第346話 異世界訪問編 第10話 ホーム・スィート・ホーム
真竜廟を去ることになった史郎たち。
子竜の母親役をつとめたルル、コルナ、コリーダの心境はいかに。
俺が翔太とヒロ姉を連れ、竜人国から真竜廟に帰った翌日。
いよいよ、みんなが、真竜廟を去る時が来た。
子竜たちのことがあるので、定期的にここを訪れる事を考えている。
それでも、長く一緒に過ごした母親役の三人は、子竜と離れがたい気持ちがあった。
見ていてそれが分かるので、こちらも辛い。
竜王様の部屋でお別れの食事会をする。
俺たちは部屋の中央に車座になり、母親役の三人の両脇には、中ぐらいの子竜と小さい子竜が並んでいる。
ルル、コルナ、コリーダは、子竜に話しかけながら、食べ物を分けあたえている。
ナルとメルも子竜と別れるのが辛いらしく、子竜それぞれに話しかけている。
ミミとポルも、名残惜しそうに子竜を撫でている。
不思議なのは、一番長いこと母親役と一緒にいた大きな子竜たちが、ゆりかごの部屋から出てこないことだ。
心配になった俺が見に行こうとすると、なぜかナルに止められる。
「パーパ、あそこに入っちゃダメ!」
どういうことだろう?
俺が不思議に思っていると、部屋の扉が開いた。
よちよち歩きで三人の幼児が出てくる。三歳くらいに見える。
俺たちは、何が起こったか分からず、呆然としていた。
子供たちは、ルル、コルナ、コリーダのところまでちょこちょこ歩いて来ると、それぞれ彼女たちにすがりついた。
「まんまー」
「まんま」
「まーま」
驚いた顔の三人が、さっと子供を抱えあげる。
ナルとメルが、「やったー!」と叫んでいる。
俺は何が起きたか、やっと理解した。
ナルとメルが、大きな子竜に、人化を教えたんだね。
『ふむ、人化をマスターしよったな!』
竜王様も、感心している。
天竜族の成龍でも、できるものとできないものがいるくらいだから、人化がそれほど簡単なわけがない。
三体の子竜は、母親恋しさに、その困難を乗りこえたのだろう。
ルル、コルナ、コリーダは、それぞれの子竜に頬ずりしている。
彼女たちは三人とも、頬が涙に濡れている。
俺は、ルルたちが子竜から離れるまで待った。
三人は、俺が出した布を子供姿の子竜に巻きつけている。
『さあ、もう行け。
こうしていると名残惜しさが募るばかりじゃ』
竜王様の念話が俺たちに入る。
体を震わせ泣いている、ルル、コルナ、コリーダを連れ、部屋の奥に移動する。
「まんまー」
「まんま」
「まーま」
子竜の声が、俺たちの心を引きとめる。
俺は心を鬼にし、セルフポータルを開いた。
◇
アリストの自宅に帰って二三日は、ルル、コルナ、コリーダともふさぎ込んでいた。
彼女たちを元気づけたのは、他でもなくナルとメルだった。
三人を子供部屋に招くと、そこでおしゃべりしたり、一緒に寝たりしていた。
『(*´з`) ご主人様は、こんなとき役に立ちませんねー』
いや、俺もできることはやっているんだよ、点ちゃん。
ただ、ナルとメルには敵わないだけ。
『(・ω・) 負けを認めちゃってるよ』
悔しいけど、そうなんだよね。
その間に、俺はヒロ姉をマスケドニアに、ミミ、ポル、翔太をケーナイに送った。
マスケドニアでは、母親の顔を見るなり「母さん、ちょと聞いてよ。史郎君ったらひどいのよ」と言いだしたヒロ姉が、またおじさんの拳骨をくらっていた。
まったく、反省してんのかね、ヒロ姉は。
ケーナイでは、翔太のことをピエロッティに頼んでおく。
彼なら、翔太のいい先生になるだろう。
エミリーの件に関しては、神樹様に報告するため、コルナの妹コルネが狐人領に帰っている。
何をするにしても、コルネがケーナイに帰ってきてからのことになるだろう。
二人を送りとどけ、アリストに帰ってきた俺は、どうやってルル、コルナ、コリーダを元気づけようかと考えていた。
◇
その日、夕食後、ルル、コルナ、コリーダは史郎から屋上に来るよう言われた。
三人がすでに暗くなった屋上に出てみると、そこかしこにロウソクが灯されており、それが花壇の花々を浮かびあがらせ、幻想的な光景を作りだしていた。
どこからか、かすかな楽の音が聞こえてくる。
史郎は、二つあるあずま屋の内、昇降口から遠い方の横に立っていた。
「三人とも、言われたものは持ってきたかい?」
彼からそう言われ、ルルは頷いた。でも、なんでこんなものをこんな所で?
「こちらに来てごらん」
史郎は、三人を奥のあずま屋の中に案内した。
そこにも灯されたロウソクがいくつかあり、温かい空間を作りだしていた。
いや、温かいのは気のせいでは無かった。
ルルがいつか見た、大きなお椀型の入れ物には湯が張られていた。
お湯には良い香りを放つ、ドラゴニアの果物が浮かんでいた。
「さあ、それに着替えて、湯船に入ってごらん」
三人が持ってきたものは、水着だった。
コリーダは水着を持っていなかったので、史郎が前もって仕立てさせ、昨日渡しておいた。
三人があずま屋に入った時点で、そこは足元から人の背丈ほどの黒いシールドで覆われる。
彼女たちは、水着に着替えると、お湯につかった。
三人が湯船に身を沈めると、体の周りのお湯が泡だつ。
「シロー、これはいったい?」
ルルの声には、史郎が念話で答えた。
『それは、俺の世界でくつろぐときに使われるお風呂なんだよ。
ジャグジーバスといって、泡が出るお風呂なんだ』
シールドの外にいる彼の念話を受けとった三人は、最初の驚きから一転、泡の気持ちよさを味わっていた。
身体に当たる泡で、ふわふわと雲の上に浮いているような心地がする。
穏やかな楽の音が流れだした。
さっき三人が聞いたのは、この音楽だったらしい。
音は、はあずま屋の天井から降ってくる。
湯船の横に現れた小さなテーブルの上には、よく冷えたグラスに白いものが入っていた。
添えてあるスプーンで、コルナが一口食べる。
「おいしい!」
それは、史郎が地球から持ちかえったジェラートだった。
もちろん三人は、その名前など知らないが、彼が自分のことを気遣ってくれているだけで十分だった。
三人は目を見合わせ、手にアイスクリームのグラスを取ると、それを目の高さに持ちあげ微笑みあった。
穏やかな気持ちで泡に揺られるルル、コルナ、コリーダを、パンゲア世界の二つ月が見守っていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
子竜の気持ちが胸をうつお話でした。
また、きっと子竜に会いにいけるよね、史郎。
『(・ω・)ノ ご主人様に期待しないように』
ええい、頼りない主人公は放っておいて、作者の力で何とかしてやるっ!
明日へつづく。




