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ポータルズ ー 最弱魔法を育てよう -  作者: 空知音(旧 孤雲)
第1シーズン 冒険者世界アリスト編
26/927

第25話 レッドドラゴン -- 点魔法無双 --

 今回は、戦闘シーンをリズムよく読んでいただくため、やや長文となっております。

攻撃魔法として、点ちゃんの力の一端が現れるお話になっています。

戦闘シーンが苦手な方は 「◇」で5部分に区切っていますから1番目と5番目のみお読みください。

 後書きには畑山さんから史郎への突っこみもあります。どうぞお楽しみに。


 なんか家が賑やかなことになった。

 さすがに全員で来ることはなくなったが、キツネグループの若い衆が交代で家事をしに来る。

 最初は、どんなものかって思ってたけど、みんな意外に真面目に働く。敷地内でたばこを吸う者もいない。まあ、小さな子供がいるから、当たり前なんだけどね。

 若い衆の彼女や奥さんも、手伝いに来てくれる。女手があると助かるんだよね、子供たちが女の子だから。


 中には娼婦や酒場の女もいるけれど、俺もルルも、そういう人に偏見がないから何も問題なし。子供がいる者もいて、その子らがナルとメルのいい遊び相手になってくれる。


 あれ以来、ゴリさんとタルは、子供達からお馬として引っぱりだこだしね。おかげで、ルルと一緒にギルドの依頼を受けられるようになった。収入が上がり、生活も安定してきた。

