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ポータルズ ー 最弱魔法を育てよう -  作者: 空知音(旧 孤雲)
第9シーズン 異世界訪問編
384/927

第382話 異世界訪問編 第46話 フェアリスの星

 史郎が、またまた稼ごうとしています。

 エルファリアで手に入れた『フェアリスの星』、どんなお酒でしょう。



 神樹様の調査を残していたユーラシア大陸東部、中央部、南部、そして、オセアニアを、仲間と一緒に巡った。


 神樹様は、ツンドラ地帯、チベット高原、スリランカ、ニュージーランドにそれぞれ一柱ずつあった。

 俺たちが出会っただけで、十柱以上の神樹様がこの世界にいらっしゃったことになる。

 地球の凄さを感じる旅だった。


 この世界に神樹様が多く存在するのは、ポータルが滅多に開かないことと関係があるのかもしれない。

 まあ、とりあえず、これだけ多くの神樹様、それもバラエティに富んだ能力の神樹様が加わった訳だから、神樹様、聖樹様のお力が増したことだけは間違ないだろう。


 幾つか回っていない地域もあるが、それは次回の楽しみにとっておこう。


 俺は異世界に帰る準備に取りかかるのだった。


 ◇


 今日は、午後から『白神酒造』に来ている。


 新築の『白神酒造』本店ビルは、川沿いの広い敷地にあり、そこには立派な和風庭園が広がっていた。


 散歩がてら歩いてきた俺は、和風庭園の中を散策した。

 池の上に掛かる石橋に立って鯉を眺めていると、後ろから声が掛かった。


「おう、ボー、来てくれたのか」


 振りむくと、同窓生であり、白神酒造の若旦那でもある白神が立っていた。


「いい庭だな」


「建物が洋風になっちゃたから、せめて庭だけでもと思ってな」


 俺たちは、世間話をしながらビルの中に入った。

 エレベーターで最上階まで昇る。


 このビルは鉄筋コンクリート四階建てで、一階が店舗、二階が事務所、三四階が、研究所と居住スペースとなっている。


 白神は俺を四階に案内してくれた。

 大きな金属製のドアを開けると、中は貯蔵庫になっていた。

 ありとあらゆる酒がずらりと並んでいる。


「こりゃすごいな!」


「ああ、湿度温度の管理もばっちりだ。

 この部屋だけで、ビルがもう一つ建つくらい金が掛かってる」


「お前、本当に酒が好きなんだな」


「おいおい、まるで俺が呑兵衛みたいな言い方しないでくれよ。

 まあ、好きにさせてくれてる親父おやじには感謝してるさ」


「うらやましいな」


「す、すまん。

 無神経なこと言っちまったな」


「気にするな。

 ところで、『フェアリスの涙』はどこだ?」


「ふふふ、驚くなよ」


 白神は酒棚の間を通り、奥へ入っていく。金庫室のような扉が現れた。


「おいおい、こりゃ、いくらなんでも大げさじゃないか?」


「いや、『フェアリスの涙』の価値を考えると、このくらい当然だよ」


 分厚い扉を潜った俺たちは、『フェアリスの涙』の樽が並んだ棚の前に来た。


「もう、ほとんど空だぜ。

 なんとか売りきらないようにしてたんだけどな」


「ああ、必ず在庫が残るように少しずつ売れよ」


「これからは気をつけるさ。

 それより、持ってきてくれたんだろう?」


「ああ、空いた樽は、外へ出してくれ」


 白神は素早く動き、どんどん空樽を部屋の外に出していった。

 残ったのは、二樽だけだ。


「じゃ、一つずつ出していくぞ」


 棚の上に樽が綺麗に並ぶように、俺はゆっくり樽を出していった。

 最後に黒い樽を出す。


「おい、ボー、これは?」


「ああ、『フェアリスの星』っていう酒だ」


「お、おい、試飲してもいいか?」


「ああ、そのために持ってきたんだ」


 白神は、俺が見たこともないような道具を使い、酒樽の栓を丁寧に抜いた。

 一滴もこぼさないよう、細心の注意を払っているのが分かる。


「これ、『フェアリスの涙』用に作ったんだぜ」


 白神は、通常の三分の一くらいしかない小さなお猪口を出した。


 大きなスポイトのようなモノで、フェアリスの星をそのお猪口に半分ほど入れる。

 彼は、すかさず樽に栓をした。


 お猪口を俺に渡す。

 鼻に近づけると、花のような、あるいはおこうのような、なんともいえないよい香りがした。


「これは凄いな」


「凄いって、お前、まだ飲んでないのか?」


「ああ、酒は二十才を過ぎてからって決めてるからな」


「ボーらしいな」


 俺はお猪口を白神に返した。

 彼はその香りを聞き、目を大きく開いた。


「こ、こりゃ、とんでもないぜっ」


 世界中の酒を試している彼が言うんだから間違いないだろう。

 酒を口に含んだ白神の動きがピタッと止まる。


「……」


 彼は、涙を流していた。

 口に手ぬぐいを当て、酒を吐きだす。

 彼も未成年だからね。


「俺、この酒に出会うために生まれてきたんだ」


「おいおい、そりゃ大げさすぎるだろう」


「いや、心の底からそう思う」


「白神、この酒は売るな」


「えっ? 

 じゃ、どうするんだ?」


「お得意様がいるだろう、アメリカ大統領とか」


「ああ、あの人、一樽丸ごと買ってくれたもんな」


「そういうお得意様に、今お前が試飲した量くらいを飲ませるといい」


「おお! 

 そりゃいいアイデアだな!」


「金持ちってのは、自分だけ特別ってのが好きだからな」


「お前、冒険者辞めて、商売人になった方がいいんじゃないか?」


「ははは、もう『ポンポコ商会』で十分儲けてるよ。

 そうだ。

『白神商店』の従業員も、パリの〇〇ホテル最上階スイートルームを使えるようにしておくからな」


「なんだ、それは? 

 よく話が見えないが」


「ああ、ポンポコ商会で、パリの一流ホテルの最上階スイートルームを年間契約してるんだ。

 空いてるときならいつ使ってくれてもかまわないぞ」


「……お前、どんだけ儲けてるんだ」


「ああ、ホテルの費用はフランス政府持ちだから、気にするな」


「よけいに驚くわ!」


「広い部屋だから、ヨーロッパで『フェアリスの涙』をお披露目するときに使うといいぞ。

 そのとき、『フェアリスの星』を一ビン持っていくのを忘れるなよ」


「おお! 

 いよいよ世界進出かあ。

 胸が弾むなあ」


「まあ、大統領が買ってるくらいだから、世界的な知名度はすでにあると思うぞ」


「よっしゃ! 

 こうしちゃいられない。

 さっそくパリ行きの計画を練るぜ!」


「日程を決める前に、『ポンポコ商会』に確認を入れるのを忘れるなよ」


「分かってる。

 いやー、腕がなるぜ!」


「次に来るときが楽しみだな」


「ああ、期待しといてくれ!」


「滞在中、家族が世話になった。

 帰ったときは、またよろしくな」


「お前は、ウチの恩人だ。

 そんなことは、お安い御用さ」


「ああ、そうそう、パリのホテルは小西も使っていいからな」


「そ、それはお前……」


 彼女の名前でまっ赤になった白神をそのままにしておき、俺は店を後にした。


 いつもお読みいただきありがとうございます。

『フェアリスの星』、一度飲んでみたいものです。

 次話、イリーナの高校訪問です。

 明日へつづく。

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