第352話 異世界訪問編 第16話 『枯れクズ』の可能性
舞台は学園都市世界へ。
昨日は投稿したつもりができていませんでした。
お読みくださっている皆様、誠に申し訳ありません。
俺は、エレノア、レガルス夫妻をギルド本部へ瞬間移動させると、エミリーと翔太、ブランを連れ、セルフポータルを渡った。
キャロとフィロさんには、時限式の点を付けてある。
一週間したら、ギルド本部に瞬間移動するように設定してある。
そこからは、自分たちで、ポータルを通り、獣人国経由でアリストまで帰ることになっている。
俺は、翔太、エミリーと学園都市世界にある、ギルドが所有する建物の庭に転移した。
ここは、かつて俺がこの世界にいた時、住んでいた所でもある。
今日から数日間、この建物を空けてもらうよう、エレノアさんを通し、ギルドに頼んでおいた。
ギルドには、異世界を結ぶ通信網があるからね。
俺たちが現れると、すぐに建物のドアが開き、この町にあるギルドの責任者マウシーが出てきた。
彼は痩せた小男で、立派な口ひげを生やしている。
「シロー様、お早いお着きで」
マウシーが恭しく挨拶した。この世界では、まだ早朝のようだ。
「マウシーさん、お久しぶりです。
朝早くからありがとう」
「とんでもないです。
この世界を救った英雄のお帰りですから」
あちゃー、また『英雄』が来ちゃったよ。
「お願いですから、英雄はやめてください。
ところで、ダンとは会えますか?」
「はい、すでに連絡済みです。
ここで昼食を予定しております。
メラディス首席もご出席の予定です」
「分かりました。
それまで、少し休んでおきますね」
「はい、承知しました」
マウシーは、建物のカギである指輪を二つ渡すと、去っていった。
転移する前、夜だったから、翔太とエミリーは眠そうだ。
コケットを取りだし、二人を寝かせる。
俺自身もコケットに横になり、目を閉じた。
◇
「おい、シロー、起きろ」
体を揺さぶられ、目が覚める。
頭に黒いバンダナを巻いた、丸っこいダンの顔が目の前にあった。
「ふぁ~、もう昼か?」
「ああ、メラディス首席は、もう席に着いてるぞ」
俺は慌てて起きると、バスルームに行き、顔を洗った。
テーブルが置いてあるスペースに行くと、メラディス首席、この地で働くポンポコ商会の店員たち、翔太、エミリーがすでに席に着いていた。
「お、お待たせしました」
「ホホホ、お気にせず。
シローさんはお疲れのようですね」
「メラディス首席、申しわけありません」
「今日は、私にもお話があるとか」
「ええ、軽い案件ではないので、ぜひ主席と直接お話ししたかったのです」
「では、お食事の後、すぐにうかがいましょう」
食事は、久々に会う友人との気兼ねない楽しいものだった。
翔太とエミリーは、最初見知らぬ人に囲まれ緊張していたが、ダンの部下たちは、元パルチザンということもあり、気さくな者が多いから、ほどなく打ちとけていた。
行政府の議会では、威厳ある姿勢を崩さないメラディス首席も、二人に優しく話しかけてくれる。
「ショータは凄いわね。
その年で、ポンポコ商会の支店を任されるなんて」
「い、いえ。
仲間に助けられています。
ボクだけでは無理です、メラディスさん」
「ははは、人が周りに集まるのも才能だぜ、ショータ」
ダンが、翔太の頭に手を置く。
「ダン、ドーラさんは?」
今日は、いつも彼と一緒に行動する奥さんの姿がない。
「ああ、ホープが風邪ひいちまってな。
看病に残してきた」
「そうか。
ホープちゃんが風邪をね。
確か、いい薬があったはずだが……」
俺は、点収納からケーナイで手に入れた獣人用の水薬を出した。
「おお!
すまんな。
人族用の薬が効きにくくて困ってたんだ」
ダンは人族、妻のドーラは犬人だが、子供のホープには、犬人の形質が強く現れているからね。
食事が終わると、皆にお茶を出し、俺、メラディス首席、ダンの三人だけは別室に集まった。
話しあう内容が内容だけに、今回はさすがの俺も慎重を期している。
点ちゃんに頼み、建物はもちろん、その周辺の盗聴装置などをチェックしてもらった。
今回の事は、秘密保持が第一だ。
いくら用心しても用心しすぎるということはない。
「では、ギルドを通して伝えた通り、今回は、大事なお話がいくつかあります」
「ええ、シローさん、うかがわせていただくわ」
メラディス首席も、いつになく真剣な顔つきだ。
「では、重要度が低い順に、話しますよ」
俺はそう前置きして、『枯れクズ』についての話を始めた。
まず、テーブルの上に、丸いお皿のような形をした、『枯れクズ』を一つ置く。
「シロー、これは何だ?」
「これはある世界で、特別な木が枯れる時にできる、『枯れクズ』と言われるものだ」
「軽いが硬いな。
それと、光ってるな」
「ああ、それは、光をエネルギーとして蓄える働きがある」
メラディス首席とダンは、考え込むようにしばらく黙っていた。
「おい、それって……」
「ああ、エネルギー革命だ」
俺は、察しがいい二人に向かい、説明を端折って結論を言った。
「と、とんでもない代物ですね」
いつもは冷静なメラディス首席の声が震えている。
「首席、ポンポコ商会は、これを有償でお渡しする用意があります」
「シローさん!
