第345話 異世界訪問編 第9話 『枯れクズ』と蜂蜜
ヒロ姉は、史郎の「商売」に一言あるようです。
俺はヒロ姉と翔太を連れ、天竜が住む洞窟の外にある、竜人用のベースキャンプに現れた。
「あっ、シローさん!」
顔見知りの研究者が、俺に気づいた。
彼は、ベースキャンプ開設当時からここにいるからね。
「あっ、シローさん」
「お帰りなさい!」
「ご無事で何よりです」
竜人の『枯れクズ』除去作業員も挨拶してくる。
「みんな、特に困ったことはない?」
「はい、ありません」
「あのトレインが無かったら、どれほど大変だったか」
「そうだな。
あれ無かったら、今頃、死んでるよ」
俺は、作業員たちとトレインの調整を始めた。
ブレーキは、点ちゃん4号改に使ったものに変えておく。
「おおっ、こりゃ、使いやすい!
シローさん、ありがとうございます」
竜人作業員にも、地球からのお土産を渡し、倉庫に向かった。
俺が造った『枯れクズ』貯蔵用倉庫は、上手く機能していた。
倉庫がいっぱいになったとき、『枯れクズ』を吸収してきた点を、俺の点収納に回収する。
倉庫を管理している竜人からも話を聞き、吸収用シートは、そのままにしておく。
「いやー、最初に倉庫が一杯になったときは、本当に驚きましたよ。
あれほど積みあげた『枯れクズ』が、一瞬で消えるんですから」
「ははは、一杯になると、自動で回収するように設定しておいたからね」
「魔術って凄いですね」
本当は魔術でなく魔法なのだが、そこは訂正せずにおく。
「じゃ、またそのうち来るから、なにか気になる事があったら記録しておいてね」
「はい、分かりました」
俺は、『光る森』に自分が植えた、光る神樹様五柱の状態を確認すると、翔太、ヒロ姉を連れ竜人国へ跳んだ。
◇
俺、翔太、ヒロ姉が現れたのは、『ポンポコ商会ドラゴニア支店』の前だった。
通行人を驚かせないよう、自分たちに透明化の魔術を掛けてある。
タイミングを見計らい、透明化を切る。
近所の店先をホウキで掃いていた商店主が俺に気づいた。
彼は平伏しそうなそぶりを一瞬したが、禁止されていることを思いだしたのだろう、ロボットのようにぎこちない動きを始める。
「こんにちはー」
「こここ、こんにちわ……」
あちゃー、女性を前にしたブレットみたいになってるな。
可哀そうだから、すぐにポンポコ商会の中に入る。
「あっ、シローさん!
どうしてたんですか?
最近来てくれないんで、心配してたんですよ!」
ネアさんが、駆けよってくる。
「そのお二人は?」
「ああ、こちかが加藤の姉で博子さん、こちらは友人の弟で翔太だよ」
「異世界の方ですね?」
「ああ、俺と同じ世界の出身だね」
ヒロ姉と翔太がネアさんに挨拶している。
「あっ!
お兄ちゃん!
なんでもっと早く来てくれなかったの!?」
ネアさんの娘イオが、俺に飛びついてくる。
「他の世界で、大事な仕事があってね。
蜂蜜と『枯れクズ』の在庫はどうなってる?」
「そうそう、『枯れクズ』がいっぱい売れて、もうすぐなくなりそうだったんだ。
蜂蜜は、私がいっぱいとってくるから大丈夫だよ」
「イオが蜂蜜採りに行ってるの?」
「うん!
なんかね、採るのが楽しくなっちゃって」
「きちんと、防護服着て行くんだよ」
「うん、気をつけてる」
「じゃ、少しだけ残して、蜂蜜を分けてもらえるかな?」
店の奥に入り、意外なほど溜まっていた蜂蜜のビンを点収納に入れた。
ついでに、『枯れクズ』を、貯蔵部屋に出しておく。
「うわっ!