 若い衆をねぎらうのに、時々バーベキューやパーティをしてるから、それほど余裕があるわけじゃないんだけどね。


 ボスはグループの仕事を、今までの裏稼業から何でも屋のような表家業にシフトしつつある。俺の家族に、恥ずかしい思いをさせたくないからだそうだ。


 そういうところは、きちんと考えてるんだね。


 ◇


 そんなある日の夕方、史郎がギルドから帰ってくると、リビングに人が集まっていた。


 毛布を敷いたソファーの上に、血だらけのゴリさんが横たわっている。ナルとメルが心配顔で、彼の足を撫でている。


「何があったんだ?」


 ゴリさんの横にひざまずいていたボスが、悔しそうな顔をしている。


「レッドドラゴンのやつらが、シマを荒らしに来たんでさ」


 キツネも顔を腫らしている。


「アニキは、旦那の家族に迷惑がかかるって、一切手を出さなかったんでさ」


 それで、サンドバッグとして殴られたと。そうですか、そういうことですか。


「おい、キツネ、そいつらどこにいる?」


 キツネが、ギョッとした顔をする。


「旦那、いくら旦那でも、相手が悪い。

 あいつら、宮廷魔術師ともコネがあるみたいなんでさ」


 まあ、そんなこと異世界人の俺には関係ないからな。


「冷静に話をするだけだ。

 そこまで連れてけ」


 キツネが、しぶしぶ承諾する。


「ルルは、ゴリさんについていてやってくれ。

 すぐ帰ってくる」


「旦那様、お気をつけて」


 ルルはにっこり微笑むと、ゴリさんの頭にのせた濡れタオルを取りかえにかかった。

 完全に信頼されちゃってるね。ま、何とかなるでしょ。


 こうして俺は、キツネと一緒に、レッドドラゴンの拠点に向かった。


 ◇


 レッドドラゴンの根城は、町の反対側にあった。


 かなり大きな石造りの建物だ。大通りに面していることからも、彼らは羽振りがいいとわかる。

 キツネはそこで帰らせた。


 変装のため、路地裏で口ひげを付ける。頭には、この町に多いブロンドのかつらをかぶる。


 入り口には、制服を着た警備員が二人立っていた。

 持ち前の茫洋とした顔を利かせ、微笑みながらゆっくり近づく。服装は、貴族らしいフォーマルなものだ。


「ライスに言われて来たんだが」


 キツネによると、ライスというのは、レッドドラゴンのボスが右腕として使っている男だ。ゴリさんたちを襲ったグループのリーダーが、ライスだそうだ。


「あ、どうぞお入りください」


 ちなみに、あるコネを使い、この時間に本当に貴族が訪れるように工作してある。まあ、彼は急病で来れないけどね。


 玄関を入ると、吹きぬけとなったホールで、巨大なシャンデリアが輝いている。赤絨毯が二手に分かれ、二階に続いている。

 三階建てなので、まず三階から探そう。馬鹿は、高い所が好きって言うもんな。


 三階の廊下には、ことさら毛足が長い絨毯が敷きつめられている。

 こりゃ、よっぽど悪いことしてるな。

 ちょうど二つ向こうのドアが開き、ガラの悪い男が出てきた。


「会頭は、どこだい?」


 レッドドラゴンのボスが、自分のことを「会頭」と呼ばせているのも調査済みだ。


「おめえ、誰だ」


「ああ、それより、お前の名前は?」


 奴は、貴族らしい俺の格好を値踏みするように眺めていたが、結局こちらが上級貴族であるという場合を考え、心を決めたようだ。


「ライスですが。

 何の御用件で?」


 お、いきなり当たりだね。こいつなら確実にボスの居所を知っている。


「宮廷魔術師に関することなので、内密に伝えたい。

 空いてる部屋はあるか?」


「ええ。

 そういうことでしたら、こちらへ」


 ライスは、すぐ前にある部屋のドアを開ける。先に入れと身振りをしてくる。

 背中を見せたくないのか。用心深いな。


「で、お話は?」


 まず、ライスの右手の神経伝達を遮断する。 


「うっ」


 ライスは、急に腕が動かなくなって驚いている。まあ、普通は驚くよね。


「どうかしたのか?」


「う、腕が動かねえ」


「もう一つの腕も動かなくしてほしいか」


「てめえ、誰だっ!」


 ライスは、必死に左手で、ズボンの右ポケットから何かを取りだそうとしている。

 それって難しいよね。

 その左腕も急に動かなくなった。


「会頭の部屋を教えてくれたら、足は勘弁してやるが」


「うるせえっ! 

 みんなっ、襲撃だ!」


 ドアに向け突進したライスが、床に倒れこむ。右足が動かなくなったからだ。


「まだ話さないか?」


 ライスは、さすがに怯えた表情を見せたが、まだしゃべりそうにない。

 右目の視力を奪う。


「や、やめてくれ。

 話す、話すから」


「やれやれ。

 で、どこなんだい?」


「さ、さっき俺が出てきた部屋だ」


 嘘を言ってる可能性もあるが、そのときはまたやりようがあるさ。


「じゃ、しばらくじっとしてろよ。

 命までは取らないからな」


 カーテンを割き、手足を縛るひもと目隠しを作る。それほどきちんとは縛れないが、一時的なもので十分だからね。

 次いで、左目の視力を奪う。目隠ししてるから、気づくのは助けられた後になるだろうけどね。

 薄くドアを開け、そっと廊下をうかがうが、人が駆けつける気配はない。建物に金をかけ、きちんとした造りにしたのがあだになったな。


 廊下へ出ると、さっきライスが出てきた部屋のドアを開ける。

 バカでかい机の後ろに革張りの椅子があり、背の低い初老の男が座っている。警備のためだろう、がっしりした大柄の男が両脇に立っている。


「おいっ、何の用だ!」


 左側の男が叫ぶが、こちらは躊躇がない。

 三人の視力を一気に奪う。


「なっ、どうしたっ、早く明かりをつけろ!」


 勘違いして叫ぶ会頭の右手から力を奪う。声も奪っておく。


 一階のロビーに降りると、窓際のカーテンに隠れ大声で叫ぶ。


「襲撃だ!

襲撃だぞ!

 敵は一階ロビーだ!」


 レッドドラゴン構成員が姿を見せるたび、両目の視力と右腕の力を根こそぎ奪う。

 あらかた片づいたところで、正面玄関のドアを開け、外へ出る。

 入り口の警備員は、関係者ではなさそうなので、そのままにしておく。


「大変だ!

 襲撃だぞ!」


 叫びながら二人の間を駆けぬける。顔を見あわせた警備員が、建物内に駆けこむのが見えた。


 スラム地区を通りながら、カツラと貴族服を投げすてる。ここなら必ず誰かが拾って自分のものにするからね。

 冒険者の服に戻った俺は、最後につけヒゲを用水路に投げこんだ。これはキツネに紹介された怪しい道具屋で、「かわいいおヒゲに女性を引きつける魅力を付与」っていうキャッチフレーズで売っていたものだ。つけ髭にそんなキャッチフレーズを付けるなんて面白い奴がいる。


 俺が家に帰ると、皆がほっとした表情を見せた。ルルだけは、無事で当然って感じだったけどね。


「キツネ、お前の言ってた建物に入ろうとしたら、誰かがレッドドラゴンを襲撃してて、大騒ぎだったぞ」


 キツネは、疑わしそうな目で史郎を見たが、何も言わなかった。


 ◇


 あー、なんでレッドドラゴンたちの右手から力を奪ったかって?


 右手が動かない無抵抗のゴリさんを攻撃したからだね。今まで周囲に暴力を振りまいていたやつらが、視力と右手の力を失えばどうなるか。

 当然、復讐されることになるだろうね。そして身をもって己が行ってきたことを知ることになるだろう。


 え? なぜ視力まで奪ったかって? 

 目が見えたら、こちらを探される恐れがあるからね。ナルとメルのためにも、そんな危険は冒せないでしょ。


 魔術で治されたらどうするかって? 

