第343話 異世界訪問編 第7話 天竜国再び
史郎がいよいよ家族と再会します。
真竜廟ダンジョンには、お笑い役のあの人も、同行するようです。
舞子、彼女の両親、エミリー、翔太と俺は、ケーナイ郊外にある舞子の屋敷に到着した。コルネと御者役のアンデも一緒だ。
ピエロッティが、いそいそと舞子の荷物を持つ。
メイドたちが、舞子の両親や、エミリー、翔太の荷物を持った。
来客室に入ってソファーにくつろぐ。
舞子が家族やエミリー、翔太に宿泊する部屋を案内しているから、ここにはアンデとコルネしかいない。
「コルネ、さっき言ってた話だが」
「はい、何でしょう」
素直なコルネは、かえって話しづらいな。
「舞子が連れてた女の子がいただろう」
「はい、綺麗な青い目をした人族の子ですね」
「そう。
話というのは彼女が覚醒した職業についてなんだ」
「どんな職業についたのですか?」
俺は、アンデとコルネに耳を寄せるように言った。点魔法のシールドで、周囲も覆う。
「それがね、『聖樹の巫女』っていうんだけど、何のことか分かるかい?」
アンデは驚いただけだが、コルネは幽霊を見たような顔になった。
目を大きく見開き、口をパクパクさせている。
まっ青になり、ブルブル震えだした。
そんな彼女を、アンデが慌ててソファーに横たえる。
コルネは、意識を失った。
どうやら、『聖樹の巫女』というのは、とんでもない職業らしい。
そして、それがどうとんでもないのか、コルネは知っているという事か。
アンデに頼み、コルネをお客さん用の寝室に運んでもらった。
もちろん、部屋には厳重にシールドを張ってある。
ついでに、エミリーや、舞子の両親の客室も同様にした。
舞子がみんなを連れ、二階から降りてくる。
「史郎君、食事するくらいの時間はある?」
「そうだな。
俺は、とりあえず、家族を迎えに行くよ。
舞子、コルネが体調を崩してるから、治療した後、休ませてやって欲しい。
アンデから事情を聴いおいてね。
聞いたことは、絶対秘密にしておくんだよ」
「うん、分かった」
「後、俺が帰るまで、エミリーの事を頼むよ」
「史郎君、気をつけてね」
舞子が俺に抱きつく。バイク旅行から、彼女はそういう事をするようになった。
ハグを返して離れる。
「じゃ、二三日したら戻る。
翔太は連れていくからね」
「行ってらっしゃい」
俺は、翔太に歩みよる。彼は旅の疲れからか、あくびをしている。
しかし、ここは心を鬼にして、彼を連れていく。
「翔太、俺の家族が他の世界にいるから、寝るのはそこに着いてからになるよ」
「えっ?
魔術の先生は、ここにいるんでしょ?」
「ああ、先生がいるのはここだけど、その前にやることがあるんだよ」
「分かりました」
「見たことないようなものが、たくさん見られるよ」
「うん!
行ってみる」
「じゃ、行くよ」
俺は、翔太を連れ、セルフポータルを渡った。
◇
史郎と翔太、そしてあと一人は、天竜国の真竜廟第三層に開いたポータルから出てきた。
「しかし、ヒロ姉、その恰好は……」
「あんたが、寝てる所を連れてきたんでしょうが!」
ヒロ姉は、パジャマ姿で、目をこすっている。
「後で行くところがあるって、ちゃんと言ったよ」
「明日とか、明後日とかだと思ったのよ」
「翔太、どう思う?」
「お姉ちゃん、なんでパジャマで来ちゃたの?」
「プ、プリンス~、お許しをー」
ヒロ姉が、ひざまずいて首を垂れている。
しょうがないから、点収納から俺用の防寒ローブを出す。
「とりあえず、これ羽織っといてください」
ヒロ姉は、スッピンの顔を翔太君に見られるのが恥ずかしいのか、俺の後ろに隠れた。
「じゃ、行きますよ」
三人は、森の中を歩きはじめた。
◇
「ギャー!
出たー!」
ヒロ姉が絶叫するのは何度目だろうか。
ジャイアントスネークが出るたび、この反応だもんね。
点ちゃんに頼み、ブランには、かなり後ろを歩くよう言ってもらった。
彼女がいると、蛇は怖がって出てこないからね。
大蛇は、俺が張ったシールドに、大きな口を何度もぶつけている。
この旅は、ヒロ姉の不注意な行動を反省させる意味もあるから、ここは我慢してもらおう。
翔太は、ヒロ姉が怖がる度にクスクス笑っている。
彼は俺の魔法をどれだけ信頼してるんだろう。
ちょっと、怖いね。
森の中心にある泉の所まで来たので、そこから竜王様がいる部屋の前まで瞬間移動する。
「あれっ!?
やっと森を抜けたの?
もう、死ぬほど怖かったー!」
それが笑いのツボにはまってみたいで、翔太が声を上げて笑いだした。
「プ、プリンスに笑われてる……イヤーッ!」
しゃがみこんだヒロ姉が恥ずかしさに顔を隠す。
少しすると、彼女はゾンビのようにむくっと立ちあがった。
「史郎君」
なんか、声が怖い。
「今、私たち、泉からここまで一気に移動したわよね……」
「ええ、しましたが、それが何か?」
「ということは……森を通らなくてもよかった?」
あちゃー、そこに気づいちゃいましたか。
「どうなの!?
