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ポータルズ ー 最弱魔法を育てよう -  作者: 空知音(旧 孤雲)
第8シーズン 地球訪問編
324/927

第322話 地球訪問編 第36話 ハーディ卿

 ハーディ卿が史郎たちを招いた、真の目的とは。


「改めて紹介させてもらうよ。 

 私がジョン=ハーディだ」


「初めまして、シローです」


「君の活躍は、調べられるだけ調べたつもりだよ。

 まさか、異世界から帰ってきた人物に、こうして会えるとはね」


「あなたは、異世界の存在を信じているのですね?」


「もちろん、最初は信じていなかったさ。

 君の友人がジャンプする映像の時点ではね」


 温和な顔にそぐわぬ、鋭い目が俺に向けられる。


「しかし、〇〇大学に持ちこまれたカードが、私の常識を覆したよ。

 あれは君が作ったモノなんだろう?」


「ええ、まあそうですね」


「どうやって作ったか教えてもらってもいいかな」


「それくらいならば。

 俺の魔法で作ったんですよ」


「魔法……魔法ねえ。

 本当にそんなものがあるなんて」


「この世界には無いかもしれませんが、ポータルズでは魔術なんか普通ですよ」


「その『ポータルズ』とは何かね?」


「ポータルで繋がった世界群の事ですね」


「ポータルと言うのは?」


「世界間を結ぶドアのようなものです」


「ほう! 

 それなら、私でも、そこを通れば異世界に行けるのかね?」


「いいえ、無理ですね。

 この世界には、ポータルがありませんから」


「しかし、君は異世界に行ったのだろう?」


「この世界にも、ごく稀にポータルが開くことがあって、たまたまそれに巻きこまれました」


「だけど、君が再びこちらの世界に帰ってきてるってことは、ポータルが開いたってことじゃないのかい?」


「詳しくは話せませんが、ポータルが無いという事だけは言っておきます」


「そうか。

 あちらに行くことはできないのか……」


「招待状では、俺のルビーに興味があるということでしたが?」


「ルビー? 

 あ、ああそうだったな。

 見せてもらえるかな?」


 俺は点収納からルビーを包んだ布を出し、机の上に置いた。

 ハーディ卿が合図もしないのに、「スティーブ」と呼ばれた執事が現れる。


 執事は、宝石商が宝石を調べる時に使う眼鏡と白手袋を着け、布を開く。

 赤い宝石が現れた。

 ハーディ卿が息を飲む。執事は手が震えている。

 五分ほど石を調べた後、執事が大きく息を吐きだした。


「本物の自然石でございます」


 ルビーは、人工で作れるらしいからね。


「という事は、世界最大だな……。

 シローさん、入手経路などは教えてもらえないんでしょうか?」


「ええ、教えられません。 

 万一教えたとしても、地球の方には理解できないでしょう」


 まあ、『真竜の宝物ほうもつ』とか言われてもねえ。


「ああ、そうでした。

 ご友人方は、一緒じゃないのですか? 

 ご招待は、『初めの四人』宛てに送らせていただきましたが……」


「彼らをこの部屋に呼んでもいいですか?」


「ええ、それが可能なら、ぜひお目にかかりたいものです」


 俺が指を鳴らすと、畑山さん、舞子、加藤が現れた。

 舞子の肩には、白猫が乗っている。

 彼らには瞬間移動前に、念話で確認をとってある。

 トイレにでも入ってたら大変だからね。


 ハーディ卿は、突然現れた三人と一匹に言葉も無い。


「おい、ボー、この人が?」


「ああ、ハーディさんだ。 

 ハーディさん、これが俺の友人、畑山、渡辺、加藤です。

 これは、俺が飼っている猫でブランといいます」


「はじめまして、畑山です」

「渡辺です。

 こんにちは」

「加藤です。

 ニューヨークは初めてです」

「ミー」


 ブランも、特徴ある高く細い声で挨拶した。


「旦那様」


 凍りついたように動かないハーディ卿に、執事が声を掛ける。


「あ、ああ、私がハーディだ。

 すまない、心の準備は出来ていたはずなのに、あまりに驚いてしまってね。

 本当に日本から来たのかい?」


「ええ、日本からです」


 畑山さんが、代表して答える。


「君たちも、シローさんのような能力が?」


「すみませんが、能力の話はできないんです」


 畑山さんが、穏やかな、それでいて、きっぱりとした口調で言う。


「そ、それは、そうでしょうな」


「ボー、もう用件は済んだんだろう。

 カニ食いに行こうぜ、カニ!」


 加藤が、傍若無人ぶりを発揮する。


「あ、ちょ、ちょっとお待ちください!」


 ハーディ卿が慌てている。俺たちは一瞬で移動できるからね。


「実は、あなた方に会っていただきたい者がおりまして」


 誰だろう?


