルがあり、どれも低く作られている。
俺たちを案内した初老のドワーフは、二人をソファーに座らせると、奥の扉から姿を消した。
低すぎるソファーは、座り心地が悪かったので、俺と加藤は立ちあがり、部屋の調度を見てまわる。
今まで見たことがない小物も多く、飽きがこない。
夢中で見ていると、肩を叩かれ振りむく。
茶色いワンピースを着た、小さなドワーフ女性が立っていた。
「ご案内します」
彼女はそれだけ言うと、それ以上話すものかという風に口を引きむすび、歩きだす。
天井が低い廊下を進むと、大きな木の扉があった。それが左右に開くと、明るい部屋が広がっていた。
広さが小さな体育館ほどあり、この部屋だけは、天井も三メートルくらいはありそうだった。
テーブルが十脚ほど置かれており、それぞれ四、五人ずつ着飾った人々が座っていた。
全員ドワーフだ。
俺と加藤は、部屋の中央に置かれた、一番大きなテーブルに案内される。
他の者は椅子に座っているが、俺たちは小さな箱のようなものに腰を降ろした。
ドワーフたちは俺と加藤を見て、口々に何か話している。テーブルが比較的離れているから、何を言っているかは聞こえなかった。
やがて、俺たちが入ってきたのとは別の扉から、金ぴかのボタンがたくさんついた、いかにも貴族ですという服を着たドワーフのおじさんが入ってきた。
彼は、ドワーフにしては大柄で、百五十センチくらい身長があった。
「みなの者、本日は、このグラゴーの屋敷へよう参られた。
今宵は、特別な料理も用意してあるから、楽しんでくれたまえ。
なお、本日のゲストは、武闘で華々しいデビューを飾った闘士二人だ」
グラゴーが俺と加藤の方へ手を広げると、広間は靴で床を踏みならす音で満たされた。これが、この世界の拍手にあたるのだろう。
彼が俺たちのテーブルに着き、手を鳴らすと、何人かの女性が料理を載せたワゴンを押しながら入ってきた。
おそらく、この世界のメイド服だろう、地球で幼稚園児が着ているものに似ている。そのくすんだ青い服を着た人々には首輪がついていた。
恐らく奴隷だろう。八人ほどいる奴隷は、人族が多いが中にはドワーフもいた。
そして、一人だけだが竜人の奴隷もいた。三十才くらいだろう赤竜族の女性だ。
俺はすかさず、彼女に点をつけておいた。
点ちゃん、あの首輪、調べてくれる?
『(^▽^)/ はいはーい』
調査結果はすぐに出た。
『(Pω・) ご主人様、あれは機能が劣るけど、学園都市で使ってたのと同じ首輪だよ。あと、小さな鉱物が一つ、はめこんであるよ』
なるほど、やはりそうか。
きっと竜人から力を奪うというドラゴナイトだな。
しかし、学園都市世界から首輪の供給は、すでに途絶えているはずなのだが、その辺はどうしているのだろう。
いつの間にか、部屋の一角に青いローブを来た数人のドワーフが座り、音楽を奏でていた。楽器は中国の胡琴に似た弦楽器だ。
名手ぞろいなのか、その音楽はなかなか心地よいものだった。
ただ、俺の隣に座る加藤は、苦虫を嚙みつぶしたような顔をしている。
いつもならこういう席で、がつがつ食事に手を伸ばす彼が、汚いものにでも触れるように皿を自分から遠ざけると、黙って奴隷たちの方を見ていた。
俺は多言語理解の指輪を外す。それを見た加藤も俺に倣った。
「加藤、あの首輪だが、点ちゃんによると、学園都市のものとほぼ同じらしいぞ」
「全く、胸糞が悪くなるぜ!
今すぐあれを全部ぶっ壊したいところだ」
「リニアとエンデにたどり着くまで、少し待てよ」
「ああ、分かってる」
内緒の話が終わると、俺たちは再び指輪をつけた。
音楽が陽気な軽い感じのものに変わると、ドワーフたちは席を立ち、他のテーブルの者と酒をかわしたり、立ち話をしたりしている。
俺たちのテーブルにも、何人かのドワーフがやってきた。
「ねえ、カトー、剣技はどこで習ったの?」
「明日は、私のお家へ来てくれないかしら?」
「ねえ、この衣装、どうかしら?」
加藤は、さっそくドワーフの女性に囲まれている。ドワーフにまでモテるとは、まったく勇者のリア充ぶりには呆れるほかない。
一方、俺の方はと言うと……。
「隣町で武闘に関わる仕事をしております。
いつか、ウチでも、あの『ドーン、バーン』というヤツをお願いできませんか?」
ヒゲもじゃのおじさんが、話かけてくる。『ドーン、バーン』というのは、俺の花火パフォーマンスの事だろう。
「ウチの孫が、もうすぐ誕生日での。
誕生会を開くのじゃが、その席であれを頼めぬか?」
これは、白い髭を伸ばした老ドワーフだ。
なぜか、俺の方には、おじさんとおじいさんが集まっている。
俺は、うんざりして適当に頷いておいた。
とどめを刺すようにグラゴー伯爵が俺の所に来る。彼の後ろには、例の竜人女性が控えている。
「五日後に、神託武闘がある。
この街の代表として二人にも出場してもらうぞ」
「神託武闘って何です?」
「ああ、お前たちは、『迷い人』だったな。
この世界で、どちらの言い分が正しいか、神にうかがいを立てる儀式だ」
「具体的には、どんなことをするんです?」
「同数の闘士を出しあい、戦わせる。