いっぱいあるね」
「これだけあれば、しばらくは大丈夫のはずだよ」
「お兄ちゃん、お母さんと話してる男の子は誰?」
「ああ、あれは翔太といって、友人の弟なんだよ」
「ふーん、そっかー。
すごくカッコいい人だね」
「あれ?
イオちゃん、顔が赤くなってるよ」
「もう、お兄ちゃんったら!」
売り場に戻ると、ヒロ姉が、店員からもらったクッキーやチュロスを食べていた。
お茶を出してやる。
「なにこれ!
もんのすごく美味しい!
特にこの蜂蜜、なんだろう」
「あー、ヒロ姉、それはこの子が採ってくるんだよ」
「イオといいます。
こんにちは」
「イオちゃんね、こんにちは。
私のことは、ヒロ姉って呼んでね」
「はい!」
ネアさんが、売り上げを記録した紙の束を持ってきた。
「シローさん、これ、どうしましょう」
六日分の売り上げごとに、まとめた数字を、一枚の紙に六つずつ整理してある。
それを見ると、俺がいない間に、気が遠くなるような売り上げ金額になっていた。
ついでだから、ネアさんに給料のことを話しておく。
「ええっ!
そ、そんなに、もらえません」
「支店長がきちんと給料をもらわないと、働いている人がもらいにくいでしょう」
俺は、イオの給料についても触れ、必ず売り上げから引くよう言っておく。
「私たちは、こんなにしていただいても、恩を返すことができませんよ」
「この店を大きくしてもらえば、それでいいんです。
頑張ってください」
「はい!」
「あー、それから、これ用意しましたから、使ってみてください」
点収納から段ボール箱を三つ取りだす。
「これは、俺の世界で買ってきた、ノートと筆記具です。
安いものだから、気兼ねなく使ってください」
この世界には、いい紙がないからね。
段ボール二つには、ボールペンとノート、フセンが入っている。
「お兄ちゃん、これ何ー?」
「ああ、それは、電卓と言ってね……。
そうだ、翔太。
イオに電卓の使い方、教えてやってよ」
「え、ボクが?」
イオが目を輝かせ、翔太を見る。
「は、はい。
分かりました」
「ネアさん、この電卓は、光に当てると動くから、近所の商店さんにも一つずつ配ってあげて。
余ったのは、売り物にするといいよ。
そうだね、竜金貨二枚で売るかな」
「史郎君、竜金貨二枚って、地球でいうと、いくらくらい?」
ヒロ姉が、値段に興味を持ったようだ。
「そうですね、だいたい百万円くらいかな」
「げっ!
あんた、その電卓千円もしないでしょ。
ボロ儲けにも、ほどがあるわ」
「ああ、ほとんどは百円ショップで買ったものだから、一つ売れば、それだけで百万円のもうけだね」
「あんた、腹黒いわね」
「儲けるのが上手い、と言ってほしいですね」
「このガラスの板みたいなのは、いくらで売ってるの?」
ヒロ姉がつけている多言語理解の指輪は、文字情報には対応していないからね。
「竜金貨五枚だね」
「……あんた、それって二百五十万じゃないの?」
「そうだけど」
「このー、こいつめ、こいつめ!」
ヒロ姉が俺の頭を抱え、拳骨でぐりぐりし始める。
店の空気が凍りつく。
「あれ?
みんな、どうしちゃったの?」
ヒロ姉が辺りを見まわす。
「りゅ、竜王様のご友人に、なんたることを……」
副店長が絶句している。
店の隅で電卓をはさみ、ほのぼのとしている翔太とイオに比べ、大人たちがいる一角では、冷たい空気が流れる。
俺は仕方なく、店の奥に雲隠れした。
いつもお読みいただきありがとうございます。
100円のものを100万円で売るという史郎の商売は、どうなんだろう。
『へ(u ω u)へ ご主人様は、そんなもの~』
ま、まあそうなんですけどね、点ちゃん。
次話、いよいよ史郎の家族は真竜廟を後にすることに。
明日へつづく。