どうなのよっ!?」
ヒロ姉が、ずんずん俺の方に迫ってくる。
その時、俺が背にした黄金色の大きな扉が音もなく開いた。
中を覗きこんだとたん、ヒロ姉が気を失い、すとんと地面に落ちた。
『騒がしいので開けてみたが、シローではないか』
振りむくと、俺を見下ろしている巨大なボーンドラゴン、竜王様がいた。
◇
俺は、やっと竜王様の部屋に戻ってきた。
念話を家族に送ると、すぐに皆が駆けてくる足音がする。
「「パーパ!」」
ナルとメルが俺に飛びつく。
「ただいま!
いい子にしてたかい?」
二人は顔を俺のお腹辺りに擦りつけていて答えない。
二人の頭を撫でていると、ミミ、ポル、リーヴァスさんが現れる。
「リーダー、お帰りー。
ずい分、長かったね」
ミミが、笑っている。
まあ、三か月近く留守にしたからね。
「シローさん、子竜がずい分大きくなりましたよ」
ポルが、ニコニコして握手を求めてくる。
「聖樹様のお仕事は、無事終わりましたかな?」
リーヴァスさんが、微笑んでいる。
「ええ、リーヴァスさん、みんなの事、ありがとうございました。
聖樹様の導いてくださった事は、片づけてきました」
「そのお二方は?」
「勇者のお姉さんと、女王陛下の弟さんです」
「なんと!
では、故郷の世界に帰ったのですな?」
「はい、おかげさまで。
詳しいことは、また後程」
「三人が待っていますぞ。
どうぞこちらへ」
リーヴァスさんが、俺をゆりかごの部屋だった扉の前まで連れていく。
彼がノックをすると、扉が開いた。
中から現れたのは、輝くばかりに美しい三人の女性だった。
いや、「輝くばかり」ではなく、本当に輝いている。
コルナは金色、コリーダは黒色、ルルが薄紫の薄布を羽織っている。
頭にも、同色の薄いベールをかぶっていた。
特別な素材で作られたであろう、その衣装がキラキラ輝いている。
俺は感動で声が出ない。
三人がお互いに目で合図すると、俺の周りに集まった。
「「「シロー、お帰り」」」
「……」
『(・ω・)ノ ご主人様ー、「ただいま」って言わないのー』
いや、点ちゃん、俺もう、胸がいっぱいいっぱい……。
俺は、一人ひとりの手をぎゅっと握った。
ここに帰ってきた。
「ただいま」
俺と三人は、しばらく黙って立ちつくしていた。
◇
「うわっ!
何、この綺麗どころ!」
あー、ヒロ姉のせいで、再会の余韻がぶち壊しだよ。
もう十匹くらい、蛇に遭わせてもよかったかもね。
「シロー、この方は?」
三人が、きっとヒロ姉の方を見る。
「ああ、こちら加藤のお姉さん。
ヒロ姉って呼んであげて」
三人の視線が緩む。
「ああ、カトーさんのお姉さんでしたか。
初めまして、コルナです」
「コリーダと言います。
よろしく」
「初めまして、ルルです。
よろしくお願いします」
「ところで、お兄ちゃん。
こちらの可愛い男の子は?」
コルナのシリアスモードは一瞬で終わったようだ。
すでにお兄ちゃん呼びになっている。
「彼は、翔太。
アリスト女王陛下の弟君だよ」
三人に頭を撫でられ、翔太が照れている。
「シロー、故郷の世界に帰れたんですね」
「ああ、ルル。
君が予知したとおり、向こうでは大変な事が待ってたよ」
「あなたが無事帰ってきて、本当に嬉しいわ」
「君も元気だったかい、コリーダ」
「ええ、ありがとう。
最近は、よく子竜たちに歌を聞かせてるの」
「いいね!
俺も早く君の歌が聞きたいよ」
ナルとメルが、俺から離れ、ルルに抱きつく。
「ルル、留守中、特に変わりは無かったかい?」
「ええ、子竜たちの世話が忙しく、あっという間でした」
「子竜は?」
ルルが部屋の片隅を指さす。丸いボールのようなものが九つある。
大、中、小、それぞれのサイズが三つずつだね。
生まれた時期で大きさが違うんだろう。
俺がいない間に六体が生まれたことになる。
「大変だったろう。
忙しいときに居なくてすまない」
「大変だけど、とても楽しかったですよ。
おじいさま、ミミちゃん、ポル君も手伝ってくれましたから」
竜王様の念話が入る。
『シロー、母親役の彼女たち三人と、お前の友人には、本当に世話になったな』
『みんな、お手伝いできて嬉しかったみたいですよ。
それより、大変な時に留守にして申しわけありませんでした』
『なんの、聖樹様のお導きは尊きもの。
またそのようなことがあれば、力をお貸しせよ』
『はい、そうします』
『疲れているようじゃから、風呂に入りすぐ休め』
『お言葉に甘えさせていただきます』
俺は、久々に家族と会えたことで、心が満たされていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
史郎は、ようやく家族に会えました。