勝ち数が多い方が正しいことになる」
優秀な闘士を手に入れられるのは、より大きな権力を持つ者の方だから、神託武闘はこの世界の支配構造と深い関係がありそうだ。
「お前たちなら、必ず勝てるだろう」
伯爵は、こちらを見てニヤリと笑うと去っていった。
俺は、グラゴーの目に映っている自分が、人などではなくただの道具であると確信した。
◇
赤竜族の女性ゾーラは、奴隷部屋に戻ると寝床に横になり、さっき目にした少年の事を考えていた。
彼女の部屋は、他の奴隷とは別で、個室を与えられている。ただ、その部屋は殺風景で、なんの装飾もなかった。
伯爵は、彼のことを「迷い人」と呼んでいた。つまり、彼は異世界から来たのだろう。
ゾーラは、故郷ドラゴニアの空や森を思いだしていた。
帰りたい。
その渇望は、胸を焦がすほどだった。
十年前、追放処分を受け、獣人世界に追いやられるとすぐ、ドワーフにさらわれ、この世界につれてこられた。
王都で十年近くを過ごし、仕えていた貴族からグラゴーに売られ、ここに来た。
彼女は、いつも忍ばせているナイフで自分の首を突こうとした。しかし、途中で手が停まりそこから動かない。彼女の首輪には、自殺を禁ずる機能があった。
彼女は、どこからか声が聞こえてきた時、かつて王都で見た竜人たちの様に、自分も精神に異常をきたしたのだと確信した。
『こんにちは、俺、シローと言います』
彼女は、その念話の声をどこかで聞いたような気がしたが、それは狂気が生みだす妄想かもしれなかった。
『とうとう、私も狂ったわね』
『えっと、今、あなたにお話しをしているのは、俺の魔法なんです』
『頭の中で自分とおしゃべりする羽目になるとわね』
次の瞬間、ゾーラは落ちついた色調の部屋にいた。
ソファーに座っているのは、今日パーティの席で目にした人族の少年だった。頭に茶色の布を巻いているから見間違えるはずもない。隣には、やはり大広間で見た黒髪の少年もいた。
「とうとう、幻覚まではっきり見えるようになったわね」
「ははは、幻覚ではありませんよ」
少年の声は、やけにはっきり聞こえた。
「あの、あなたは?」
「俺は、シロー、こっちがカトーです。
先ほどグラゴー伯爵の所でお目にかかりました」
「こ、ここは?」
「俺が作った魔法の乗り物です」
どういうことだろう。あまりにリアル過ぎる。
私が狂っているんじゃないの?
「あなたは正気ですよ。
それより、どうして竜人のあなたがこんなところで奴隷をしているか、訳を話してください」
ゾーラは、まだ夢見心地のまま、自分の身に起こったことを話しはじめた。
自分の父が、四竜社の頭ビギの不正を告発しようとして追放処分を受けたこと。それに抗議した彼女も、飲み物に何かを混ぜられ、気がついたら知らない場所にいたこと。そこでドワーフに捕らえられ、この世界につれて来られたこと。
この世界で十年の月日が過ぎたこと。
彼女が話すのを黙って聞いていた少年は、どこからともなくお茶のセットを出すと、湯気が立つカップを彼女の前に置いた。
それに口をつけた彼女は、余りのおいしさに驚いた。
「美味しいわ」
ゾーラは、これが現実であると、やっと思えてきた。
「そのお茶は、エルファリアという世界のものです」
ぼーっとした少年の表情が、嬉しそうなものに変わる。
「他の竜人がどこにいるか、分かりますか?」
「そうですね。
ほとんどが王都で奴隷となるか、闘士になっているようです」
「やっぱり、そうですか」
少年は真剣な表情に変わり、頷いた。
「ゾーラさん、今しばらくの間、奴隷のふりをしてもらえますか?」
「ふりをする?」
「ええ、あなたの首輪は、偽のものをつけておきます。
今まで通り、行動してください」
「その後は?」
「俺は、全ての竜人を解放するつもりです」
「ええっ!?」
余りに非現実的な意見に、今度は少年の精神を疑う。
しかし、落ちついた表情は、狂気から最も遠いものだった。
「ほ、本当にそんなことが……」
「ええ、可能です。
そのためにも、まずは不自然ではない形で俺たちが王都に行く必要があります」
そういえば、『迷い人』の人族がもう一人いたわね。
「何かお手伝いできることがありますか?」
「そうですね。
貴方が最初に救出される竜人となりますから、後から救出された仲間の面倒を見てやってください」
「……分かりました」
「よく十年も頑張りましたね」
少年のその言葉で、ゾーラは前が見えなくなる。
意識しないうちに、涙があふれていたのだ。
「もし、俺たちが王都へ行くまでに、どうしても我慢できないことがあれば、その時点で解放しますから、遠慮なく言ってください」
「ありがとう。
何と言えばいいのです?」
「言葉に出して、『シロー、助けて』と言ってください」
「分かりました」
「では、元の部屋に戻しますよ」
次の瞬間、ゾーラはいつも見慣れた殺風景な奴隷部屋にいた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
今回は、地味だけど物語に必要な話でした。
ピンクのカバも出てきましたし(笑)
では、もう一話、投稿です。




