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ポータルズ ー 最弱魔法を育てよう -  作者: 空知音(旧 孤雲)
第9シーズン 異世界訪問編
350/927

第348話 異世界訪問編 第12話 プリンスと先生(下)

 翔太君は、魔術師としての自覚を持つようです。


 青いモヤモヤが見えるようになった日から、ボクの魔術練習が変わった。


 先生は、風魔術、火魔術の基礎も教えてくれた。


 風魔術の基礎訓練では、先生を吹きとばしちゃったし、火魔術の基礎訓練では、あやうく森が火事になるところだった。

 それでも、先生は、少しもボクを叱らなかった。

 むしろ、さらに熱心に、色々教えてくれようとしたくらいだ。


 そして、練習を始めてから二十日目に、僕が、水、土、風、火魔術の基礎ができるようになると、先生は舞子お姉ちゃんを連れてきた。


 先生によると、お姉ちゃんは、ポータルズ世界群で一番というくらい、治癒魔術が上手いんだって。


「翔太君は、もう治癒魔術を見たことがあったね」


 そういえば、異世界に来たとき、ボクたちは、お城の森に出てきたんだけど、そこで舞子お姉ちゃんが、エミリーの目を治したんだった。


 あの時は、エミリーの体が光って、とても綺麗だった。

 エミリーの目は、地球ではどんなお医者さんでも直せなかったから、舞子お姉ちゃんにも無理じゃないかって、ちょっと思ってたんだ。


 だけど、エミリーは本当に目が治っちゃった。すごいよね。

 だって、お姉ちゃんが治療してすぐに見えるようになったんだよ。


 あれも、やっぱり魔術だったのか。魔術って本当にすごい。


 舞子お姉ちゃんは、ボクの手をとると、火傷で水膨れしたところに、手をかざした。

 森が火事になりそうだったとき、慌てて火を消そうとして火傷しちゃったんだ。


 お姉ちゃんの手が白く光ると、ボクの火傷も光りだした。


 白いマナのモヤモヤが、お姉ちゃんの周りにいっぱい集まってる。

 今まで、こんなにマナが濃くなるのを見たことがない。


 ボクの火傷は、あっという間に消えてしまった。

 火傷があるときは、そこがヒリヒリしていたんだけど、その感じもなくなった。


「今、自分が受けた治療の感じを思いだして、この傷に魔術をかけてごらん」


 舞子お姉ちゃんに言われ、さっき治った火傷の近くにある傷に、ボクは手を近づけてみた。

 でも、手はちっとも光らなかった。


 先生によると、治癒魔術は、聖魔術の一つで、この聖魔術は、水、土、風、火の魔術にくらべ、かなり難しいそうだ。


 それは、そうだね。

 水、土、風、火はイメージできるけど、「治す」ってイメージしにくいから。


 お姉ちゃんに治してもらった感覚を忘れないように、その日のうちに何度も試したけど、結局治癒魔術は唱えられなかった。


 ◇


 ボクは、土魔術を練習していた時みたいに、またスランプになったようだ。


 なぜか、水魔術なんかも、以前と比べて下手になったような気がする。


 それから、四五日は、一日中治癒魔術のことを考えていたんだ。

 すると、治癒魔術のヒントは意外なところからやってきた。


 お屋敷の庭を歩いているとき、洗濯物を干しているメイドさん二人が会話しているのが聞こえた。


「ウチのトニーも腕白で困るわ。

 いつも擦りきずだらけで帰ってくるのよ」


「でも不思議でしょ。

 子供って、いつの間にか、傷が治ってるのよね」


「どうせ、また新しく傷ができるんだけどね、ホホホ」


 その時、ボクはピーンと閃いたんだ。


 試しに、自分の傷に手をかざしてみる。

 やった、たくさん白いマナが集まってくるぞ。


 ボクの手が光りだして……傷口も光ったぞ。


 やった! 

