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ポータルズ ー 最弱魔法を育てよう -  作者: 空知音(旧 孤雲)
第1シーズン 冒険者世界アリスト編
36/927

第35話 訓練討伐

 訓練討伐開始です。

 騎士たちの目をかいくぐって、自分たちの計画を実行できるか。史郎達の計画が試されます。

彼らにとって、予想外のハプニングも起きます。

お楽しみください。


 訓練討伐当日。

 早朝に宿を出た勇者一行は、センライ地域の入り口までやってきた。

 今まで通ってきた森が切れ、背の低い灌木が多くなる。前方を見ると、無数の巨人が立ちならんでいるような、不思議な光景が広がっていた。


 巨人と見えたのは石柱だ。長年の浸食により、土地の軟らかい部分は削れ、固い部分が残った。

 案内人から、そういう説明を受ける。全員が、その奇観に目を奪われていた。


「では、ここで班ごとに分かれます」


 リーダー役の騎士の合図で、一行は三班に分かれた。騎士と冒険者は、こういうことに慣れているから行動が早い。


「それでは予定通り、ここから分けいって、各班それぞれ討伐をし、目標の丘で合流です」


 進行方向に向かって、左から勇者班、聖女班、聖騎士班となっている。勇者班、聖騎士班は、十名程度だが、聖女班は聖女自身が戦えないため、人数がやや多い。

 各班、騎士と冒険者がおよそ半分ずつの人数構成だ。

 金ランク冒険者は、聖女班、聖騎士班に一人ずつ配置されている。『ハピィフェロー』とルル、俺は勇者班だ。


 案内人の先導で、班ごとに石柱と石柱の隙間に入っていく。

 俺は、班分けの時間を使い、素早く念話で勇者たち三人に指示を出す。


 林立する石柱のせいで、勇者班から少し離れた所を進んでいる聖騎士班、聖女班はすぐに見えなくなった。

 白く崩れやすい石柱間の狭い道を、奥へ奥へと入っていく。人が並んで通れる幅ではないから、隊は一列に長く伸びた。

 間もなく、前方から木と木を打ち鳴らすような音が聞こえてきた。


「ホワイトエイプです!」


 案内人がみんなに危険を知らせる。

 突然、石柱の陰から白い塊が飛びだす。

 速い。

 俺が反応する前に、ルルがナイフを振るう。

 ホワイトエイプは、身長一メートルほどで、小型のゴリラのような魔物だった。肩のところが赤く染まっているのは、ルルから受けた傷だろう。


 それはジャンプすると、石柱を蹴り、ルルに跳びかかる。まるで三角飛びだ。

 前にいた騎士が、剣でエイプの太腿を突く。エイプは、まるで人があげるような悲鳴を残し、足を引きずりながら、それでも驚くほどの逃げ足で姿を消した。


 いきなり襲いかかってきたな。白い毛皮が保護色になっていて、見つけにくいのも問題だ。


 それからも時おり攻撃があったが、勇者班のみんなも次第に慣れてきて、怪我をする者も無くなった。

 攻撃が落ちついてきたのを見計らい、班のリーダーである騎士に話しかける。


「では、予定通り、聖女班の様子を見てきます」


「ああ、お前が連絡係か。

 じゃ、よろしく頼むぞ」


 ルルと二人で隊列を離れる。聖女班の位置は、点ちゃんが教えてくれる。


『(・ω・)ノ ご主人様ー、そこを右に曲がると、舞子さんまですぐですよ』


 ありがとう、点ちゃん。

 点ちゃんが言う通り、次の石柱を右に曲がると聖女班の最後尾である騎士の背中が見えた。


「お疲れ様です。

 勇者班から来ました。

 リーダーは、どちらでしょう」


「おお、ご苦労さん。