「ハーディさん、そちらがご招待の本当の理由ですね」


「ど、どうしてそれを……」


 どう見てもバレバレでしょう。


「じ、実はそうなのです。 

 しかし、それを理由にしたら、来ていただけないかと思いまして」


「俺たち、前からニューヨークに来てみたかったんですよ。

 あなたからのご招待がなくても来てたと思います」


「そう言っていただけるとありがたい。

 ささ、どうぞこちらに」


 彼は、いそいそと俺たちを案内する。

 ドアが無い造りの邸内を少し歩くと、淡いピンク色のドアが現れた。


「エミリー、皆さんが来てくださったよ」


 ハーディ卿がドアをノックする。


「お父様」


 声がしてから少し時間をおいて、ドアが開けられた。


 部屋から現れたのは、十二、三才だろうか、ブロンドの髪をした、白人の少女だった。

 頬に少しそばかすがある。

 そして、愛くるしい顔にあるその青い目は、どこか遠くを見ていた。


 少女が、手を前に伸ばす。

 ハーディ卿が、その手を取った。


「娘のエミリーです」


「初めまして、エミリー」


 俺たちが口々に挨拶する。


「まあ! 

 本当にいらっしゃったのですね。

 異世界に行かれた方が」


「ハーディ卿、エミリーさんは目が……」


「シローさん、その通りです。

 この子は目が見えません」


 ハーディ卿の声は苦悩に満ちていた。


 ◇


 俺たちは、エミリー、ハーディ卿と共に、明るいテラスに置かれた布を張った円筒形の椅子に座っていた。


 そこは、エミリーの部屋近くにある空間で、下は板張りになっており、多くの花が、鉢やプランターで育てられていた。

 よく見ると、花々に混ざり、雑草にしか見えない植物も植えられている。


「近くの野原で、エミリーが見つけてきたものなんです」


 俺の視線が鉢植えを見ていると気づいた、ハーディ卿が説明してくれる。


「娘は、植物の声が聞こえると言うのですが……」


 俺はある可能性に思い至ったが、黙っておいた。 

 それを話しても、彼らを混乱させるだけだからだ。


 エミリーは、自分で歩いて椅子に座った。

 おそらく、その椅子はいつもその位置に置いてあるのだろう。


「私があなた方に会いたいと思った最大の理由は、異世界の力で、この子の目が治せるのではないかと考えたからです」


 ハーディ卿が、『初めの四人』を招待した本当の目的を明かした。


 俺たちは顔を見合わせる。

 確かに、舞子の力を使えばエミリーは治るかもしれない。

 しかし、そのことが世間に知られたら、世界中の権力者が、ありとあらゆる手段で舞子を手に入れようとするだろう。

 そうなると、取りかえしがつかない。


 恐らく権力者は、舞子の家族にまで手を伸ばすに違いない。

 舞子一人なら異世界に帰ってしまえば終わりだが、後に残る家族の事を思うと、到底受け入れられる事では無かった。


 畑山さんが、ゆっくりと話しはじめる。

 恐らく、エミリーにも聞かせるつもりなのだろう。


「ハーディ卿、我々は、確かにこちらの世界に無い力が使えます。

 しかし、それとても万能ではありません。

 残念ですが、お嬢様を治すことはできません」


 エネルギーに満ちたハーディ卿から、それがごそっと抜けたように見えた。

 さっきまでより小さく思えるその体は、どこにでもいる年老いた男のものだった。


「お父様、私は目が見えなくても大丈夫」


 エミリーが、しっかりした声で言う。

 彼女の声には、こちらの心を温かくする響きがあった。


「私には友達がこんなにいるし、遠くからもお友達が来てくれます」


 彼女は、「友達」のところで植木鉢やプランターを、そして俺たちの方を手で示した。


「エミリー……」


 ハーディ卿の目は、涙で濡れていた。

 いつもお読みいただきありがとうございます。

ハーディ卿が史郎たちを招いた本当の目的は、愛する娘の病気を治すためでした。

次話、思わぬことが、『初めの四人』とエミリーの身に降りかかります。

 明日へつづく。

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