第384話 異世界訪問編 第48話 『ヴィラ・マリーン』と『初心の家』
今回は、特に思い入れの深いエピソードになっています。
ここまでポータルズを読んで下さっているみなさんにも、そう思っていただけると嬉しいです。
異世界に帰る三日前、この日の午後三時には家にいるように、家族と仲間にあらかじめ連絡しておいた。
皆が広い居間に集まった。
イリーナはもちろん、帰ってきたターニャさんもいる。
ただ、翔太とエミリーは、二人でニューヨークのハーディ邸に行っている。
「シロー、今日は何を?」
「ああ、ルル。
みんなにいろいろ助けてもらったから、今日は俺からプレゼントを渡そうと思ってね」
「何だろう。
お兄ちゃんの事だから、きっとすごいものよ」
おいおい、コルナ、あまりハードルを上げないでくれよ。
「パーパのプレゼント?」
「お好み焼き?」
ナルとメルは、プレゼントが食べ物だと思ってるのかな。
「じゃ、みんな手を繋いで輪になって」
人数が多いから大きな輪ができた。
「じゃ、行くよ」
瞬間移動した俺たちは、とある場所に現れた。
◇
「なにこれ!
信じられない!」
「綺麗すぎる!」
「ほう、絶景ですな!」
みんなの声が重なる。
目の前には、コバルトブルーの海と白い砂浜があった。
「シロー、ここは?」
「ここは、みんなが楽しんだ沖縄の近くにある島だよ、ルル」
「地球ってすごく綺麗な場所があるんですねえ」
ルルが、うっとりした顔で海を見ている。
それだけで、このプレゼントにして良かったと思う。
「シロー、プレゼントとは、私たちをここに連れてくることなの?」
「コリーダ、よく聞いてくれたね。
あれを見てごらん」
背後の木立の中に、石垣に囲まれたコテージが建っている。
「も、もしかして……」
ミミが興奮している。
「そう、あれ、俺たちの家『ヴィラ・マリーン』だよ」
「わーい!」
「やったー!」
ミミとポルが裸足になり、駆けていく。
砂浜についた彼らの足跡を追うように、俺たちもコテージに向かった。
コテージの前にある石垣の所で、ミミとポルが地団太を踏んでいる。
「リーダー、早く開けて!」
「シローさん、早く!」
俺は点魔法で門のカギを開けた。
二人が中になだれ込む。
「な、なんじゃこりゃー!」
「うへえっ!」
久々に出たね、「なんじゃこりゃー」が。
二人が立ちつくす先には、ヴィラを取りかこむように造られた大きなプールがあった。
プールは、一部幅が狭くなっており、その部分が一番深い。
そして、そこには橋が掛かっていた。
「「わーい!」」
ナルとメルが橋の所まで走っていくと、服のままプールに飛びこむ。
まあ、そうしたい気持ちは分かる。
二人の後を追い、リーヴァスさんまで服のまま飛びこんだ。
さすがに、ルル、コルナ、コリーダは飛びこまなかったが、うらやましそうに三人を見ている。
俺は点収納から、さっと三人の水着を出してやる。
「あっ、水着!
シロー、ありがとう!」
ルルたちは俺から水着を受けとると、ヴィラの中に入っていった。
「リーダー、私たちのは?」
ミミが近よってきたので、彼女とポルの水着も出してやる。
「やったーっ!
これで泳げるぞ」
ポルが叫んで、ヴィラに入っていく。
中から悲鳴がして、ポルがすごすご出てきた。
ルルたちが着替え中だからね。
ミミがポルの頭をぽかりと殴っている。
体調のことを考え、イリーナは泳がせない。
しかし、彼女はターニャと並んでプール際に座り、楽しそうに水をぱちゃぱちゃ蹴っている。
元気になったら、思いっきり泳いでもらおう。
瓜坊コリンは水に入り、コリーダの周りをぐるぐる泳いでいる。
水が苦手なはずの猫であるブラン、ノワールも、水にぷかぷか浮いていた。
一時間ほどしたところで、みんなに声を掛ける。
「ええと、そろそろ水から上がってね」
「えーっ!
もう?」
「シローさん、もう少し泳ぎたいです」
ミミとポルの気持ちは分かるが、この後の予定が詰まっている。
「本当はここから見える夕日がすっごく綺麗なんだけど、今日はこれから行くところがあるから」
服のまま泳いだ、ナル、メル、リーヴァスさんは、火魔術と風魔術の合わせ技で全身を乾かしておく。
「みんな着替えたかな?
手を繋いで……。
じゃ、行くよ」
瞬間移動の直前に見た、みんなの残念そうな顔が印象的だった。
◇
俺たちは、瞬間移動で沖縄からある場所に来ている。
「あれ?
『地球の家』じゃないの?」
ポルの暢気な声がする。
「あっ!