 向こうだよ。

 多分、それほど離れてはいないと思うぞ」


「ありがとうございます。

 では、横を失礼します」


 狭い道を、すれ違うように前に向かう。

 三人四人と追いこすと、舞子と、彼女の前後をガードする騎士たちが見えてきた。


 舞子の表情が、ぱっと明るくなる。点ちゃんを通して念話はしていたが、直接会うのは、俺が城を出て以来、久しぶりだ。


「勇者班から来ました」


 聖女班のリーダーを務める騎士に、いくつかの業務連絡を伝える。

 この間に点ちゃんは、前もって決めておいた仕事をしてくれている。点ちゃんいわく、細かい作業は、俺が目標を視認する必要があるそうだ。


 舞子が俺の方に来たくて、うずうずしているのが分かる。


『d(*^ω^*) ご主人様ー、出来たー』


 点ちゃん、ありがとね。


「それでは、聖騎士班にも回りますね」


 俺はルルを連れ、そそくさとその場を離れる。


『せっかく会えたのに……』


 舞子が念話でそう言ってきたが、ここは怪しまれるわけにはいかないからね。


 引きつづき聖騎士班のところにも行き、こちらの予定は終了した。

 一番働いた点ちゃんをねぎらう。


 点ちゃん、ご苦労様。三人を助けてくれてありがとう。


『(*^ω^*) うふふっ、まだまだ、いっぱい助けますよー!』


 お手柔らかにね。


 聖騎士班に合流した俺とルルは、一足先に集合地点の丘に向かった。

 丘の上には、既に勇者班が到着しており、タープテントの下でくつろいでいた。

聖女班は、まだのようだ。


「討伐数の確認をしてくれ」


 騎士から言われた冒険者が、一人一人に討伐数を聞いていく。後から追いついた聖女班も、討伐数を報告する。

 やはり、討伐数が一番多かったのは勇者班だった。加藤は、一人だけで十五体ものホワイトエイプを仕留めていた。

 どんだけ頑張ってるの、加藤。まあ、怪しまれないように頑張れとは言っておいたけどね。


 さて、その加藤が用を足しに行ったきり、なかなか帰ってこない。騎士も、心配しはじめている。丘の周囲は石柱が無く、比較的見通しがいいが、目的が目的だけに、石柱の陰に入っていったはずだ。

 騎士たちが焦れてきたとき、加藤から念話があった。


 ◇


『ボー、聞こえるか?』


『ああ、何かあったのか?』


 いつもの加藤らしくない重い声に、何かあったとすぐに気づいた。


『えーっとな、どう説明したらいいかな……』


『うまく説明しようとするな、お前らしくない。

 あったままを言え』


『えっと、ミナが実はミツで、それで……どうしよう?』


『お前に説明させた、俺が馬鹿だったよ。

 そこに誰かいるのか?』


『ミナでミツがいる。

 お前と、他の二人にも会いたいそうだ』


『相変わらずよく分からないが、そこに誰かいるんだな?』


『ミナ……いや、ミツという女の子だ』


『畑山さん、知ってる?』


『ああ、宿泊所の娘かな。

 どうして、こんなところにいるの?』


『とにかく、俺たちに直接会いたいそうだ』


『用件は何だ?』


『彼女、マスケドニアから来てるらしい』


『何だって!?』

『ええっ!』


 騎士が加藤捜索のパーティを組もうとしている。時間の余裕はない。


『加藤!

 とにかく、今は戻ってこい。

 このままじゃ、やばいぞ』


『分かった』


『帰ってきてから、念話で詳しく話してくれ』


『了解』


 少したつと、加藤が石柱の間から姿を現した。


「ごめーん、遅くなった」


「勇者様! 

