第308話 地球訪問編 第22話 勇者の体力測定(下)
いよいよ、勇者の体力測定も、100m走を残すのみ。
どんな測定結果が出るのでしょう。
加藤の体力測定は、垂直飛びの結果待ちまで進んだ。
俺が計測者たちの方を見ると、加藤が最高点で離したヒモの周りに人が集まっている。
俺はそこに近づき尋ねる。
「何かトラブルでも?」
青い顔をした中年の男性が、弱々しい声で答えた。
「あんなスピードでヒモが引っぱられなんて思ってなくて……」
彼が指さした所を見ると、ぐちゃぐちゃになったヒモの塊があった。
きっと加藤がヒモを引くスピードが速すぎたため、その摩擦でひき起こされた結果だろう。
俺は、翔太君に事情を話した。
「垂直飛びの結果が出ました。
計測器の不備により、測定不能」
翔太君のアナウンスが流れても、会場からは不満の声さえ漏れなかった。
◇
いよいよ、最後の測定、百メートル走になった。
アメリカから来た計測者に、黄緑騎士がいろいろ説明しているようだ。
「シローさん、この人が、どうしても映像を撮らせてくれって」
黄騎士が俺に話しかける。
双子の緑騎士と区別できるように、髪に黄色のリボンを結んでもらっている。
俺には多言語理解の指輪があるから、通訳は必要ないんだけどね。
「契約を守る気がないなら、お金は返すからすぐに帰ってください、って伝えてくれる?」
「いいの?
そんなこと言って。
落札金額一億円なんでしょ」
正確には百万ドルなんだけどね。
「構わない。
すぐにそう言ってくれ」
黄騎士が話しかけると、鷲鼻が目立つ白人の男性は、露骨に嫌な顔をした。
正直なところ、俺は全く気にならなかった。
土壇場にきて約束破りをするような相手との関係が悪くなっても、痛くもかゆくもない。
白人男性は、四人のスタッフを連れ、百メートル走の競技場に向かった。
スタッフの一人が地面に固定するスターティングブロック、もう一人がピストル、もう一人が白いヒモを持っている。
約束破りをしようとした男がストップウォッチを手にしている。それを見た俺は、思わずニヤリとしてしまった。
『(・ω・)ノ ご主人様が悪い顔ー』
いや、点ちゃん、今のは俺も認めるよ。悪い顔してました。
『つ( ̄д ̄)』(作者注:に、似てる!)
ひどっ! そこまで悪い顔でしたか。反省しよう。
点ちゃんとおしゃべりしている内に用意は整ったようだ。
「それでは、最後の計測、百メートル走です」
肩にブランを乗せた翔太君の声が、会場に響く。
「キャーっ!
猫と王子!
写メ取りたい~」
「猫プリンスー!」
「にゃんにゃんプリプリ~♪」
年齢不詳の変な声も交じっているが、聞かなかったことにしよう。
翔太君が笛を吹いた。
加藤は、スターティングブロックを使わないらしく、力を抜いて立っているだけだ。
ピストルを持った計測者の手が上がる。
「On your mark」(位置について)
「Set」(用意)
パンッ
加藤は油断したのか、ピストルの音から一呼吸出遅れた。
しかし、そこからが、さすが勇者だった。
ブウンと彼の体が霞むと、次の瞬間、競技場の向こう端にいた。
ゴールの白いヒモがたなびいているところを見ると、きちんとゴールラインを通ったようだ。
鷲鼻の白人が呆然としている。
俺は傷口に塩をすりこもうと、彼に近づいた。
「記録は取れましたか?」
男はまっ青な顔をしている。
それはそうだろう。
百万ドル掛けた結果が、「記録は取れませんでした」では、言い訳のしようもないだろう。
彼があんな申し出をしなければ、俺は光学式の計測器を使うようにアドバイスしたかもしれない。
今となっては、「たられば」の話だ。
俺が手を上げ、翔太君に合図すると、彼は再び演台に登った。
「百メートル走、計測不能。
これにて全ての測定を終了とします。
今日は、来てくれてありがとう。
みんな気をつけて帰ってね。
D区画に座ってる人は、まだ帰っちゃだめだよ」
D区画に座ったピンク白の集団が歓声を上げる。
この後、彼らを含め慰労会が予定されている。
ここに来て初めてそのことを知った者もいるようで、狂喜乱舞していた。
本番より打ち上げの方が盛りあがるってどうよ?
『体力測定』が無事に終わり、俺は心底ホッとしていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
結局、勇者の体力測定は、全て計測不能でした。
『( ̄ー ̄)つ ねえねえ、作者。
作者は、勇者の能力がよく分かってないんじゃないの?』
ぎくっ。
て、点ちゃん、そんなことはないよ、そんなことは、うん。
『(*ω*) この作者……ご主人様に似てる』
あ、点ちゃん疑ってるね、作者を疑ってる。
この際、奥の手を出そう。
『(?ω・) 奥の手?』
必殺、「明日へつづく」
『(・x・) ……』