ここって……」
「そうだよ、コリーダ。
君が住んでみたいって言ってた場所の近くだよ」
ここは、北海道のある場所だ。
俺たちのすぐ後ろには小高い丘があり、周囲は見渡すかぎりの原野だった。
「「わーい!」」
ナルとメルが飛びだしていき、野原を駆けまわっている。
コリンがその後を追いかける。
コルナが何か言いたそうな顔をしている。
彼女の前に、さっとボードを出してやった。
とてもいい顔で、コルナがそれに乗る。
彼女は、草の海原を自由自在に滑っている。
素人目にもカッコいい。
イリーナが、両手を胸の前で握りしめている。
「コルナさん、すごい!
私もいつかやってみたい」
「イリーナ、必ずできるようにしてみせるから」
俺は彼女の頭を撫でてやった。
遠くまで出ている面々に念話を送る。
皆が集まってきた。
「もう少し滑りたいけど……」
「すまないな、コルナ」
俺は黙って後ろの丘を指さした。
丘の中腹には、それほど大きくない木造の家が建っている。
「シロー、あ、あれは……」
ルルが呆然とそれを見ている。
俺は頷くと、ルルの手を取り、そちらに歩きはじめた。
全員が家の中に入る。
「うわー、懐かしー!」
あまりここを訪れたことがないミミでもそれなのだから、俺やルル、リーヴァスさん、そして子供たちの感慨は言葉では尽くせない。
ここは、俺とルルが最初に購入した懐かしの我が家だ。
地球に建てなおしたこの家には、『初心の家』という名をつけた。
リーヴァスさんが見覚えのある壁やテーブルに触っている。
ナルとメルが凄くいい顔をしている。
「お庭が広くなったー」
「なったー」
まあ、そういう見方もできるな。子供は侮れない。
「これは、俺とルルが最初に住んでた家なんだ。
取りこわすのが忍びなくて、点収納に入れておいたんだよ」
「素敵な家ねえ」
ターニャさんが、感心したように言う。
俺は布で隠しておいた施設を披露した。
家の中で、これだけは新しくつけ加えたものだ。
「ジャーン、暖炉だよ」
「うわー、これなにー?」
「箱?」
薪を暖炉の中に入れ、火魔術で火をおこす。
部屋の中には、パチパチという温かい音がした。
五月とはいえ、北海道の夕方はまだ冷える。
さっきまで沖縄にいた皆は、暖炉の周りで幸せそうな顔をしている。
皆の手に、エルファリア産のお茶を持たせた。
ナル、メルはミルク、リーヴァスさんは、とっておき『フェアリスの星』だ。
「今回の旅行が無事に終わって嬉しいよ。
主役のエミリーはいないけど、乾杯しておこう」
俺がリーヴァスさんに目で合図すると、彼が音頭をとった。
「乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
皆が地球式にコップやグラスを合わせる。
「おう!
こりゃ、凄い酒ですな。
こんな美味い酒は、飲んだことがありませんよ」
「リーヴァスさん、それはフェアリスが祭礼用に少量だけ作る酒なんです」
「なるほど、それなら頷けますな。
いや、旨い!」
ミルクを飲んだナルとメルが、白い輪っかをつけた口を突きだしたので拭いてやる。
「お部屋に行ってもいい?」
二人が使っていた部屋は、二階にあるからね。
「行ってごらん」
ナルとメルが二階に上がると、歓声が聞こえてきた。
彼女たちの部屋には、地球製のぬいぐるみをいっぱい飾ってある。
一人一人が地球で気に入った食べ物を、点収納からテーブルの上に出す。
もちろん、熱いものは熱々の状態でだ。
好物の匂いに反応したナルとメルが、二階から駆けおりてくる。
「お好み焼きー!」
「おこー!」
さっそくお好み焼きに夢中の二人を、リーヴァスさんが目を細めて眺めている。
その彼の前には、山盛りにされたコハダの握りずしがあった。
さすがに渋いチョイスだ。
ミミはフルーツジャンボパフェ。
ポルは和牛のステーキ。
ルル、コルナ、コリーダは、なべ料理を三人で。
イリーナとターニャには、現地の名店から取りよせた、ボルシチ。
自分には、四国まで行ってわざわざ買ってきた、釜揚げうどんだ。
「お兄ちゃんは、そんな白くてのぺっとした食べ物だけでいいの?」
コルナはそう言うけど、むちゃくちゃ旨いんだよ、これ。
暖炉の中で薪がはぜる音を聞きながら、俺たちの温かい食事は続いた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
いやー、いいですねえ、『ヴィラ・マリーン』と『初心の家』
私にも使わせて欲しいなあ。
『<(`^´)> まあ、少しくらいならよいぞ』
あっ、先生モードの点ちゃんだ。
では、いつかよろしくお願いします。
明日へつづく。