 ご無事でしたか。

 こちらから、お迎えに行こうとしていたところです」


 騎士の声には、心底安心したという気持ちが聞きとれた。


「いや~、ちょっとお腹の具合が悪くてね」


「汚いな~、もう!」


 畑山さんが眉をひそめる。


「ちょっとお腹が痛いから、少しの間だけでいいから休ませてくれるか?」


 加藤が騎士のリーダーに話しかける。


「よろしいですよ。

 時間の余裕は、まだまだあります。

 お元気になられてから出発しましょう」


「ありがとう。

 助かるよ」


 騎士に礼を言うと、加藤はタープの下で、こちらに背を向け横になった。


『これでいいか?』


『ああ、お前にしては上出来だ。

 じゃ、もう一度、初めから説明してみろ』


『他の二人も聞いてくれ。

 宿にいたミナっていう娘、覚えてる?』


『そりゃ昨日今日のことだから、覚えてるに決まってるでしょ』


『あの娘は、マスケドニアからの連絡員だった』


『連絡員って?』


『いわゆる、スパイのことだろう』


 加藤の代わりに俺が説明する。


『『ええっ!!』』


 畑山さんと舞子の、驚きの念話が重なる。


『で、彼女の目的は何だ』


『まだ詳しくは話してもらってないんだが……。

 戦争を止めるために働いてるって言ってた』


『何っ?!』


 警戒はしておくべきだが、もしかしたら、彼女が行きづまった状況を打ちこわす糸口になるかもしれない。

 もちろん、これが罠でないという保証はない。マスケドニアからすれば、勇者を排除することで有利に事が運ぶのは確かだからだ。


『そのまま完全には、信じられないな』


 俺は感じたままを念話にのせる。


『彼女は、嘘を言うような娘じゃない』


『お前、なんで昨日今日会っただけの女の子を、そう言いきれる?』


『いや、それは勇者の勘というか。

 本能というか……』


 加藤の念話がしどろもどろになる。


『別の意味での本能でしょ!』


 畑山女史からの突っこみが、いつにも増して鋭い。


『畑山さんは、その娘に会ってるんだよね』


『まあ、ほんのちょっと言葉を交わした程度だけどね』


『彼女のこと、どう見る?』


『う~ん、ちょっと分からないかな。

 少なくとも、彼女への信頼に命は懸けられないな』


 ま、当然ですね。


『舞子は、彼女のことどう思った?』


『……多分、悪い人じゃないと思う』


『なんで?』


『はっきりとは分からないけど、なんとなくそうかな』


 さあ、これは難しい。事態突破のためのチャンスかもしれないが、下手をしたら確実に命を落とすな。彼女がマスケドニアのスパイだと分かっただけで、それに関わった者は命がない。しかし、見方を変えると、ミツと言ったか、その彼女自身がこの行動に自分の命を懸けていることもまた確かだ。

 俺は少し考えてから、自分の結論を口にした。


『とりあえず、俺だけが会ってみようか』


 これには、加藤が猛反発した。


『ダメだ!

 俺も絶対その場にいるからな! 

 これは譲らないぞ!』


 ここまで強く主張する時は、テコでも動かないからな、加藤は。

 畑山さんが、横目で意味ありげに加藤の背中を見ている。何か、事情を知っているのかもしれない。


『しょうがない。

 じゃ、俺と加藤で会うか』


『いいの?』


 まあ、畑山さんの心配は分かるが、点ちゃんもいるし、大丈夫だろう。虎穴に入らざれば、虎子を得ず。これでいってみようか。


『じゃ、帰りの合同訓練の時、隙を見て俺と加藤で会ってくる。

 畑山さんと舞子は、打ちあわせ通りの行動をとってくれ』


『まあ、そうね。

 ここは、あんたに任せるわ』


『史郎君、危険なことはしないでね』


 舞子には言わないが、これから俺と加藤がする行為は危険極まりない。

 その危険を承知で、マスケドニアのスパイと会うことにした。



 いつもお読みいただきありがとうございます。

いよいよ史郎が命懸けで、マスケドニア国と交渉にはいります。

まず、不可能と思われるミッションを達成できるか。

次回に、ご期待ください。


ー ポータルズ・トリビア - 訓練討伐

『訓練討伐』という言葉は、作者が作ったものです。

すでに誰かがどこかで使っているかもしれませんが、それを参考にしたわけではありません。

ファンタジー世界ですから、言葉を作らなければならない時もあります。

違和感なく受けいれていただけたら嬉しいです。

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