本当ですかっ!」
「ええ、本当です」
「今、学園都市は、経済的な危機に瀕しています。
獣人素材が使えなくなったため、魔道具の生産が思うようにできなくなったからです。
多くの魔道具で、代わりの素材は目処がついているのですが、そうした場合、エネルギー消費がもの凄いことになり、半ば諦めていたのです。
これでエネルギーの問題が解決すれば、魔道具が従来通り供給できるようになります」
メラディス首席は、興奮した面持ちで、目の前に輝く『枯れクズ』を指さした。
「まだ、安心するのは早いですよ。
それを使うにしても、中に蓄えられたエネルギーを、無駄なく取りだせるような仕組みが必要です」
「なるほど、その研究を学園都市に任せたいというわけだな」
さすがにダンは呑みこみが早い。
「ああ、アプローチは異なるが、他世界でも、ここと並行して研究に当たる。
メラディス首席、ポンポコ商会からの学園都市世界への正式な依頼です。
お受けいただけますか?」
「もちろんです!
ぜひ、我々にお任せください」
「お願いしますよ。
その際、『枯れクズ』の管理にはくれぐれも注意してください。
兵器などに転用されないよう予防措置は取っていますが、研究する場所と人員はできるだけ絞って、秘密厳守でお願いします」
「分かりました」
「とんでもねえシロモンだな。
だけど、お前、これが重要度が低い方の話って、一体、もう一つの話ってなんだよ」
ダンは、そこに気がついたな。
俺は、念話を通じエミリーと翔太に部屋へ来るよう伝えた。
二人が入ってきて、俺の両側に座る。
点ちゃんに頼み、建物周囲のチェックをもう一度してもらった。
「では、話しますよ。
この件の機密度は、『枯れクズ』どころではありません。
くれぐれも秘密厳守でお願いします」
メラディス首席とダンが緊張した面持ちで頷く。
「お二人は、神樹様について何か知っていますか?」
「ええ、この世界にも昔は、たくさんいらっしゃったという伝承があります」
「俺は、名前を耳にしたことがある程度だな」
まあ、ダンも地球からの転移者だからね。
「では、聖樹様については?」
「ポータルズ世界群の神樹様を取りまとめるお方としか……」
「俺は聞いたこともねえぞ」
「メラディス首席がおっしゃられた認識で、ほぼ正しいと思います。
神樹様のお母上のような立場でいらっしゃると、理解しておいてください」
「分かりました」
「とんでもねえお方なんだな」
「先日、この二人は俺と同じ世界から転移したのですが、その時、それぞれが特別な存在に覚醒しました」
俺は隣に座る、エミリーと翔太を指さした。
「特別な存在?」
「ええ、首席、こちらのエミリーは、『聖樹の巫女』という職につきました」
メラディス首席は、当惑したような表情を見せた。
「ええと、『神樹の巫女』という職は聞いた覚えがあるのですが――」
「確かに、その職も存在します。
けれども彼女の職はさっき話したとおり、『聖樹の巫女』です」
「おい、シロー、それにどういう意味があるんだ?」
「神樹様、聖樹様のお言葉では、ポータルズ世界群に危機が訪れる時に現れる存在だそうだ」
「そ、そんなっ!」
「なんだって!!」
「そして、それを守護する『守り手』が、魔術師に覚醒した、この翔太です」
「と、とてつもねえ話だな」
「ああ、ダン。
聖樹様のお言葉だ。
俺はそのまま信じてる」
「で、危機ってことだが、その具体的な内容は聞いているのか?」
「いや、そこまでの時間、お話ができなかった。
ただ、予想ならできる」
「どんな予想だ?」
「……」
俺は答えるのをためらった。話が大きすぎ、深刻過ぎるからだ。
だが、彼らにも関係があることである。俺は話すことにした。
翔太とエミリーは、部屋から出しておく。
俺は、自分が考えている世界群の危機について、メラディス首席とダンに話しはじめた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
このあと、学園都市世界では、大切なエピソードが待っています。
明日へつづく。




