第342話 異世界訪問編 第6話 聖女の帰還
聖女舞子が獣人世界の屋敷へ帰ります。
また、ケーナイの町は大騒ぎとなりそうです。
俺がマスケドニアから迎賓館の続き部屋に戻ると、皆が楽しそうにおしゃべりしていた。
舞子に目で合図すると、彼女が両親に話しかけた。
「さあ、私たちも行きましょう。
お父さん、お母さん、忘れ物はない?
エミリーも、一緒に行きましょうね」
「もちろん行きます、お姉さま」
「ボーさん、この部屋、ボクだけになっちゃうの?」
白猫ブランを抱いた翔太は、不安そうだ。
「ああ、翔太、安心して。
君も、俺たちと一緒に行こう」
「どこへ?」
「舞子お姉さんの家だよ」
「どうして?」
「君、魔術師に覚醒しただろう?」
「うん!
ボーさんと同じ!」
「そこにね、いい魔術の先生がいるんだ」
「えっ!
本当?
ボク、魔術が使えるようになりたい!」
これは、『水盤の儀』が終わった後、畑山さんと相談して決めた。
翔太を連れてきた目的も、果たさないといけないからね。
今回はポータルズ世界をあちこち渡るが、その間、彼は俺の側にいる予定だ。
「じゃ、みんな、手を繋いで輪になって」
俺も含め、全員が輪になる。
別にバラバラでも瞬間移動はできるのだが、気分の問題だ。
俺たちは、アリスト東部にある、鉱山都市のポータル前に瞬間移動した。
◇
ポータル前には、俺がここを使うとき、いつも世話になる少年が地面に座っていた。
ギルドを通じ、前もって連絡が来ていたのだろう。
「せいじょ、さま」
「まあ、ケン、すごく上手に話せるようになったわね」
彼は、喉の病を舞子に治療してもらい、少しずつ話せるようになってきた。
舞子が彼の頭を撫でると、ケンは太陽のような笑顔を浮かべた。
彼に女王陛下からの通行証を見せる。
普通は身分証明書も要るから、これは特別なものだ。
彼が頷いたので、俺たちは黒い靄が渦巻くポータルの前に並んだ。
「えっ!
まさか、これに入るの??」
渡辺のおばさん(舞子の母)が、怖がっている。
「大丈夫よ、お母さん。
私なんて、もう何度も通ってるから」
「舞子が、たくましくもなるわけだね。
こんなのを、何度も使ってたなんて」
渡辺のおじさんが、感心したように言う。
「お母さん、私と手を繋ぐといいよ。
エミリー、おいで」
舞子は、母親とエミリーの手を取った。
俺は、おじさんと翔太の手を取る。
ブランは空いた方の手で翔太が抱えている。
「じゃ、行くわよ」
俺たちは、舞子の合図で、ポータルに踏みこんだ。
◇
俺たち一行は、ケーナイのポータル部屋に出た。
いつもここにいる係官、犬人ワンズは、俺と舞子の顔を見ると笑顔を見せた。
「聖女様、シローさん。
ケーナイへお帰りなさい。
みなさん、お待ちかねですよ」
「ま、舞子、この方、み、耳が……」
「お母さん、うろたえないの。
ここは、獣人の世界よ。
耳があるのが当たり前なの」
「そ、そうは言ってもねぇ……」
舞子のお母さんは、地球にいた時、獣人の映像を見ているんだが、実際に目にすると、やっぱり驚くもんだね。
ワンズが、出口のドアを開ける。
狐人コルネと犬人アンデが入ってきた。
「聖女様、お帰りなさい。
ちょっと、上が大騒ぎになっておりまして、鎮めに上がっておりました」
コルネは俺の方をチラッと見たが、何も言わない。何か機嫌を損ねてる気色だ。
俺はアンデと握手した。彼が俺の耳元でささやく。
「コルナさんが一緒じゃないんで、お冠なんだ」
なるほど、そういうことか。
「コルネ、この後コルナを迎えに行くんだが、ついてくるかい?」
「いえ、結構です。
ほんとに、もうっ!
お姉ちゃんを放っておいて、こんなに長いこと、どこに行ってんのよ!」
「俺、聖樹様のお導きで、元の世界に帰ってたんだけど、いけなかった?」
「せ、聖樹様!」
コルネは、頭を下げ祈る姿勢で、その言葉を口にした。
「す、すみません。
失礼な事をいたしました」
彼女の態度が豹変した。
「そうだ。
ちょうど、君に相談したいことがあったんだ。
舞子の家まで、来てもらえるかな?」
「はい、うかがいます」
素直なコルネは、ちょっと気持ち悪いぞ。
「では、皆さん、こちらへ」
アンデが先に立ち、俺たちは地下から地上へ出た。
俺たちが地上に姿を現すと、広場を埋めつくした群衆から、凄い歓声が押しよせた。
どこかで歓迎の音楽が鳴っているが、それが、ほとんど聞こえないほどだ。
「史郎君、なんだね、これは?」
舞子のおじさんが、周囲の音に負けないよう、声を張りあげる。
「住民が、舞子さんを歓迎しているんです」
「えっ!
映像では見たことあったが、こんなに凄いのか」
おじさんが呆れている。
「お父さん、お母さん、こっちに来て。
エミリーと翔太君も、私の後についてくるのよ」
ブランが翔太の腕から俺の肩に跳びうつる。
この猫っていうか、スライム、すごく頭が良くないか?
舞子たちが演台に立つと、歓声がさらに高まった。
余りにうるさいので、俺は耳を一部シールドで覆った。
「皆さん、ただいま帰りました。
この度は、聖樹様のお仕事で少し留守にしていました。
私の世界に立ちよりましたから、親しい人を連れてきました」
彼女が言葉を切る。群衆は静かに次の言葉を待っている。
「私の友人と両親です」
一斉に歓声が上がる。
「聖女様ー」
「ご母堂ー」
「御父上ー」
なんか、よく分からない呼び方も交じっている。
「では、愛すべきグレイルの方々、この度もよろしくお願いいたします」
舞子が頭を下げ、舞台を降りる。
拍手と歓声は、それでも止まなかった。
「私、鳥肌が立っちゃった」
渡辺のおばさんは、少し震えている。
おじさんは、目に涙を溜めていた。
「お前、この世界の人たちに、本当に愛されているんだなあ」
「もう、改めて言わなくていいの、お父さん。
恥ずかしいじゃない」
俺たちは、その後二台の馬車を連ね、郊外にある舞子の屋敷に向かったが、町を出るまで道沿いには隙間なく人々が並んでいた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回、史郎は、やっとのことで家族の元へ。
明日へつづく。