 今回は視神経の深いところを切断したからね。眼球にどんなに治癒魔術を施しても視力は戻らないよ。この国の医療水準と、魔術師が目を負傷した者にどういった治療を施すか、この二つの事から判断したんだけどね。


 こうしてレッドドラゴンを巡る一連の騒動は、幕を閉じた。

 以前は、ルルを畏怖していたキツネグループが、彼女以上に俺を怖がるようになったのは、ちょっと困ったけどね。


 右手の件で何かに気づいちゃったかな。


 ◇


「どうしてだ! 

 いったい何が起きたんだ!」


 コウモリのような顔の男が、力まかせに机を叩く。

 インクのツボが転がり、そこら中に染みをつくるが、男にはそれを気に掛ける余裕さえなかった。


 <作者註:読者は、この男を覚えているだろうか。史郎達四人が初めて町へ来たとき、指輪を通し盗聴をおこなっていた宮廷魔術師だ>


 レッドドラゴンと結び、この町の裏社会を牛耳る計画は、もうすぐ成就するはずだった。それが、どうしてこのような結果になったのか。


 男の前には神経質そうな若い男が立っていた。うりざね顔のこの男も、宮廷魔術師のローブを着ている。

 コウモリ男の計画が成就したあかつきには、彼も甘い汁のおこぼれにあずかるはずだった。

 今では、この男の下についたことを、心の底から後悔していた。


「まだ、犯人の目ぼしはつかないのか!」


 コウモリ男の唾が顔にかかる。それをローブの袖で拭いながら答える。


「候補は、何人かいます」


「ならば、さっさとそいつらを調べ上げろ」


「それが、いずれも証拠が不十分です。

 むしろ、彼らの無実を証明する証拠が次々と出てくる始末で」


「さらってでも、調べんかっ!」


 コウモリ男のこめかみの血管は、青く膨れあがり、今にも破裂しそうだ。


「一番有力な容疑者がいるのですが……。

 事件直前に建物に入った男で、二人の警備員の証言もあります」


「そこまで分かっていて、なぜ捕えられん!」


「それが、この男に接触しただろう、ライスと会頭が、声と視力を失っております」

 

「何っ!」


「調べてみると、魔術の痕跡は見つかりませんでした。

 未だに原因が分かりません」


「治癒魔術で回復させればよかろう」


「建物にいたレッドドラゴンの構成員全員が視力を失っております」


「な、何だと?!」


「声まで出せなくなったのは、会頭とその身辺警護人二名、ライスの合わせて四人だけです」


 若い魔術師は、事実を淡々と述べることに決めたようだ。


「今、可能な限り魔術師に治療させておりますが、誰一人、症状が改善されません」


「魔術ではなくて、どうやったらそんな事ができるんだ」


「小さな外傷か、毒が原因かもしれません。

 これも、まだ調査中です」


「魔術で治らないとなると、時間と金はかかるが、薬師か錬金術師を頼まねばなるまい」


 コウモリ男には、魔術にわずかな望みもあった。

 聖女だ。

 けれども、今回の騒動で司直の手がレッドドラゴンに入った今、彼らの治療に聖女が派遣される可能性は、絶望的だった。

 それどころか、いつ司直の手が自身の身に伸びてもおかしくない。そうなれば、身の破滅だ。

 早々に手を打とう。


「レッドドラゴン関係者の所在はつかめているか?」


「把握しております」


「うむ……全員消せ」


「は?」 


「全員、殺してしまえ。

 こちらとの繋がりは、奴らの証言しかない。

 それともお前は、座して死を待つか?」


 レッドドラゴンとの関係がばれれば、自身はもちろん、貴族である実家にも類が及ぶだろう。それだけは、なんとしても避けねばならない。


「わ……分かりました」


 この瞬間、うりざね顔の若い魔術師は悪魔に魂を売りわたした。


 いつもお読みいただきありがとうございます。

今回は、あの方が、言いたいことがあるということで、登場してもらいます。

 聖騎士の畑山さん、どうぞ。


「……史郎、いくらなんでもこれはやりすぎじゃない?」

「そ、それは……」

「全員やっつけるってねえ。しかもやり方がかなりえげつなくない?」

「彼らが、暴力を売り物にしているのは前に話したよね?」

「そうだったわね」

「暴力を売り物にするなら、当然、暴力を振るわれる覚悟がないといけないよね」

「ま、まあ、それはそうかもしれないけど……」

「そういう輩に容赦する予定は、今後も無いよ」

「そうはいってもねえ……まあ、いいや。次も何かしたらつっこむからね」

「えっ……お手柔らかに頼みますよ」

「それにしても今回は、ひどいわ」


 畑山はぶつぶつ言いながら去っていった。





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