 治ってる。


「治れ」じゃなくて、「治ってね」と思えばよかったんだね。

 治癒魔術は、体にお願いする魔術だったんだ。


 ボクは、すぐピエロッティ先生の所に知らせに行った。

 自分の足についていた小さな切り傷を、治癒魔術で治す。


 魔術が成功すると、先生はものすごく喜んでくれた。

 そして、ボクの成功を、すぐに舞子お姉ちゃんに知らせていた。


 ◇


 ボーさんと約束した日が近づいた。


 治癒魔術が唱えられるようになったお祝いに、先生は、ボクを遠足に連れていってくれた。

 森の向こうに小さな湖があるそうで、そこまで行くことになった。


 ボクと先生は、メイドさんが用意してくれたランチボックスを持って、森の中をどんどん歩いていった。

 

 少し雲はあるけど、空は青く、風が優しい。


 ボクは楽しくて、時々、速く歩きすぎて、先生を追いぬいちゃうくらいだった。

 

 途中、子供を連れたお母さん猪がボクたちへ突進してきたけれど、先生は、水魔術と土魔術をうまく使ってそれを追いかえした。

 子連れの動物や魔獣は、子を守ろうとして、気が荒くなっていることがあるから、気をつけるようにだって。

 母親を倒してしまうと、その子も生きていけないから、自分がホントに危ないとき以外は、殺してはダメなんだ。


 先生は、歩きながら、そういう事を教えてくれた。


 ◇


「うわーっ!!」


 森から出ると、目の前に綺麗な湖が広がっていた。

 ボクは今まで、そんなに美しい景色を見たことが無かったから、胸がいっぱいになった。

 湖は、その向こうにある山々が映って、鏡のようなんだ。


 小川が湖に流れこむ辺りの岸辺に、芝生のような草が生えていたから、そこに布を敷いてランチの用意をする。


 ランチボックスからは、ノリで巻いたおにぎりとお茶が出てきた。

 この世界にも、お米があるんだろうな。


 おにぎりは、もう言葉に出来ないくらいおいしかった。日本の食べものが、すごく食べたかったから、よけい美味しく感じられたのかな。

 食べおわってランチボックスを片づけると、先生はボクの横に座った。


 二人して、綺麗な湖を見る。

 それは、本当に幸せな時間だった。

 ボクは、前から聞きたかったことを先生に尋ねてみた。


「先生は、誰から魔術を習ったの?」


 先生は、自分の手にある火傷を見せて、「治してごらん」と言った。

 ボクは治癒魔術を使ってそれを治そうとしたけれど、その火傷は、ほとんど良くならなかった。


「これが治らないのはね、君の治癒魔術が不十分なせいじゃないんだ」


 先生は、自分の生いたちを話してくれた。


 子供の頃、両親から、無理やり魔術を教えこまれたこと。


 魔力を高める薬を飲んで、体をこわしかけたこと。

 その副作用で、治癒魔術が効きにくい体になったこと。


 魔術師として出世するため、多くの人を傷つけたこと。

 そして、とうとう、ある少年を殺してしまったこと。

 先生は、淡々とそれを話してくれた。


 罪をつぐなうために、生きていること。

 だから、家族を持つつもりはないこと。


 そして、最後にこう言ったんだ。


「ショータ、魔術は凄い力だ。

 それは、君にも分かっているだろう。

 だけど、それを使うのは君自身なんだ。

 強い力は、間違って使うと自分も人も傷つける。

 私をよく見るんだ」


 先生は、そう言うと、服の胸のところを開いた。

 そこには、顔と同様、黒と白に分かれた体があった。


 ボクは少しの間、黙っていたが、自分が思っていることを口にした。


「先生が昔どんな人であったとしても、今は素晴らしい先生です。

 ボクが上達したのは、先生のおかげです。

 先生、これからも、ボクに魔術を教えてください」


 先生は、それを聞くと、立ちあがって水際まで歩いていった。

 しばらくして、振りかえるとこう言った。


「よし、ショータ。

 明日から、またビシビシしごくぞ。

 シローさんが来るまでに、行けるところまで行こう」


「はい、先生!」


 いつの間にか雲は無くなっていて、青い空がどこまでも広がっていた。

 いつもお読みいただきありがとうございます。

翔太君とピエロッティ先生のエピソードはここまでです。

翔太君が、魔術学校を舞台に活躍するお話は、別の所で。

 『少年と魔術 ー 魔術ってなに? ー ファンタジー世界入門  ポータルズ外伝03』 

次回、エミリーが覚醒した『聖樹の巫女』の謎を解明するため、史郎はエルファリア世界へ向かいます。

アリストのギルドマスター、キャロが里帰りするお話もお楽しみください。

 明日へつづく。

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